第18話 硝酸
文字数 2,240文字
第25山岳猟兵師団異世界本部、転移して飛行することが出来なくなったメッサーME323ギガントを改装して本部としていた。
正面にサガル神山の威容を見る平原の中に周囲を塀と柵で囲み、木製の小屋を兵員宿舎にしている。
サガル神山の北側にある人族の国と手を結び、魔族国の侵略を始めた。
中世以下の文明しか持たない小規模国家の蹂躙は容易かった、二年を待たず殲滅、魔族国は人族の手に落ちて瓦解した。
「ヴォルフ大佐、準備整いました」
技術主任のノートン少尉がギガント内の本部長室に入ってくる。
「出来たか、楽しみにしていたぞ」
ヴォルフ大佐は加えていた現地産の葉巻を灰皿に擦りつけた。
この日、師団本部においてあ現地産の火薬、赤と青の琥珀石を使用した弾薬の試射が行われようとしていた。
使用するのは98式クルツ銃、7.92mm×55mmのモーゼル弾丸。
魔族の遺体埋葬のために掘らせた穴からは大量の赤い琥珀石が出土した、青い琥珀石は貴重で赤に対して千分の一を下回る。
赤石だけではマッチ程度にしか燃焼しないが、ここに青石を数パーセント加えるとニトロ以上の爆発を起こす。
シュワルツ少尉が偶然、焚き火に両方を投げ入れたことで発見されたものだ、その際には吹き飛んだ薪で数人が怪我を負った。
赤石と青石を粉末にして混合し、銃弾のカートリッジに詰めてハンドローディグする。
混合したものは静電気でも爆発するため取扱いは慎重にしなければならなかった。
五十メートル付近に的を設置して、二丁のクルツ銃に通常弾丸と新琥珀火薬弾丸を装填して比較実験を実施する。
「最初に従来式の弾丸、次に新型琥珀弾を射撃いたします」
少し離れた場所に置かれたテーブル席にヴォルフ大佐は双眼鏡を片手に腰を降ろして頷いた。
「よし、それでは第一射よーい・・・撃て!」
パアアッァンッ 聞きなれた音が木霊して、的の中央付近に穴を開けた。
銃口初速740Km、有効射程500m、総生産数一千四百六十万丁にも及ぶベストセラー、生産性、信頼性の高さを物語る。
「次、新型琥珀弾よーい・・・撃てっ!」
ガオッオオッンッ 通常弾薬の数倍の射撃音、その反動に銃口が跳ね上がる、弾丸は的から外れて土嚢に土煙を上げて着弾した。
「おおっ!なんたる威力だ」
「銃をここへ持ってこい」
ヴォルフ大佐のもとへ運ばれた新型琥珀弾を放った銃は一発撃っただけで銃身が焼けている。
「琥珀火薬をしようすると、現在の半分以下にまで炸薬量を落とさないと実戦で使用するのは難しいでしょう」
「性能が高すぎるという訳か」
「はい、銃の耐久性にも疑念があります、最悪暴発しかねません」
「炸薬量を調整するためにはカートリッジを小さくするしかありませんが、そうすると銃の口径も変わってしまい、直ぐに代用することができません」
「そこでこれです」
テーブルに置いたのは白い粉の瓶。
「現地産の硝酸カリウムです」
「!!」
硝酸カリウムは黒色火薬の元となる物質だ。
「現地産の鉱物から抽出したものです」
「これで黒色火薬を製造し、それをベースに琥珀火薬を混合すれば爆発力を調整することが可能です」
「サンプルはあるのか?」
ノートン少尉はニヤリと笑い答えた。
「もちろんです」
第三射で軽い発射音と共に放たれた銃弾は的の真ん中を射抜いた。
「これで魔王城への移転が完了すれば、武器工場の本格研究が可能となる、武装国家の礎が整うこととなろう、よくやってくれたノーマン少尉」
「製造などしたことがない自分に務まるか不安でしたが、何とか目途が立つまでに漕ぎつけることが出来ました、班のみんなのお蔭です」
「魔族国内の染料地の中でも日当たりのよい一等地を選択できるようにしておこう」
「ありがとうございます、大佐」
「今度ローマン帝国が戦勝記念パーティーを開きたいと言ってきている、貴族共の娘たちが大勢参加する、吟味するとよいと皆につたえてくれ」
「女日照りの続く我らには朗報です、皆喜びます」
上機嫌でヴォルフ大佐は試験場を後にしていった、転移前より確実に大きくなった背中を見送り、ノーマンは技術班の仲間と祝杯を挙げた。
「ひと段落だな、ノーマン」
「ああ、仰せつかったときは無理難題と思っていたが形になって本当に良かった」
「継続的な武器の調達が出来なければ我々も未開現地人同様だからな」
「本当にそうだ、銃が無ければ生き残りの魔族共のように奴隷に堕とされていたかもしれん」
「赤と青の琥珀石か、いったい何なのだろうな、これは」
「鉱物ではないようです、なにかの有機物のようなのですが・・・」
「有機物、石油のようなものか」
「詳細は不明ですが、これを液化出来ればガソリンの代用となる可能性もあります」
ノーマンは赤石を手の中で弄ぶ。
「発電も可能となるな」
「我々は失業の心配はなさそうですね、少尉」
「だが過労死しないように気を付け給え」
「転移前の世界で墜落死するよりはねこの世界の方がはるかにましです」
部下のひとりが祝杯の地元ビールを飲み干す。
「実は俺も、元の世界には戻れなくても良いと思っているんだ、ここの暮らしも悪くない」
「少尉、あれですね、食堂のカレンさん、綺麗ですものね」
「未亡人だが、その娘に妙になつかれちまってな」
「戦勝パーティー、俺は欠席するよ、お前たちで言ってきてくれ」
