第20話 おとぎ話
文字数 2,289文字
「リベラ、お前は指令本部に帰って、この(何か)の情報を報告しろ」
「ユルゲン少尉はどうするのですか」
「決まっている、任務を続行する」
「!」
「続行って・・・あの黒笹の中をどうやって!だいたいアラタと魔王たちだって生きてはいないでしょう」
「いや、あいつは生きている」
「その根拠は何です?」
「一つ目は盗んだサイドカーだ、やつはこの道とは別のルートで樹海に入っている」
「二つ目にシュワルツ少尉、やつが樹海方面にチャリで登っていったのを見た」
「いつのまに・・・」
「やつはここを大きく迂回した高台の道を登っていった、理由があるはずだ」
「シュワルツがアラタと繋がっていると」
「それは分からん、しかし、シュワルツ一人が行ったところでアラタをどうにか出来るはずもない」
「確かにそうですが、アラタの生存や樹海への逃走を裏付けるには弱いのでは」
「俺の感だ」
ユルゲンの目は揺るぎない自信と確信に満ちている。
狼の嗅覚を持つ男、ユルゲン・シュナイダー。
「了解しました、少尉」
リベラは狼の嗅覚の恐ろしさを過去の実戦において良く知っている、アラタとは違う天性のハンター。
ユンゲルはMP40短機関銃の弾倉を補充すると徒歩で樹海を迂回したルートを取りながらサガル神山に姿を消していった。
リベラは正直アラタ追撃の任から外された事に安堵した、的が見えなければ撃ちようがない、なにより(何か)の規模が計り知れない。
樹海内だけの生物であれば近づかなければ良いだけだ、しかし、(何か)が樹海内を食い尽くし、その食欲が外に向いた時は間違いなく驚異になり得る。
「魔族戦争の次は化け物対策か、どこの世界も暇は与えちゃくれねぇな」
リベラは空荷となって身軽なトラックを魔城に向けて反転させた。
モア チッチ モロー シロジ スラッシュ
バタイ男爵の遺体を埋葬してモアたち敗走魔族兵五人はイーヴァン魔王の捜索に出発した。
「黒笹の中には入るなよ、あいつらに狙われたら終わりだ」
「あれは一体何なのでしょうか、異世界人以上に恐ろしい存在だ」
「シロ爺、何か聞いたことはないか?」
隊の中では最も年長者、読書が好きな博識だ。
「サガル神山の神話の中に、冥界王イザナギの使徒の話があったな」
「なんだ、それは?」
「吸血の牙を持つ子鬼で、透明で見えないのだそうじゃ」
「子鬼?ゴブリンなのか」
「いや、違うようだ、ネズミかイタチか、壁画の模写は人型じゃねえな」
「神話の使徒が蘇ったって言うのかよ、冥界の神様は魔族の味方じゃないんだな」
「使徒の恐ろしさは数だ、数十億の使徒が生まれるそうだ」
「生まれる?なんかのタイミングでか」
シロ爺は黒笹の蕾を指し示した。
「黒笹は千年に一度、一斉開花するそうな、その結実した実が使徒の軍団を養う」
全員が黒笹の開いていない蕾に注目した。
「おっ、おい、まさか今年が一斉開花の年だとでも言うつもりじゃないよな」
普段はクールなスラッシュが怯えた表情を見せる、実は気が小さい。
「千年前の話なぞ覚えている奴などおらんわ!」
「あくまで神話、おとぎ話!」
シロ爺が(ガッハッハ)と笑い飛ばした。
「なんだよ、脅かさないでよ、シロ爺」
チッチもブルッた側だ。
「俺はまんざら与太話だとも思えないのだ、異世界人の転移なんて神話そのものだからな」
「確かに何が起こっても不思議はないよな」
岩場は危険だが沢近くは黒笹が少ない、逃亡したイーヴァン魔王たちがどのルートを辿るのかは分からない、サガル神山には無数の沢が存在する。
「たまたま巡り会うとか奇跡だぜ」
「なあに、何回でも往復してやるさ」
