文字数 917文字

 映画を観た後で未耶が「幸人、海へ行こうか」と言った。
「海? 今から?」
 幸人がそう返すと未耶は「だって、ほら。ここはもう海の近くだよ」とスマホのマップの画面を幸人に向けて言った。
「海浜公園までバスで行けるよ」
 幸人は未耶のスマホを覗き込む。
「そこでランチにしようよ。だって、こんなにいい天気なんだもの」
 未耶が空を見上げて言った。
雲一つない青空ですっきりと晴れ渡り、まだ五月だというのに暑い位だった。
 二人はバス停を探した。

「何を食べる?」
「海鮮丼。それとイカ焼き。ビールも飲もう」
「いいね。それ」
「ねえ。幸人。私達っていいコンビだね。こうやってずっと一緒にいようね。ねえ、私がおばさんになったって、ずっと一緒に居るんだよ」
 未耶がそう言って幸人は「うん」と言って
笑った。

 未耶の花柄の青いワンピースが揺れる。未耶のお気に入りのワンピース。
 白いスニーカーと白いカーディガン。
 未耶はアニメに出て来る綺麗なお姉さんそのものだと思った。
「めっちゃ可愛い先生」は今や自分の妻なのだ。幸人は何となく誇らしくなる。
 幸人は未耶の頭に手を載せて髪をくしゃっとする。
 未耶が愛しい時、けれどどうしていいか分からない時、幸人はそんな風にして未耶の頭に手をやる。本当はぎゅっと抱き締めたいけれど、家の外でそれは恥ずかしい。幸人は未耶の頭に手をやると「未耶はいつまで経ってもきっと綺麗なままだ」と心の中で言った。
実際にそう言ったら、未耶は腹を抱えて笑うだろう。そして「んなわけ、無いじゃん」と言う。
未耶の反応は分かっている。

 食事をしてビールを飲んだ。
 未耶と二人で海岸を歩く。穏やかな波が打ち寄せる海浜公園には多くの人が遊びに来ていた。まだ泳ぐには早いが、子供達は小石や貝を拾ったり、波と追い掛けっこをしたりして遊んでいる。
 砂地にハマヒルガオがツタを這わせピンクの花を咲かせている。
 穏やかで平和で美しい日。
 幸人は黙って未耶の肩に腕を回した。
 未耶が「いい日だね」と笑って幸人の背中に手を回した。
 靴の下で砂がきゅっきゅっと音を立てる。
寄せては返す波の音がどこまでも二人を追い掛けて来る。
ざざん・・、ざざん・・と。
とこかで鳶の鳴く声が聞こえた。
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