第27話 アラミスの香り
文字数 2,445文字
パアッアァンッ 98式クルツ銃の発射音が沢筋を駆け上がってくる。
「ひいっ!!」
バシィィッ 赤い花崗岩を削る。
夕闇が落ちた樹海、黒笹を避けて沢筋にビバークしていたモアたちはユルゲンの的になっていた。
「やつにはこっち姿が見えているのか!?」
「今夜は月明かりも無いのにどうやって!奴は化け物か!」
パアッアアッン バシィッ
「!!」
頭の上の岩が弾ける。
「頭を下げて、背を低くしろ」
「全員無事か、点呼っ、点呼しろ」
沢筋から上流に向けて追い立てられ、魚止めの大きな滝まで追い詰められた。
「シロ爺、モロー、スラッシュ、チッチ」
それぞれが返事を返すが、モローの反応がない。
「モローッ、モロー返事しろ!」
最初の襲撃でモローは頭に銃弾を受けて即死していた。
「殺られちまったか、モロー」
モアは唇を噛んだ。
「みんな怪我はないか!?」
「大丈夫じゃ」
シュワルツが言ったとおりユルゲンという異世界人は狼のように夜目が効くようだ、刺すような視線が纏わり付いて離れない。
「やつはどこにいるのじゃ、全然わからん」
冷や汗が額を伝う。
虫の声や夜行性の小動物が動き回る音、本来の森は夜の間こそ騒がしいはずだ、しかし見えない蟻の発生に合わせて虫やネズミ、蛇やトカゲ、鳥までもが姿を消した。
風が木々を揺らす音と、沢を流れる水の音以外聞こえない、まるで死の森だ。
雑音が少ない分、こちらの衣擦れの音さえ聞こえているのではと心配になる。
「みなさん、ご無事ですか?」
隠れていた岩の上から小さな声がかかった。
「!」
「シュワルツさんか!?」
シュワルツとは昼間別れていた、知り合いだとは言え、一緒に行動するほどお互いに信頼は出来ない。
「一人やられた、今いるのは四人、怪我は無い」
「ユルゲンさんは近くにいます、こちらの位置はばれています、かなり不利な状況です」
「足下に投げられそうな石はありますか」
「ああ、いくらでもあるぞ」
「それでは、それを皆さんで一斉に下流に向かって投げてください」
「そんなことで当たるわけないじゃないか」
チッチが半泣きで噛みつく。
「違います、音です、ユルゲンさんは五感全てで索敵しています、この森は静かすぎます、こなさんの移動する音が丸聞こえなんです」
「石が落ちた音に紛れて移動するのか」
「そうです、何もしないよりはましだと思いますよぉ」
「分かった、やるぞ」
四人で静かに石を拾い、呼吸を合わせて四方へ一気に投げ込む。
バチャン ガサッ バッカーン ザシュ
落ちた場所により様々な音が沢に反響する。
「今です!こちらへ急いで!」
四人が岩下から這い出てシュワルツの元へ駆け上がる。
パアッンッ バシィッ
モアたちがいた場所に銃弾が撃ち込まれる、そのままいたら誰かが犠牲になっていた。
「くっ、恐ろしい奴だ」
「みなさん!無事ですか!?」
「ああ、助かったぜ」
「モローさんは残念です・・・ですがグズグズしていると裏に回り込まれます、移動しましょう」
深夜のハンティングは始まったばかりだ。
暗い森の中でも狼の五感は獲物を見失うことはない。
シュワルツと魔族を集合させるこに成功した。
魔族だけでは簡単すぎる、ゲームにならない。
「アラタも一緒だと良かったのだが、ちょっと残念だ」
ユルゲンは二組の位置を把握し、意識的に魔族の戦力を補強したのだ。
アラタもシュワルツも負け組の魔族に加担している理由は想像がつく、アラタは情、シュワルツは正義というのだろう。
ゲームが成立するなら相手は誰でもいい、この世界はレベルが低すぎる。
足音を消して遠巻きに獲物を追う、アドレナリンが身体を駆け巡る、神経が研ぎ澄まされていく、視界が広がる全能感。
「抗って見せろ、シュワルツ少尉!」
暗闇に不敵な笑みを浮かべるユルゲンは純粋なマンハンター、他意はない、一方的に虐殺するだけではだめだ、殺し合いでなければならない。