五人は諦めてはいない、その顔に暗さはなかった。
樹海を半分ほど下ったところで、沢筋の草むらに四つん這いで頭を突っ込んでいる男を見つけた。
「あいつ・・・異世界人じゃないか」
「ひとりか?」
「あれは、いったい何をしているんだ?」
「一人なら今殺っちまったほうがよくないか」
「一人でも、奴らは魔法武器を持っている、慎重にいくぞ」
五人は藪に身を潜めて様子を伺う。
藪の中から甘い匂いが漂ってくる。
「違いますねぇ、これは笹の花の匂いとは違います」
頭を突っ込み鼻をクンクン鳴らしているのはシュワルツだ。
今、シュワルツの興味を引いているは匂いだ、笹の花とは違う匂いが僅かに鼻を擽る。
「!?」
足先まで藪に潜り込んで匂いの元を捉えた。
「何でしょうか、これは」
笹の中に白い卵状の物が固まってくっついている。
一つを手に取るとネバネバした粘液に包まれている、少し固い殻に包まれている。
藪から這い出して観察する。
「元世界では見たことのない物ですねぇ、何かの卵でしょうか」
「ふぅーむ」
腰からナイフを取り出すと、卵に薄く筋を入れて割ってみる。
「これは・・・虫?・・・蟻でしょうか」
卵の中にいたのは白い節足昆虫のようだった、赤く小さな琥珀石のような目が意思を持ってシユワルツを見返している。
(吸わせろ!吸わせろ!!)
ゾゾッ 悪寒が奔る。
「おおっと!なんと気味の悪い!」
ピッと指で飛ばすと岩の上に落ちて潰れてしまう。
数ミリノ身体からほんの微量なホルモンが漏れ出す、死亡ホルモン、仲間に仇を取れと。
サワッ サワワッ ザッ ザワッ ザワワワワッ
「!!」
怒りに満ちた一筋がシュワルツに向かって伸びる。
「匂いの元、怒っていますね!」
意外にもシュワルツは身軽に後ろへ飛ぶと腰のホルスターからワルサーP38を引き抜く。
「ふふんっ、正体見たりといきましょう!」
「ユルゲン少尉はどうするのですか」
「決まっている、任務を続行する」
「!」
「続行って・・・あの黒笹の中をどうやって!だいたいアラタと魔王たちだって生きてはいないでしょう」
「いや、あいつは生きている」
「その根拠は何です?」
「一つ目は盗んだサイドカーだ、やつはこの道とは別のルートで樹海に入っている」
「二つ目にシュワルツ少尉、やつが樹海方面にチャリで登っていったのを見た」
「いつのまに・・・」
「やつはここを大きく迂回した高台の道を登っていった、理由があるはずだ」
「シュワルツがアラタと繋がっていると」
「それは分からん、しかし、シュワルツ一人が行ったところでアラタをどうにか出来るはずもない」
「確かにそうですが、アラタの生存や樹海への逃走を裏付けるには弱いのでは」
「俺の感だ」
ユルゲンの目は揺るぎない自信と確信に満ちている。
狼の嗅覚を持つ男、ユルゲン・シュナイダー。
「了解しました、少尉」
リベラは狼の嗅覚の恐ろしさを過去の実戦において良く知っている、アラタとは違う天性のハンター。
ユンゲルはMP40短機関銃の弾倉を補充すると徒歩で樹海を迂回したルートを取りながらサガル神山に姿を消していった。
リベラは正直アラタ追撃の任から外された事に安堵した、的が見えなければ撃ちようがない、なにより(何か)の規模が計り知れない。
樹海内だけの生物であれば近づかなければ良いだけだ、しかし、(何か)が樹海内を食い尽くし、その食欲が外に向いた時は間違いなく驚異になり得る。
「魔族戦争の次は化け物対策か、どこの世界も暇は与えちゃくれねぇな」
リベラは空荷となって身軽なトラックを魔城に向けて反転させた。
モア チッチ モロー シロジ スラッシュ
