第24話 二年生の学校生活、とっても【キラメイター】?

文字数 5,714文字

 月曜日の朝が来た。
 昨日の内に雨は止んだらしく、雲の間から、青空が見えていた。

 三隈は、いつも通り朝のルーティーンを済ませて登校した。

 今日は、前回より登校時間の短縮ができた。明日から、もう少し遅く出発をしてもいいかも知れない。

 ロッカーにリュックを置いた後、トイレで髪を整えてから教室に戻り、朝の読書用の本をロッカーから取り出し、自分の席に座って読み始めた。

 予鈴が鳴った後、例のやんちゃ集団が登校してきたが、その中に麗子の姿はなかった。そして、本鈴が鳴った後も、麗子は教室に現れなかった。今日は欠席のようだ。

 三隈は、麗子に対して意地の悪い事を言い過ぎたのかもしれないと反省していた。

 今日は、午前は身体検査、午後は授業だ。

 

 お昼休みになり、三隈がお弁当を食べようとしたとき、クラスの女子二人から一緒に食べようと誘われた。

 先週、麗子が来たため遠慮していた二人だ。三隈は断る理由もないので、応諾した。

 机を寄せた後、三人は弁当箱が入った巾着袋やポーチを机の上に載せた。

 二人が出したポーチのデザインを見た三隈は、思わず声を出した。

 「えっ、そのポーチ、とってもかわいい」 

 二人は、一瞬顔を見合わせてから、

 「「三隈さん、これ知っているの、嬉しい」」

 と、声を揃えて言った。

 二人のポーチには、【よにんはキラメイター】のキャラクターがデザインされていた。

 「蘭さんのが、キラメキソーラー、みなみさんのが、キラメキルナだったかな」

 「すごーい、キャラ知ってるんだ~」

 「三隈さん、大人びているから、こういった子供っぽいものに関心がないと思い込んでいた」

 「そんなことないよ~、私も【よんキラ】はよく見るよ。お話は後ですることにして、まずお昼を食べましょう」

 そう言って、三隈は巾着袋から弁当箱を取り出した。二人もポーチから弁当箱を取り出した。
 三人は手を合わせて、いただきますと言ってから食べ始めた。

 三隈が弁当箱を開けると、二人が驚いた顔になった。

 「ガッツリ系なんだ、三隈さんは」

 と蘭が言った。

 三隈の弁当箱の中は、鶏肉のトマトソース焼きがほとんどを占めていたため、二人が驚くのも無理はなかった。

 「最近太りぎみだから、糖質制限ダイエットをしているの」

 と、三隈はいった。
 それを聞いた、みなみが、

 「えっ、お肉とか食べて痩せることできるの」

 「うん、できるよ。お弁当食べ終わったら教えてあげるね」

 三隈はそう言って、弁当を食べ始めた。
 二人も、三隈に合わせるように、弁当を食べ始めた。

 三人が弁当を食べ終わった後、糖質制限ダイエットや、【よんキラ】の話で盛り上がって、あっという間に昼休みが過ぎていった。

 五時間目の予鈴が鳴って、二人は、明日も一緒に弁当を食べましょうと言って、自分の席に戻っていった。

 三隈も弁当箱をリュックに仕舞い、五時間目の授業で使う教科書やノートを取り出して、席に着いた。


 


 放課後になり、三隈は駐輪場に着いて、スクーターのリアボックスにリュックを入れて蓋を閉めた後、ふと視線が麗子のスクーターが止まっていた場所で止まった。

 そこは、誰も自転車を停めていないため、ぽっかりと空いていた。
 主がいない寂しい光景だった。

 三隈は、改めて麗子にひどい事言ってしまったと、反省した。


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 次の日、三隈は、いつも通り登校した。
 昨日より遅い時間に家を出たのに、同じ時刻に学校に着いた。また登校時間が縮まったようだ。

 三隈は、自分の席について、朝読書用の本を読んでいた。

 予鈴が鳴った時、周囲がざわついたのて顔を上げると、教室の出入口から麗子が入ってくるのが見えた。

 麗子は先週と違い、制服のスカート丈を膝が隠れるくらいに伸ばし、ブラウスのボタンとリボンタイをキチンと留めていた。
 髪の毛は黒染めしてキレイに梳(す)いて、後ろにまとめてた。

 クラスのみんながざわついていたのは、麗子が制服や髪型を校則通りにしていたからだった。

 麗子は三隈が座っている席の方へ歩いてきた。
 そして、席のそばで立ち止まると、三隈の名前を呼んだ。

 三隈は顔を上げて麗子の顔を見た。
 麗子は、恥ずかしそうに顔を赤くしていたが、三隈を見ると笑顔になって言った。

 「諫早さん、アタシ、約束通りちゃんと普通の格好をしてきたよ。これでお友だちになれるよね」

 麗子は、そう言って、教室後ろにあるロッカーへと歩いていった。

 三隈は、その姿を唖然として見送った。
 そして、視線を感じたので姿勢を戻すと、クラスの全員が三隈を見ていた。

 三隈が見ていることに気づいた彼らは、慌てて視線を本に移した。

 - やれやれ、麗子のせいで、一気に“有名人”になったみたい。諦めるしかないか・・・ -

 三隈は、憂うつな顔をして小さなため息を吐いた後、また本を読み始めようとした。
 でも、さっきの出来事の印象が強すぎて、本の内容が全然頭に入らなかった。
 三隈が麗子にあれだけ無理難題を言ったはずなのに、その通りにしてくるなんて想像すらしていなかった。