魚止めの滝でシュワルツが放った音を攪乱するための投石、いい案だ、さすがはシュワルツと言いたいが不十分だ。
魔族の匂いを辿る、暗闇の中に魔族が辿った道が残像のように見える。
シュワルツの匂いは・・・オー・デ・コロンの香り。
「異世界にアラミスとはキザな野郎だぜ!」
異世界の森にはこれ以上ないくらいに場違いだ、だがシュワルツらしい。
元世界の戦場、血と硝煙、汗と有機物しかない場所で、自分の美観にこだわる、女っ気などまったくないのに、奴はゲイだと噂がたったほどだ。
ナルシストとは違う自己を律するルーティーンなのだ。
(正しく生きると言うことは、身だしなみに現れます、見た目も気にすることが出来ないようでは自分を律することなど出来ないでしょう)
戦場で奴はこう言った。
「嫌いじゃないけどな、ここではハンデにしかならないぜ」
匂いの線の外側を遠巻きに辿る、真後ろにはトラップがある可能性がある、その手には乗らない。
アラミスは魚止めの滝をぐるっと周り、下流方向へ向きを変えた。
上流へ向かうと見せかけてUターンして逃げるつもりのようだ。
「さすがだな、だいぶ距離を取られたな」
ガコンッ ザザッ
川の中を移動している、念入りだ。
「しかし、音をたてすぎだ」
ユルゲンは振り返ると魚止めの滝に戻る、奴らより早く戻らなければならない。
着た道は覚えている、障害物を避けて倍以上の早さで戻る。
瞳孔を開き、星の明かりを増幅させて視界を得て滝の周辺を注視する、音が近づいてくる。
ザバアッ
「!!」
迷わずMP40短機関銃の引き金を引く。
パパパパパッンッ
落ちてきた流木から木片がアラミスの香りを放ちながら飛び散る。
はるか上流に歩みを進めていたシュワルツたちはユルゲンを蒔いたことを知った。
「まずは一勝一敗のイーブンでしょうか、簡単にはやられませんよ」
シュワルツたちは赤石沢の上流を目指して星明かりだけの暗い森を手探りで進む。
「ひいっ!!」
バシィィッ 赤い花崗岩を削る。
夕闇が落ちた樹海、黒笹を避けて沢筋にビバークしていたモアたちはユルゲンの的になっていた。
「やつにはこっち姿が見えているのか!?」
「今夜は月明かりも無いのにどうやって!奴は化け物か!」
パアッアアッン バシィッ
「!!」
頭の上の岩が弾ける。
「頭を下げて、背を低くしろ」
「全員無事か、点呼っ、点呼しろ」
沢筋から上流に向けて追い立てられ、魚止めの大きな滝まで追い詰められた。
「シロ爺、モロー、スラッシュ、チッチ」
それぞれが返事を返すが、モローの反応がない。
「モローッ、モロー返事しろ!」
最初の襲撃でモローは頭に銃弾を受けて即死していた。
「殺られちまったか、モロー」
モアは唇を噛んだ。
「みんな怪我はないか!?」
「大丈夫じゃ」
シュワルツが言ったとおりユルゲンという異世界人は狼のように夜目が効くようだ、刺すような視線が纏わり付いて離れない。
「やつはどこにいるのじゃ、全然わからん」
冷や汗が額を伝う。
虫の声や夜行性の小動物が動き回る音、本来の森は夜の間こそ騒がしいはずだ、しかし見えない蟻の発生に合わせて虫やネズミ、蛇やトカゲ、鳥までもが姿を消した。
風が木々を揺らす音と、沢を流れる水の音以外聞こえない、まるで死の森だ。
雑音が少ない分、こちらの衣擦れの音さえ聞こえているのではと心配になる。
「みなさん、ご無事ですか?」
隠れていた岩の上から小さな声がかかった。
「!」
「シュワルツさんか!?」
シュワルツとは昼間別れていた、知り合いだとは言え、一緒に行動するほどお互いに信頼は出来ない。
「一人やられた、今いるのは四人、怪我は無い」
「ユルゲンさんは近くにいます、こちらの位置はばれています、かなり不利な状況です」
「足下に投げられそうな石はありますか」
「ああ、いくらでもあるぞ」
