koshiabura  2

文字数 1,541文字

「ただ、その仮想フィールドですけれど、現実世界と同じ位にリアルに作って動かしたいんですよ。そうなるとべらぼうな計算資源が必要でしょうね。さっきも言ったけれど。例えば、海岸に寄せる波の音だって、風が有るか無いかじゃ違うし、雨が降っていたりすると水に落ちて文様を描くそれだって・・・そしてそれがお互いに干渉して複雑な文様を描くのだから・・・・その動きをコードで表現するとなると・・・」
 マサミチが言う。
「環境のプログラムはAIにやらせればいい」
 須恵器が言う。
「アバターが干渉すれば環境もそれに伴って変化します。当然ですが。
 町ではバスが走ったり、車が走ったり、信号が変わったり・・・店も必要だしシェフも必要です。水を飲めばコップの中の水は減って行くし、ステーキを切れば肉汁が出る。細かい所がちゃんと記述できていないとダメなんです」
「それもAIが記述する」
「シェフは勿論AIだな。ペットも飼うならそれもAI」
「味覚とか匂いとかどうやって感じるんだ?」
「環境にぽつぽつと感覚の素みたいのを設置します。感覚を刺激するポイントみたいな物。それに触れると匂いなり、味なりをアバターの受容体が感じる。そしてその情報をクライアントの意識に送る。だからアバターはほぼ全身受容体なのです。五感の」
「・・・・難しいな」
「そんな事、出来ないよ。(笑)」
「でも、すげえリアルな環境で魚釣りとかして、リュウグウノツカイとか釣れたら面白い。・・・釣り竿がめちゃくちゃ重くてさ、コノヤローって引いたらでっかいそれが出てきたりして」
「ジェラシックワールドの世界を実体験できるかも知れないな」
「惑星探査も出来るかも」

「AIが自分で世界を構築するって事だよな。世界中に散らばっている資料から情報の取捨選択をして自分でその世界を記述する」
「仮想フィールドでプログラムを書いて走らせるのはAI。メインホストのAIがコンダクターとして環境を作り上げる」
「複数のAIが共同作業でひとつの仮想フィールドを作り上げるんです。それは例えば、メインのAIが自分の一部分を担う分身を作って分業させる様な感じ。複数ではあるけれど、全部自分の一部みたいな」
「『虚無回廊』のHE2みたいな?」
「そう」
「めちゃくちゃ自律的なAIだな。ところで、そのすげえAIを誰が作るの?」
「誰か。賢い奴」
「じゃあ、マサミチ。お前が作れ」
「えっ? 俺?」
「お前はまだ高2だから一番可能性がある。それにお前、須恵器さんと同じ高校なんだろう? 東大進学率トップの。超有名校。
 眠っている時にそっちに意識が同期するっていうのはいずれにしろ、リアル度が高いゲームの方がクオリティは高いからな。プログラマーはマサミチ、物理はセリさん、システムエンジニアは深海魚さんで・・・須恵器さんは医学部か・・・そうなると須恵器さんは脳神経関係かな? 意識が同期するってやつの方。イラストレーターはユキさんがいるし、音楽はトム&ジェリーさんがいるし・・・」
 ハラグロは勝手に役割分担を割り振る。
「なんかさ、会社出来ちゃわない? 経理は会計事務所に勤めているアカネがやればいいし、シナリオライターはそりゃあ、みんな話を作るのはお手の物だし・・・」

「ハラグロさんは?」
「俺? 俺はまあ顧問かな?」
「顧問兼雑用ね」
 マサミチが言う。
「いいですよ。俺、やっても。面白そうだし」
 マサミチが偉そうに腕を組んでそう言った。
「そうか。俺、作家になろうと思っていたけれど、プログラマーか。まあ、それでもいいや」
「そんなすげえAIが出来たら、考えてやるよ」とセリと須恵器が返した。

「そのAI,名前はもう決めました。Hilinonです。隠された女神を見付けて起動させるのです」
 マサミチは嬉しそうに言った。
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