 今日も、長い一日になりそうだ。

 

 昼休みになった。

 三隈は、ロッカーに置いたリュックから弁当箱を取り出し、自分の席に戻った。

 さっそく、麗子がコンビニ弁当を持って、三隈の席にやった来た。

 「三隈ちゃん~、一緒に弁当食べようよ~」

 「いいけど、先約があるから、彼女たちに麗子さんが一緒でいいか聞いてからね」

 そう言って、三隈は麗子の後ろにいる、二人の女の子に声をかけた。

「蘭ちゃん、みなみちゃん、麗子さんがご一緒したいと言っているけど、イイかな」

 名前を呼ばれた二人は、一瞬嫌な顔をしたが、麗子が振り向いて自分たちの方を見たので、むりやりつくり笑顔にして、OKの返事をした。

 麗子は、二人にお礼を言って、早速三隈の向い側の席に座ろうとした。
 三隈は、それを押し止めて、自分が立ち上がった。

 三隈は、周囲を見て、隣の席が空いているのを確認して、自分の机を動かし、隣の席とくっつけた。
 三隈の席の反対側に麗子を座らせ、その隣にみなみ、斜め向かいに蘭が座るようにした。
 みなみはちょっと不満そうな顔をしたが、誰かが我慢してもらうしかない。

 四人は、椅子に座って弁当を机に置いて、早速食べ始めた。

 麗子は、食べるのが早いのだか、今日は三隈や他の二人に合わせて、ゆっくり食べていた。それでも、麗子が最初に食べ終わり、三隈に話しかけた。

 「ねえ~、三隈ちゃん~、私の制服姿、似合ってるかな~」

 三隈は、箸を止めて麗子に言った。

 「うん、似合ってると思うよ。まだ食事中だから、もう少し待ってね」

 三隈は、ややぶっきらぼうに言った。

 三隈にとって、麗子との関係は学校の外だけにしたかったのだが、麗子が三隈が言った要求通りに服装を変えてくるなど想定外の行動を取ったため、不機嫌だった。
 その気持ちを押さえようとしているが、つい、言葉の端々に不機嫌さが出てしまう。

 麗子は隣に座っているみなみに声をかけた。

 「みなみさんは、アタシが来ている制服、似合ってると思う」

 みなみは、弁当箱をポーチに仕舞う手を止めて、麗子を見た後小首をかしげて答えた。

 「うーん、よく分かんない。でも、校則を守るのは、いいことだと思う」

 「うん、ありがとう」

 麗子は返事をしてくれたみなみにお礼を言って、ペットボトルのお茶を一口飲んだ。
 そして、蘭にも同じ質問をしたが、似たような返事が帰ってきただけだった。

 麗子は、内心さびしかった。

 蘭とみなみの二人は、校内では真面目で成績の良い生徒のグループに入る。彼女たちから見れば麗子はやんちゃグループに入っている“悪い子”だ。

 その“悪い子”が、自分たちのグループの輪に入ろうとしている事に、彼女たちは不愉快に思っているだろう。

 だが、麗子にだって言い分はある。

 髪を金髪に染めた後、誰も知り合いがいない学校に転校して、見た目から敬遠されて独りぼっちだった時に声をかけてくれたのが、あのやんちゃグループの子だった。

 寂しかったので、つい仲良くなったが、そのせいで他の生徒たちからは敬遠されるようになった。その結果、周囲から“不良”と見られるようになった。
 
 不良にみられるのは嫌だからといって、やんちゃグループから離れても、新しい友達ができる可能性が低い上、ヤンチャグループからも嫌われてひとりぼっちになる可能性が高かったので、今までずるずると彼らとの関係が続いた。

 そんなときに、颯爽とバイクに乗って登校してきた生徒を見かけた。

 その生徒は自分と同学年で、生徒たちから陰で“お嬢様”と言われている子だった。

 この子と友達になれれば、ヤンチャグループから自然に離れる事ができる。

 そう思って友達になろうと近づいたが、その子の返答は『真面目な格好をすれば、友達になります』という厳しいモノだった。

 麗子は、あまりに一方的で厳しい返答に反発もおぼえたが、とにかく普通にバイクの事が語れる友達が欲しかった。
 旧車會に憧れるやんちゃグループとは、バイクの話をする気にすらならなかった。

 だから、麗子は三隈の言うとおりに、制服を校則通りに着こなすようにした。
 
 だが、三隈の反応は(かんば)しくなかった。
 無理難題をふっかけたのは、友達になる気が無かったのだろう。とはいっても、麗子も言われた通りの格好をしてきた。今さら後戻りは出来ない。