「それでは、それを皆さんで一斉に下流に向かって投げてください」
「そんなことで当たるわけないじゃないか」
チッチが半泣きで噛みつく。
「違います、音です、ユルゲンさんは五感全てで索敵しています、この森は静かすぎます、こなさんの移動する音が丸聞こえなんです」
「石が落ちた音に紛れて移動するのか」
「そうです、何もしないよりはましだと思いますよぉ」
「分かった、やるぞ」
四人で静かに石を拾い、呼吸を合わせて四方へ一気に投げ込む。
バチャン ガサッ バッカーン ザシュ
落ちた場所により様々な音が沢に反響する。
「今です!こちらへ急いで!」
四人が岩下から這い出てシュワルツの元へ駆け上がる。
パアッンッ バシィッ
モアたちがいた場所に銃弾が撃ち込まれる、そのままいたら誰かが犠牲になっていた。
「くっ、恐ろしい奴だ」
「みなさん!無事ですか!?」
「ああ、助かったぜ」
「モローさんは残念です・・・ですがグズグズしていると裏に回り込まれます、移動しましょう」
深夜のハンティングは始まったばかりだ。
暗い森の中でも狼の五感は獲物を見失うことはない。
シュワルツと魔族を集合させるこに成功した。
魔族だけでは簡単すぎる、ゲームにならない。
「アラタも一緒だと良かったのだが、ちょっと残念だ」
ユルゲンは二組の位置を把握し、意識的に魔族の戦力を補強したのだ。
アラタもシュワルツも負け組の魔族に加担している理由は想像がつく、アラタは情、シュワルツは正義というのだろう。
ゲームが成立するなら相手は誰でもいい、この世界はレベルが低すぎる。
足音を消して遠巻きに獲物を追う、アドレナリンが身体を駆け巡る、神経が研ぎ澄まされていく、視界が広がる全能感。
「抗って見せろ、シュワルツ少尉!」
暗闇に不敵な笑みを浮かべるユルゲンは純粋なマンハンター、他意はない、一方的に虐殺するだけではだめだ、殺し合いでなければならない。
魚止めの滝でシュワルツが放った音を攪乱するための投石、いい案だ、さすがはシュワルツと言いたいが不十分だ。
魔族の匂いを辿る、暗闇の中に魔族が辿った道が残像のように見える。
シュワルツの匂いは・・・オー・デ・コロンの香り。
「異世界にアラミスとはキザな野郎だぜ!」
異世界の森にはこれ以上ないくらいに場違いだ、だがシュワルツらしい。
元世界の戦場、血と硝煙、汗と有機物しかない場所で、自分の美観にこだわる、女っ気などまったくないのに、奴はゲイだと噂がたったほどだ。
ナルシストとは違う自己を律するルーティーンなのだ。
(正しく生きると言うことは、身だしなみに現れます、見た目も気にすることが出来ないようでは自分を律することなど出来ないでしょう)
戦場で奴はこう言った。
「嫌いじゃないけどな、ここではハンデにしかならないぜ」
匂いの線の外側を遠巻きに辿る、真後ろにはトラップがある可能性がある、その手には乗らない。
アラミスは魚止めの滝をぐるっと周り、下流方向へ向きを変えた。
上流へ向かうと見せかけてUターンして逃げるつもりのようだ。
「さすがだな、だいぶ距離を取られたな」
ガコンッ ザザッ
川の中を移動している、念入りだ。
「しかし、音をたてすぎだ」
ユルゲンは振り返ると魚止めの滝に戻る、奴らより早く戻らなければならない。
着た道は覚えている、障害物を避けて倍以上の早さで戻る。
瞳孔を開き、星の明かりを増幅させて視界を得て滝の周辺を注視する、音が近づいてくる。
ザバアッ
「!!」
迷わずMP40短機関銃の引き金を引く。
パパパパパッンッ
落ちてきた流木から木片がアラミスの香りを放ちながら飛び散る。
はるか上流に歩みを進めていたシュワルツたちはユルゲンを蒔いたことを知った。
「まずは一勝一敗のイーブンでしょうか、簡単にはやられませんよ」
シュワルツたちは赤石沢の上流を目指して星明かりだけの暗い森を手探りで進む。