異世界人は予想よりも早く、異界に馴染み取り込まれていく。
正面にサガル神山の威容を見る平原の中に周囲を塀と柵で囲み、木製の小屋を兵員宿舎にしている。
サガル神山の北側にある人族の国と手を結び、魔族国の侵略を始めた。
中世以下の文明しか持たない小規模国家の蹂躙は容易かった、二年を待たず殲滅、魔族国は人族の手に落ちて瓦解した。
「ヴォルフ大佐、準備整いました」
技術主任のノートン少尉がギガント内の本部長室に入ってくる。
「出来たか、楽しみにしていたぞ」
ヴォルフ大佐は加えていた現地産の葉巻を灰皿に擦りつけた。
この日、師団本部においてあ現地産の火薬、赤と青の琥珀石を使用した弾薬の試射が行われようとしていた。
使用するのは98式クルツ銃、7.92mm×55mmのモーゼル弾丸。
魔族の遺体埋葬のために掘らせた穴からは大量の赤い琥珀石が出土した、青い琥珀石は貴重で赤に対して千分の一を下回る。
赤石だけではマッチ程度にしか燃焼しないが、ここに青石を数パーセント加えるとニトロ以上の爆発を起こす。
シュワルツ少尉が偶然、焚き火に両方を投げ入れたことで発見されたものだ、その際には吹き飛んだ薪で数人が怪我を負った。
赤石と青石を粉末にして混合し、銃弾のカートリッジに詰めてハンドローディグする。
混合したものは静電気でも爆発するため取扱いは慎重にしなければならなかった。
五十メートル付近に的を設置して、二丁のクルツ銃に通常弾丸と新琥珀火薬弾丸を装填して比較実験を実施する。
「最初に従来式の弾丸、次に新型琥珀弾を射撃いたします」
少し離れた場所に置かれたテーブル席にヴォルフ大佐は双眼鏡を片手に腰を降ろして頷いた。
「よし、それでは第一射よーい・・・撃て!」
パアアッァンッ 聞きなれた音が木霊して、的の中央付近に穴を開けた。
銃口初速740Km、有効射程500m、総生産数一千四百六十万丁にも及ぶベストセラー、生産性、信頼性の高さを物語る。
「次、新型琥珀弾よーい・・・撃てっ!」
ガオッオオッンッ 通常弾薬の数倍の射撃音、その反動に銃口が跳ね上がる、弾丸は的から外れて土嚢に土煙を上げて着弾した。
「おおっ!なんたる威力だ」
「銃をここへ持ってこい」
ヴォルフ大佐のもとへ運ばれた新型琥珀弾を放った銃は一発撃っただけで銃身が焼けている。
「琥珀火薬をしようすると、現在の半分以下にまで炸薬量を落とさないと実戦で使用するのは難しいでしょう」
「性能が高すぎるという訳か」
「はい、銃の耐久性にも疑念があります、最悪暴発しかねません」
「炸薬量を調整するためにはカートリッジを小さくするしかありませんが、そうすると銃の口径も変わってしまい、直ぐに代用することができません」
「そこでこれです」
テーブルに置いたのは白い粉の瓶。
「現地産の硝酸カリウムです」
「!!」
硝酸カリウムは黒色火薬の元となる物質だ。
「現地産の鉱物から抽出したものです」
「これで黒色火薬を製造し、それをベースに琥珀火薬を混合すれば爆発力を調整することが可能です」
「サンプルはあるのか?」
ノートン少尉はニヤリと笑い答えた。
「もちろんです」
第三射で軽い発射音と共に放たれた銃弾は的の真ん中を射抜いた。
「これで魔王城への移転が完了すれば、武器工場の本格研究が可能となる、武装国家の礎が整うこととなろう、よくやってくれたノーマン少尉」
「製造などしたことがない自分に務まるか不安でしたが、何とか目途が立つまでに漕ぎつけることが出来ました、班のみんなのお蔭です」
「魔族国内の染料地の中でも日当たりのよい一等地を選択できるようにしておこう」
「ありがとうございます、大佐」
「今度ローマン帝国が戦勝記念パーティーを開きたいと言ってきている、貴族共の娘たちが大勢参加する、吟味するとよいと皆につたえてくれ」
「女日照りの続く我らには朗報です、皆喜びます」
上機嫌でヴォルフ大佐は試験場を後にしていった、転移前より確実に大きくなった背中を見送り、ノーマンは技術班の仲間と祝杯を挙げた。
「ひと段落だな、ノーマン」
「ああ、仰せつかったときは無理難題と思っていたが形になって本当に良かった」
「継続的な武器の調達が出来なければ我々も未開現地人同様だからな」
「本当にそうだ、銃が無ければ生き残りの魔族共のように奴隷に堕とされていたかもしれん」
「赤と青の琥珀石か、いったい何なのだろうな、これは」
「鉱物ではないようです、なにかの有機物のようなのですが・・・」
「有機物、石油のようなものか」
「詳細は不明ですが、これを液化出来ればガソリンの代用となる可能性もあります」
ノーマンは赤石を手の中で弄ぶ。
「発電も可能となるな」
「我々は失業の心配はなさそうですね、少尉」
「だが過労死しないように気を付け給え」
「転移前の世界で墜落死するよりはねこの世界の方がはるかにましです」
部下のひとりが祝杯の地元ビールを飲み干す。
「実は俺も、元の世界には戻れなくても良いと思っているんだ、ここの暮らしも悪くない」
「少尉、あれですね、食堂のカレンさん、綺麗ですものね」
「未亡人だが、その娘に妙になつかれちまってな」
「戦勝パーティー、俺は欠席するよ、お前たちで言ってきてくれ」
異世界人は予想よりも早く、異界に馴染み取り込まれていく。