言葉の意味

文字数 1,092文字

言葉って複雑だよね

とある公園の脇で、いつも通りハイデガーとミータンは二匹並んで話していた。ミータンがハイデガーに言った。公園には二匹の他には誰もいない。
「意味が似た言葉がたくさんあるよね?優しさに近い意味の言葉もたくさんある」
そう言うとミータンは小枝を持って地面に言葉を書いた。
・優しさ
・思いやり
・愛
・親切
・情け
・慈しみ
「なんだか、こうやって並べると全部同じように見えてくるよ」
「色々な状況で使い分けられてるよね。僕は特にその人のバックグラウンドに大きく影響されてると思うな」
「バックグラウンド?」
「育ってきた環境のこと。一番大きいのは宗教だよね。例えば、キリスト教は愛を説く宗教だから好んで愛という言葉を使う印象がある。例えば、仏教では慈しみという言葉がとても大事にされてる。厳密なことはよく分からないけど、慈しみも優しさに近い概念だと思う」
「やっぱり言葉が違うと定義も違ってくるのかな?」
「もちろん違うと思うよ。でもあまりそこに対して考え込む必要はないと思う。大事なことは言葉の定義じゃなくて、言葉が指し示す内容だよね。優しいという言葉が指し示すもの、愛という言葉が指し示すもの、慈しみという言葉が指し示すもの。それを考えることが大事だと思う。そういうのは経験を観察しないと出てこないものだよね」
「言葉の意味そのものではなくて、言葉がどうやって使われているかをよく観察しようっていうことだね?」
「そうそう、分かりやすい表現だね」
「でも具体的にはどうやって観察するの?」
ハイデガーは少し考え込んだ。
「思いつく方法は2つだね。まず一つは日常の中で経験したことを観察すること。もちろん自分自身のことだけでなく、他人の話でもいいよね。もう一つは文献を調査することだ。例えば聖書を読んで、聖書の中で愛と呼ばれているものを観察する。例えば仏教の経典を読んで慈しみと呼ばれているものを観察する。つまり、日常体験と文献をよく調べるってことだね」
「君のご主人がやってるのは2つ目の方だよね」
「その通り。ご主人は研究者だから。文献調査はお手の物だよ」
「本ばかり読むのは大変だよ。僕は嫌だな」
「僕も嫌だよ。だから僕の話は全部、日常の経験に基づくものさ。良い点は考えやすいことだね。でも悪い点はあまり深く考えられないってことさ。難しくなるとすぐ諦めちゃうからね。その点、聖書や経典の内容はものすごく膨大で複雑だよ。だからこそ、そこから分かることも多いと思うんだ」
「なるほどね。でもそういうのは君のご主人に任せることにするよ」
公園に子どもたちがやってきた。二匹はいそいそと逃げていった。今日は解散だ。

終わり


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