バタイ男爵の遺体を埋葬してモアたち敗走魔族兵五人はイーヴァン魔王の捜索に出発した。
「黒笹の中には入るなよ、あいつらに狙われたら終わりだ」
「あれは一体何なのでしょうか、異世界人以上に恐ろしい存在だ」
「シロ爺、何か聞いたことはないか?」
隊の中では最も年長者、読書が好きな博識だ。
「サガル神山の神話の中に、冥界王イザナギの使徒の話があったな」
「なんだ、それは?」
「吸血の牙を持つ子鬼で、透明で見えないのだそうじゃ」
「子鬼?ゴブリンなのか」
「いや、違うようだ、ネズミかイタチか、壁画の模写は人型じゃねえな」
「神話の使徒が蘇ったって言うのかよ、冥界の神様は魔族の味方じゃないんだな」
「使徒の恐ろしさは数だ、数十億の使徒が生まれるそうだ」
「生まれる?なんかのタイミングでか」
シロ爺は黒笹の蕾を指し示した。
「黒笹は千年に一度、一斉開花するそうな、その結実した実が使徒の軍団を養う」
全員が黒笹の開いていない蕾に注目した。
「おっ、おい、まさか今年が一斉開花の年だとでも言うつもりじゃないよな」
普段はクールなスラッシュが怯えた表情を見せる、実は気が小さい。
「千年前の話なぞ覚えている奴などおらんわ!」
「あくまで神話、おとぎ話!」
シロ爺が(ガッハッハ)と笑い飛ばした。
「なんだよ、脅かさないでよ、シロ爺」
チッチもブルッた側だ。
「俺はまんざら与太話だとも思えないのだ、異世界人の転移なんて神話そのものだからな」
「確かに何が起こっても不思議はないよな」
岩場は危険だが沢近くは黒笹が少ない、逃亡したイーヴァン魔王たちがどのルートを辿るのかは分からない、サガル神山には無数の沢が存在する。
「たまたま巡り会うとか奇跡だぜ」
「なあに、何回でも往復してやるさ」
五人は諦めてはいない、その顔に暗さはなかった。
樹海を半分ほど下ったところで、沢筋の草むらに四つん這いで頭を突っ込んでいる男を見つけた。
「あいつ・・・異世界人じゃないか」
「ひとりか?」
「あれは、いったい何をしているんだ?」
「一人なら今殺っちまったほうがよくないか」
「一人でも、奴らは魔法武器を持っている、慎重にいくぞ」
五人は藪に身を潜めて様子を伺う。
藪の中から甘い匂いが漂ってくる。
「違いますねぇ、これは笹の花の匂いとは違います」
頭を突っ込み鼻をクンクン鳴らしているのはシュワルツだ。
今、シュワルツの興味を引いているは匂いだ、笹の花とは違う匂いが僅かに鼻を擽る。
「!?」
足先まで藪に潜り込んで匂いの元を捉えた。
「何でしょうか、これは」
笹の中に白い卵状の物が固まってくっついている。
一つを手に取るとネバネバした粘液に包まれている、少し固い殻に包まれている。
藪から這い出して観察する。
「元世界では見たことのない物ですねぇ、何かの卵でしょうか」
「ふぅーむ」
腰からナイフを取り出すと、卵に薄く筋を入れて割ってみる。
「これは・・・虫?・・・蟻でしょうか」
卵の中にいたのは白い節足昆虫のようだった、赤く小さな琥珀石のような目が意思を持ってシユワルツを見返している。
(吸わせろ!吸わせろ!!)
ゾゾッ 悪寒が奔る。
「おおっと!なんと気味の悪い!」
ピッと指で飛ばすと岩の上に落ちて潰れてしまう。
数ミリノ身体からほんの微量なホルモンが漏れ出す、死亡ホルモン、仲間に仇を取れと。
サワッ サワワッ ザッ ザワッ ザワワワワッ
「!!」
怒りに満ちた一筋がシュワルツに向かって伸びる。
「匂いの元、怒っていますね!」
意外にもシュワルツは身軽に後ろへ飛ぶと腰のホルスターからワルサーP38を引き抜く。
「ふふんっ、正体見たりといきましょう!」