小ネタ③故郷の話

文字数 3,303文字

故郷の話 ~3年生の場合~
アリシア

「ア~リス! 入るわよ」

アリス

「言いながら入っているじゃない。ノックくらいしなさいよ。

 行儀が悪いわよ」

アリシア

「固いこと言わないで。同じこの寮で2年間暮らしている仲間じゃない。

 仲間っていうか家族的な……」

アリス

「あっ、ちょっと踏んでる! 踏んでる!」

アリシア

「えっ? うわ、やば……紙袋?

 ……よかった、空ね」

アリス

「気をつけなさいよ、もう」

アリシア

「ごめんごめん。

 アリス達の部屋が散らかっているなんて、珍しいから」

アリス

「後輩たちからの遠足のお土産を仕分けているのよ。

 今、あなたが踏んづけたその紙袋に入っていたお菓子を取り分けているところ」

アリシア

「あ、1年生が行ってきたネバーランドのお土産ね?

 待っていたわ! そのために来たのよ」

アリス

「えぇ……? あなた、それでわざわざ私の部屋へ……。

 心配しなくても、このあと部屋ごとに分けて持っていくつもりよ?」

アリシア

「ふっ、甘いわアリス。

 こういうのは大抵、綺麗に等分できないものよ。必ず余りが出るはず。

 ……というわけで、余りのお菓子、ないかしら」

アリス

「ほんっっとうに食い意地が張っているわね……。

 まだ途中だから、待っていてちょうだい。

 ウェンディのベッドが空いているから、そこにかけていて。今いないから」

アリシア

「はぁい」

アリス

「……ええっと、どこまで分けたかしら。

 シュークリーム、プリンはいいとして……ああ、もう。キャンディとマシュマロの量が多すぎるわ。

 ……ここら辺は、共用スペースにでも置いておけばいいか」

アリシア

「あら、争奪戦ね」

アリス

「あなたくらいでしょう? そこまで食べたがるのは。

 ウェンディは食べないし、シエラはあまり寮にいないし。

 あとは……アイリーンも最近いないことが多いわね」

アリシア

「ああ、最近またご実家の方が忙しいみたいよ。

 ご両親が手紙残して出かけちゃったとか何とか」

アリス

「……前から思っていたけど。

 あなた達が気安く言う実家って、王家よね?

 大問題じゃないの」

アリシア

「うーん、あそこは元々がヤバい国だし今更ねえ……。

 ご両親との賭けに勝ってしまったものだから、頼られて(?)いるみたい。

 ほらアイリーン、前に1ヶ月くらい学園を休んだことがあったでしょう? その時よ」

アリス

「それはあなたもね、アリシア。同じくらいの時期に、同じくらいの期間休んでいたでしょう。

 ご家庭のことだから、詳細は聞いていないけれど」

アリシア

「え? あー、しきたりとか色々あって……。

 ……あ、そうだ。遊園地のお土産、後でシンフォニアのみんなにも送らないと」

アリス

「……まあ、他国のことだから私は関係ないけれど。

 正当な理由があるのなら、ちゃんと外泊届けを出すようにアイリーンに言ってちょうだい。事後報告で構わないから」

アリシア

「えー、難しいわよ。

 だって相手は未来の女王陛下よ? 公爵家の娘ごときが小言なんて、畏れおおくてとてもとても……」

アリス

「はいはい、そういうのいいから。

 ねえ、そっちのお土産も開封して分けてくれない?」

アリシア

「そっち、ってこれ?

 ……何よこれ、宝箱?」

アリス

「2年生からのお土産よ。

 先刻エリーゼが台車で持ってきてくれたの」

アリシア

「2年生というと、平安京に行ってきたのよね?

 何だっけ、あの国のエンペラー……ミカドのお城で貰った交易品かしら?」

アリス

「いいえ、トラブルで大幅に行程を変更したらしくて……。

 それは憂の知り合いの……、ナントカというドラゴン的な神様の親戚に貰ったらしいわ」

アリシア

「あら、エンペラーから神様の一族なんて、すごいランクアップじゃない! よくやったわ。

 しかもドラゴンの神様なんて、縁が深いわ。ぜひ来年の2年生にも会ってもらえるよう、今からアポイントメントを……」

アリス

「……それは、中を見てからの方がいいんじゃないかしら」

アリシア

「え? 何かまずい物が入っているの?」

アリス

「いえ、まだ開けていないわ。

 アリシアが開けて」

アリシア

「? ええ……じゃあ開けるけれど。

 …………ん? 何これ、蓋に変な紙が貼りつけてあるわよ。

 ミミズみたいな字で読めないけど、破っちゃっていいの?」

アリス

「そうなのよ。

 エリーゼからの伝言、というか憂からの伝言によると『人間宛てだというのを伝え忘れたから、開ける時は念のため注意して』だそうよ」

アリシア

「注意するって……何に?」

アリス

「さあ?

 ちなみに、エリカに聞いたことがあるんだけど。

 東洋には、海底の国から持ち帰った宝箱を開封したら、中から吹き出した煙に包まれて若者がお爺さんになってしまった、という御伽話があるそうよ」

アリシア

「えっ、ちょっと!

