第30話 ブレスガン

文字数 2,009文字

 銃の構造と仕組みは空気銃に似ていたが、琥珀石のカートリッジは圧縮されてはいない。
 通常の火薬を使用した銃のように爆発の圧力を利用したものでもない、そもそも弾丸がない。

 ドラゴンの息吹を人が使えるように神具としたもの、燃料となるのはドラゴンの化石燃料の赤と青の琥珀石。
 
 その構造は21世紀の現代でも未開発の武器、レールガン(超電磁投射砲)に近い。

 ドラゴンの血は可燃性を持つ部室を含む、長い首の射出専用の菅に起爆材となる青い体液を連続して巨大な肺の圧力で混合起爆させることで息吹を射出する。
 神具は肺の圧力を使用することなく、薬室の中で起きた爆発を利用するとともにバレルの中でも混合させることで息吹を加速させているのだ。
 火薬弾頭を使用する銃の初速は拳銃で800m/秒、ライフル弾でも1800m/秒ほどだか、レールガンは8000m/秒を超える実績がある。
 
 冥界の神具をアラタはブレスガンと名付けた。
 出力を変えることが出来るブレスガンは22口径の小さな拳銃から50口径以上のライフル弾、また散弾のように範囲射撃も可能だった。

 アラタの知識は第二次大戦中の知識ではレールガンのことは知りようもない。
 分解や清掃など試みたが解ることは無かった。
 そんな中でも気が付いたことがあった。

 「これってドラゴンの骨じゃないかしら」

 白いバレルや薬室はドラゴンの骨を切り出したものだ、通常の金属では息吹の燃焼に耐えられない。

 意図せず座学は直ぐに終了した、構造や発射理論が解らない以上やっても無駄だ。
 
 実射訓練に移るとマリッサの順応は驚くほど早い、赤弾頭と青弾頭の切り替え、出力調整、昔から知っているように使いこなしている。

 「マリッサ、本当に初めてか、まるで慣れているようだ」
 「そうかな、普通だよ」
 「普通なわけないだろう、一回聞いただけでそんなに直ぐには使いこなせるものじゃないぞ」
 
 紙の的わ使った試射では命中率がアラタを上回る時がある、特に伏せ姿勢や立射において停止した状態での精度は素晴らしかった、身体の軸が揺れることがない、小さく長い呼吸、横隔膜を動かさないことで腕の位置を固定することができた。
 マリッサは何かで一番になったことはない、何をやっても二番だったと言った。

 アラタは気づいた、天才はリーナ姉さんではなくマリッサの方なのではないか、特に努力することなく出来てしまう妹に対して、何かを教えるために努力していたのは姉の方であったかもしれない。
 
 単発撃ちで連射が出来ないと思っていたが、トリガーを引きっぱなしにすることで弾ではなくバーナーのように連続して対象を焼き切ることも出来る、しかし石の消費が激しい。
 カートリッジの弾数はエコモードで200発程度、ハードモードでは六発ほどだ、銃上部のスライド部分に色が変わる部分がある、赤と青の表示が白に変わっていく、充填材の残量を表している。

 さすがのマリッサも自身が動きながらや、動く目標に対しての精度はアラタを大きく下回る。
 予測と応用の面では経験が足らないのだ。

 食料が底をつく三日の間、二人で試射と訓練を重ねてブレスガンの習熟に努めた。

 「イーヴァンとシンの山小屋までどのくらいだろうな」
 「登ってきたガンガラシバナのルートでは行けないわね」

 冥界神殿よりさらに標高の高いところにあると爺婆から聞いている。

 「どうしても、魔の黒笹帯を越えていく必要があるな」
 「このブレスガンで冥界の使徒や見えない蟻に対応できるかしら」
 「威力は問題ない、むしろオーバースペックだ、問題は俺とお前、2門の砲では相手に出来る数に限りがある」
 「そうね、数千や数万、もっといるかもしれない、この山の中腹位までは黒笹の海、全体から湧き出るとしたら途方もない数になるわ」
 「大海にいくらぶっ放しても、水は失くならない」
 「この大陸を捨てて海を渡るって言うのはどう?」
 「あるのか、海の向こうに大陸が」
 「分からない、でもたまにこの大陸の物じゃない漂着物はあるの、きっとあると思う」
 マリッサの声は期待と憧れのトーンが混じる、冒険者因子を持っているようだ。
 「それもいいかもな、三人で挑むか」
 「本当!夢みたいだな」
 「夢か、そうだな夢だな」

 戦争が始まってから夢という単語を忘れていた、アンナを失ってから死ぬことが夢になっていた。
 死ぬために生きていた。

 自身の幸せや夢を追うことには後ろめたさがある、アンナを守ることが出来なかった自分が幸福を望んで生きることは罪深い。
 ただマリッサに言えば私も同じだと言うだろう。
 
 利己的でくだらない感傷に過ぎないとは分かっている。
 自分の中に渦巻く怒りと哀しみは薄まることを知らない、決して自分を赦さない。
 
 マリッサとムトゥスの夢なら許されるかも知れない。

 アラタの背中に懐かしく温かい手の感触があった、(行って!)と背中を押している。
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