結果論

文字数 1,644文字

ねえねえハイデガー

とある住宅の塀の上、三毛猫のミータンと白猫のハイデガーは2匹並んで道行く人を眺めていた。ミータンがハイデガーに話しかける。ミータンは別の星からやってきた宇宙人。本当はもっと人間に近い姿だが、訳あって猫の姿に化けている。
「あれは優しさだよね?」
ミータンが前足で目の前の家にいる二人の人間を指した。二人とも女性で、一人の女性が紙袋をもう一人の女性に差し出している。しかし、差し出される側の女性はなかなか受け取ろうとしない。少し困り顔である。
「あれも優しさと呼ぶには微妙だね」
「そうなの?贈り物をしてるんだよね?贈り主は間違いなく損をするよ。リターンもあまりないんじゃないかな?リターン÷リスクがあまり大きくなさそうだし、優しさと呼べるんじゃないかな?」
「確かにそれはそうだね。でもこの場合、受け取る側のことも考えないといけない。あの女性はどう見ても困ってるよね?あまり受け取りたくないみたいだ。それなのに無理に贈り物をしようとするのは優しさと呼べないかもしれないな」
「受け取る側が喜んでたらいいの?」
「そうだね。そういうことになるかな」
ハイデガーは少し考えたあとにまた話し始めた。
「前にした話は行為の主体についてだけの話だったよね?でも優しさを考えるときには行為の受けて側のことも考えないといけない。つまり、いくら行為の主体にとってリスクがある行為でも、相手に良い効果を与えないのならそれは優しさとは呼びにくいものになる。例えばある人が100万円の指輪を急に誰かに贈るとしても、贈られる側は不気味に思ってしまうよね?偽りのない優しさからの行動でも、たぶん素直に受け取ることはできないと思う。つまり行為の主体はリスクを負っているけれど、行為を受ける側に良い効果を及ぼしていない。これじゃあ、せっかくの行為が台無しだよね?」
「行為だけじゃなくて、その効果も大切だってことなんだね?」
「そう。その通り」
ミータンは少し考えこんでしまった。
「でもさ、行為の効果なんてやってみないと分からないじゃないか。贈り物をして喜んでもらえるかどうかなんて、実際に贈ってみるまで分からないよね?つまりは優しさって結果でしか見極められないってことなの?」
「それはすごく大事なポイントだよ」
ハイデガーは少し考えてからから答えた。
「これはあくまで僕の考え方だよ。一般論じゃないから注意してね。僕の考えでは、君の言うとおり優しさは結果からしか判断できない。つまりある行為を優しさと判断するには、その行為の結果を見ないといけない。結果を見るまでは優しさと呼べるかどうか分からない」
「それって少し寂しい考え方だよね。相手のことを考えて何かしたとしても、その結果、相手が喜んでくれなければ、単なるおせっかいだってことだもんね」
「そうだね。でも本当に相手のことを考えたなら、相手も必ず喜んでくれると思うんだ。だから結果論みたい考え方だけど、相手のためになる結果を得るには結果だけでは足りないと思う。絶対に相手のことを考える過程が必要になるはずだよ。その過程も含めて全部を、優しさと呼ぶんだと思う」
「ちょっと難しいね」
「じゃあ、このあたりでまとめようか」
ハイデガーは首輪から白チョークを取り出して、塀にまとめを書いた。
「ある行為を優しさと判断するには、その行為の結果を確認する必要がある。結果として相手に良い効果を及ぼしていないなら、優しさと呼ぶのは難しい。良い結果を得るためには正しい過程が必要。相手のことを考える過程も含めてすべてを優しさと呼ぶ」
書き終えたハイデガーはまた目の前の家を見た。先ほど困り顔だった女性は一転して、嬉しそうな顔をしている。
「どうしたんだろう?さっきまで困った顔してたのにね?」
「結果の判断も難しいってことさ。上辺だけ見ていては何も分からないんだ。あの人はたぶん本当は贈り物を喜んでたんだと思うよ」
「また難しい話になるね」

ハイデガーとミータンはその後も人間たちの様子を見守っていた。

終わり







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