第8話 脱走騒動

文字数 2,488文字

先日、黒澤明監督の「まあだだよ」という映画を観ていた
2度目だった
黒澤明といえば私は「七人の侍」と「生きる」しか観てないのですがこの「まあだだよ」は監督の最後の作品で、どんなきっかけかもう忘れてしまいましたが、一度観てとても気に入りました。
内田百閒という作家を描いた作品なのですが、作家は家に迷い込んだ猫をノラと名づけてとても可愛がり、「ノラや」という著作があるほど。
そのノラがある日いなくなってしまうのですがその時の百閒先生の顔。
松村達雄さんという男はつらいよのおいちゃんの二代目を務めた俳優さんなのですが、
目にはクマだらけ顔は黒ずんで眉は下がり目にも口にも力が入らず、肩を落とすってこういうことなんだなと思うようなフォルムでぐったりしている。
全身で猫がいなくなった
猫をとても大切にしていた
という事実を表現しているのである

私はそれを見て、しみじみと、あぁ、わかる。と思った。


猫は脱走防止策を講じてないと脱走するのである
これは猫あるあるだそうだが
玄関のドアを開けた隙にすり抜ける
ベランダの窓を開けた隙にするりと出る
よくあることなので十分に気をつけて、と保護主さんに言われていた

しかし脱走は起こったのだ
ひとえに我々の対策不足で
完全に甘く見ていた
あれはキコモコが家に来て1ヶ月半ほど経った頃だろうか

まだまだ小さくて猫が寝てる隙に私たちは外に出たり、近くにいてもだめよだめよとか言いながらドアを開閉していた。
一度モコが私が玄関先でドアを開けたらちょこんと外のポーチに出てしまったことがある
モコは外の世界に面食らったように立ち止まりぽかんとしていた
私は慌ててモコを抱き上げ家に入れて事なきを得た

危ないよね気をつけないとね
そんなことを夫と言いながらもやはりまだ対策を講じなかった
いろんな脱走柵は探していたのだがおしゃれなのがいいなとか結構高いなとか言いながら設置できてなかったのだ

そしてキコである。
夫と二人で車の掃除をして家に戻ってきた時にドアを開けるとキコがいた。
たいていドアには近づいてこないので油断をしていたのだがその時は開けるとすぐにドアの前にスタンバっていたのだ
あ!と思った途端、キコはするりと外に出る
モコと同じく驚いたようにポーチで一旦立ち止まり外の世界を見た

「キコちゃんあかんよ危ないよ」
私はそう言って抱き上げようとするとこれまでにない力で私の手を振り切ってキコは走り出した
道路に飛び出し身を低くして立ち止まる
「キコ!」
叫ぶとさらに驚いて走り出す

私は逃げて帰ってこれない猫の話を聞いたことを思い出した
キコは獣医に「良い体している」と褒められるほど筋力があって跳躍力がすごい
本気で走られたら絶対追いつけない。
キコはこちらを見ながらも身を低くして尖らせた目をギョロギョロと忙しなく動かしている
夫が追いかけるのを交わし道路を斜めに走ってゆく
走る方向を見て私も追いかけるが追いつく訳もない

キコは隣の隣の家の隣にある空き地に入り込んでいった
追って行くとそのお宅の庭先に入り込んでる
キコの姿が見えてホッとするが
私が近づくとキコは今にも走り出そうと身構えている。
しかし幸運なことにそのお宅にはネットが張られておりキコは潜り込んで入ったのだろうが
逆に咄嗟には出られない状態になっていた。私は手を伸ばし全ての力をもってキコを捕まえた。

急いで家に連れ帰ろうとするが玄関ドアを入る前にキコはまたひと暴れして私の腕から飛び出してしまう。今度は夫が押さえてくれてなんとか家に入れることができた

家に入るとキコは猛スピードで部屋の一番奥に階段を駆け上がり身を隠す
怖かったのだろう

猫だって脱走したいわけではないのだ
外の世界に興味があって飛び出したところ
今度は恐怖で逃げ出してしまう
逃げて逃げて帰れなくなるのだ
それなら家に逃げ込んでくれたら良いのに。。と思うが猫にも理由があるのだろう
もしかしたら本当に逃げたかったのかもしれないがその際もせっかく我が家に来てもらったのだから申し訳ないが諦めてもらいたい。嫌なことがあれば言ってくれたらいいのだけど。。

こうして脱走騒動は幕を閉じたがそれから私たちは脱走防止柵を玄関に取り付けた
もうおしゃれな物をとか言ってられない
みんなが買っていて評判も良さそうなものをポチった。
遅い!と怒られそうだが怒られても仕方ない
むしろ怒られたい
危険に晒した我々が悪いのだ
あの時幸い一台も車が通らなかったのだがもし車が来てたら大変なことになっていただろう

柵が到着するまでは必ず部屋の戸を閉めて猫を閉じ込めた後に玄関のドアを開けることを徹底した。

ちなみに夫は地域猫ばかりを飼っていて元野良だから出入り自由だそうだ
百閒先生の猫も元野良で出入り自由だけど人間との信頼関係で共にいる生活が成り立っていたのだろう
ふらといなくなるのにもまた猫にも事情があるのだろう

キコモコも元野良猫ではあるが、出入り自由は無理そうだ。

先日職場でも脱走事件があったと猫を飼っている人が話していた
事件というか事故になるのだろう
マンションの5階に住んでる人だが洗濯干そうとして不用意に窓を開けてしまい猫がするっと出てしまったそうだ
猫はこれまた驚いて走り出し隣の部屋、隣の隣の部屋とベランダを渡り歩き右往左往して果ては落ちて死んでしまったのだと。
その人は管理人さんと一緒に探しに行きその身柄を引き取ったそう。
本当に辛いことだ。

インコの脱走も聞いたことがある
美容師のお兄さんの実家で10年来のインコを飼っていたが
部屋に放していた時に父親が肩に乗ったのを気が付かずに窓を開けてしまい
青色のインコはさあっと空に飛び立ったそう。
爽やかに聞こえたが家で飼っているインコが外の世界でひとりで生きていける訳はない
誰かに飼われてたらいいんだけどとお兄さんはため息をついていた


そうなのだ
一度でも家で飼われたペットが外で生きるのは難しい
脱走話を聞くたびに身が引き締まる。
「まあだだよ」の百閒先生の顔が思い浮かぶのだ。

…気をつけよう、、

ああ長くなってしまいました
ごめんなさい(´-`).。oO
読んでくださった方、すみません
ありがとうございました。
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登場人物紹介

人①(私)

人②(夫)

猫①(キコ)

茶白

人という字の前髪

尻尾が長い、直毛

可愛いというより美人タイプ

性格:不思議ちゃん、ツンデレ

猫②(モコ)

茶白、背中に羽

オンザ眉の前髪

鍵尻尾、ふわふわ毛質

丸顔、可愛いタイプ

性格:おっとり、マイペース

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