文字数 1,007文字

 秋生さんの家の会社が借金で困っていると言う情報を偶然早苗が掴んだ。それはたまたま未耶さんが休んだ日、帰ろうとしていたら、女性のお客さんが来て、先生はそのお客さんとそのまま準備室に入ってしまったのだ。その話を「さようなら」と言った早苗がこっそりと戻ってドアの外から聞き耳を立てたのだ。

 その話を早苗は早速私にした。彼女はいい事を聞いちゃったと言って興奮して電話を掛けて来た。

「姉さん。どうしたの?」って言うユリカ先生の声が聞こえたのよ。
 早苗は言った。

 その人は余程怒っていたのか声を荒げていて、それをユリカ先生が押し留めていた。
「秋生が」と言う言葉が聞こえた。早苗はもっと耳を欹てた。
 秋生さんがユリカ先生の甥っ子だという事は知っている。
 お教室の時、秋生さんが間違って「ユリカ先生」では無くて「伯母さん」と言ってしまった事があったからだ。ユリカ先生は苦笑いをしながら「実は私の甥っ子なの」と言った。
 早苗がずっとユリカ絵画教室を辞めなかったのは、それが原因だ。ユリカ先生は秋生さんに繋がっているからだ。同時にずっと未耶さんの友人でいたのも同様に秋生さんの情報が入って来るからだし、それに何よりも友達だと思っていた子に裏切られた時の悲しさを思い知らせてやれるからだと言った。ショックが大きくなるように、だから今のうちにうんと仲良くして置くのと言って笑った。

 ユリカ先生のお姉さんは言った。
「お父さんが、会社の金を使い込んだのよ。先物取引に。友達に借金までしたらしいわ。それも一人じゃ無いのよ。知り合いに儲け話を持ち掛けられたんですって。
 秋生の少ない貯金まで貸してくれって言ったらしいわ。(たかし)ももう、がっかりよ。私が貴からそれを聞いて、実家に行って父に話をしたら、途中から怒り出して怒鳴ったの。一体誰が育ててやったんだって! 俺だって会社の為にと思ってやった事なんだって。・・・全然変わりはしない。昔からあんな人よね」
「貴は末っ子で大人しい子だったから・・・」
 ユリカ先生の声が聞こえた。
「困ったわね。貴もちょっと前に裕子さんを亡くしたから・・・裕子さんがいたならお父さんもそんな事はしなかったのにねえ・・」
「お母さんも裕子さんもいないからやりたい放題よ。貴も秋生も可哀想で・・・」
「それで幾らだって?」
「3千万」
「ええっ!!」
 ユリカ先生は大きな声を上げた。
 早苗はそこまで聞くと笑ってドアを離れたと言っていた。
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