 これもそんなヤバい箱だったらどうするのよ!」

アリス

「…………。

 だから、あなたに頼んでいるんじゃない?」

アリシア

「…………。

 たしかに大抵の魔法への耐性はあるけれど。

 これは、後で開けるわ」

アリス

「よろしく」

アリシア

「………………。

 ええーっと、こっちの山もお土産?」

アリス

「ん? ……あ、そっちは違うわよ。

 お土産はお土産でも、それはこっちから送る分。プライベート用だから開けちゃ駄目よ」

アリシア

「え、これ全部あなた個人のお土産?

 いくら攻略対象20人いるからって多すぎない?」

アリス

違うわよ

 ウェンディやエリカ、それに1、2年生の分も入っているわ」

アリシア

「冗談よ、冗談。

 ……ふむふむ、これはウェンディかしら。ネバーランド宛てになっているもの。

 “ダーリング”ということは……なるほど、これが噂の弟さん方ね。

 一度会ってみたいのよね。話を聞いている限り、いじり甲斐がありそうだわ」

アリス

「あんまり見るのは失礼じゃないかしら?

 ……と言いつつ、私は確認のために全部見ているけれど」

アリシア

「盗み見しているみたいで、ちょっとわくわくするわね?」

アリス

「…………。

 そっちに、面白いのがあったのよね」

アリシア

「さすがアリス。話がわかるわ。

 どれどれ?」

アリス

「同じネバーランド宛てなんだけど、こっちは海軍の、しかも大佐宛て。

 一方でこっちは同じ船でも海賊の船長宛てよ」

アリシア

「海軍と海賊って、完全に敵同士じゃない。敵対している両者から好感度を稼いでいるのね。

 ウェンディ、やるわね。人は見かけによらないわ」

アリス

「ええ。敵同士と仲良くしているなんて、二重スパイみたいなものよね。

 それと、こっちはエリカの荷物なんだけど」

アリシア

「うんうん」

アリス

「ここを見て。宛て先住所のところ」

アリシア

「“グース夫人の館”? エリカの荷物はみんな宛先がここになっているわね。

 ……ん? ということは……」

アリス

「ええ、シェアハウスのようなものだと思うんだけど。

 エリカ……あんなに可愛い顔をして、一つ屋根の下にいる男性を同時に籠絡しているみたいなの」

アリシア

「同じ家の中で5人も……悪女ね。

 若いのに乱れているわ……」

アリス

「それとこっちは2年生の……」

アリシア

「ふむふむ……」

..............................
..............................
..............................
アリス

「…………」

アリシア

「…………。

 みんな、タラシだわ」

アリス

「たぶん、人のこと言えないわよ……。

 ……見なかったことにしましょう」

アリシア

「そうね……。

 ところで、どうしてあなたの部屋にみんなの荷物があるのよ。

 集荷は宿泊棟ごとではなく、各人が食堂棟の事務室へ持って行くんじゃなかったかしら?」

アリス

「それは……決まっているじゃない。

 この宿泊棟だけ荷物が多すぎるから、直接業者に集荷に来てもらうよう、学園側から言われたのよ」

アリシア

「……ああ、なるほど」

アリス

「あなたも誰かへお土産を送るなら、ここへ持ってきてね」

アリシア

「わかったわ。

 ……あの、私の荷物はほとんど同じ魔法学校の寮生宛てなんだけど……その、気にしないで」

アリス

「……わかっているわ。お互い様よ」

To be continued...
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登場人物紹介

アリシア=ヒルデガルド

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:会長

・寮ではアイリーンと相部屋。

アイリーン=オラサバル

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:副会長

・寮ではアリシアと相部屋。18~20歳。

アリス=リデル

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:寮長

・寮ではウェンディと相部屋。ロゼ棟の3年生代表。

シエラ=ロザン

・学年:3年生

・所属:風紀委員会 役職:副委員長

・寮ではエリカと相部屋。18~21歳。

エリカ=フルール

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:部長

・寮ではシエラと相部屋。16~18歳。

ウェンディ=ダーリング

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:会計 兼 副寮長

・寮ではアリスと相部屋。3年首席。一昨年度ミスコン覇者。

ルーク=ドイル

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:副部長

・16~18歳。

オデット=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮では静と相部屋。昨年度ミスコン覇者。

涼江 静(すずえ しずか)

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮ではオデットと相部屋。

リーザ=ベルネット

・学年:2年生

・所属:風紀委員会

・寮ではロザリアと相部屋。

ロザリア=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮ではリーザと相部屋。

龍田 憂(たつた うい)

・学年:2年生

・所属:生徒会 役職:書記

・寮では澄と相部屋。2年首席。

一条 栞(いちじょう しおり)

・学年:2年生

・所属:風紀委員会 役職:委員長

・寮ではエリーゼと相部屋。18歳。

黒門 澄(くろもん すみ)

・学年:2年生

・所属:風紀委員会

・寮では憂と相部屋。

エリーゼ=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮では栞と相部屋。ロゼ棟の2年生代表。

ジュリエット=キャピュレット

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮ではローズと相部屋。

八津瀬 琴子(やつせ ことこ)

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では信乃と相部屋。ロゼ棟の1年生代表。

犬塚 信乃(いぬづか しの)

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では琴子と相部屋。

リヴ=トレゾア

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではリディアと相部屋。

ルシエル=イヴリース

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では千影と相部屋。17歳。1年首席。

ローズ=ディノワール

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではジュリエットと相部屋。

リディア=グリーン

・学年:1年生

・所属:お茶会部

・寮ではリヴと相部屋。

千影(ちかげ)

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではルシエルと相部屋。

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