 麗子があれこれ考えていると、三隈が声をかけてきた。

 「麗子ちゃん、その制服着てるってことは、覚悟を決めてきたんだね」

 「えっ・・・、ええ、三隈さんと友達になりたいから、着てきたよ」

 三隈は、しばらく無言で麗子を見つめた後、一回天を仰いでから、再び麗子を見て言った。

 「・・・分かった、これからお友達として仲良くしましょうね」

 そう言って三隈は、笑顔を見せた。

 「ホ、ホントなの」

 「ホントよ、麗子ちゃんは私の願いを聞いてくれた。今度は私が麗子ちゃんの願いを聞く番だから」

 「ホント、ありがとう・・・」

 麗子は、三隈の言葉を聞いてホッとしていた。もし三隈が受け入れなかった場合、やんちゃグループに戻っても、居心地が悪くなるのは確実だったので、本心から安堵したのであった。

 一方、三隈は、蘭とみなみが剣呑な視線で自分を見ていることに気づいていた。
 彼女たちは、"悪い子"の麗子が三隈の友達になることが不満なのだろう。

 だが、無茶な条件を出したのは三隈自身なのだ。麗子がその条件をクリアした以上、友達になる約束を破る訳にはいかない。

 三隈は、蘭とみなみの顔を見てから言った。

 「麗子ちゃんは、根は真面目だから、大丈夫よ」

 蘭とみなみは、ジト目で三隈を見た。

 「「ホントなの」」

 「ホントだよ、一緒に話をしていると、そのうち分かってくるよ、ねえ、麗子ちゃん」

 三隈は、二人の疑問に答えを出さず、麗子に振った。
 急に振られた麗子は慌てた。

 「う、うん、二人とも私を信じて欲しい。もう変なことはしないよ」

 麗子は蘭とみなみの二人を交互に見ていった。

 三人の様子を見ていた三隈が言った。

 「じゃあ、麗子ちゃんの自己紹介じゃないけど、昨日何で休んだの」

 そう言って、麗子を見た。
 その目は適当なことを言ったら許さないという目だった。
 麗子は、仕方ないという表情で、話し始めた。

 「髪の毛の染め直しと、制服の裾下げをするためだよ。髪はキレイに染めたかったから、遠くの美容院まで出かけた」

 「遠くってどこなの」

 「東京のお店に行った。そして裾下げとか制服元に戻すのにまる一日かかった。だから昨日は学校を休んだ」

 「そうなんだ、そこまでしてくれたんだ、ありがとう」

 三隈は、麗子が週末に取った行動を聞いて、頭を下げた。
 まさか麗子がそこまでやってくるとは想像していなかったから、感謝の気持ちが出てきた。だから頭を下げた理由だ

 二人の会話を傍で聞いていた蘭とみなみは、麗子が三隈と友達になるために相当無理をしたのだと思っていた。

 三隈と麗子のやり取りを黙って聞いていたみなみが、麗子の方を向いて話しかけた。

「ねえ、麗子さんって、この学校に来る前、どこの学校に通っていたの」

「東京の学校に通っていた」

「えーっ、東京なんだ。すごーい」

 三隈は、二人の会話を聞いて、みなみと蘭は、麗子を受け入れてくれるようだと安心した。
 その時、急に蘭が三隈に訊ねた。

 「三隈さんは、いつからバイクに乗っているの」

 「いつからって、先週からだけど」

 三隈の返事を聞いた蘭は、頬を膨らませた不満そうな顔をした。

 「嘘ばっかり、もっと前から乗っていたって聞いたよ」

 「えっ、そんな事ないよ。バイクが納車されたのが四月だから、それ以前だと乗るバイクがないよ」

 三隈は、三輪スクーターの納品を受けたのが四月で、それ以前にバイクで公道を走るのは物理的に不可能なのに、なぜ昔からバイクに乗っていたという話になったのか、その理由が思い当たらず戸惑っていた。

 「ウチのおばあちゃんが言っていたもん、おじょ・・・、三隈さんがバイクに乗っているのを見た人から聞いたって」

 「えっ、どういうこと」

 「だから、お、三隈さんがバイクを上手に乗りこなしている姿を見たって人から、ウチのおばあちゃんが話を聞いたって」

 「・・・」

 そこまで会話をして、三隈は気づいた。
 蘭は、旧武川村の出身だった。そのおばあさんがどこからか、三隈がオフロードバイクに乗っていた事を聞きつけたのだろう。

 話し手はおそらくあの婆さん、仁の母親だ。
 バイクの納車の時、仁とその母親にオフロードバイクを乗り回した動画を見せた事実がある。あの婆さんが周囲に、三隈がバイクに乗っていた事を言いふらしたのだろう。

 - やっぱり、あの動画みせるんじゃなかった・・・ -

 三隈がそんな事を考えていると、視線を感じた。
 前をみると、麗子とみなみがこっちを見ていた。

 麗子はジト目で、みなみは興味津々という目で三隈を見ていた。

 三隈の長い一日は、まだ続きそうである。
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