三つ巴の予算争い

文字数 9,856文字

学生寮内の、とあるフロアのキッチンで、リヴは休憩用の小さな丸椅子に座っていた。
数枚の書類を片手に持ち、静かに目を通している。

それは放課後の生徒会活動で終わらず、寮まで持ち帰った仕事だった。

皆が自室でくつろいでいる時間に、まだ仕事に追われている状態。

いつもなら憂鬱で早く終わらせてしまいたいところだが、今日は違った。

それどころか、今のリヴはかなり上機嫌だった。
リヴ

(…………。

 うん。このペースなら、焼きあがるまでに最後まで読み終わりそう)

やがて、コツコツと誰かの足音がキッチンへ近づいてきたのに気づき、リヴは顔をあげた。
リヴ

「? ……あら、憂。こんばんは」

「ああ、リヴ。こんばんは」

リヴ

「どうしたの? 1年生のフロアに、何か用事?」

学生寮の全体は、複数の建物に分かれている。

中心部の食堂棟を囲むようにいくつかの宿泊棟が建ち、学生はそのどれかに各々の自室を持っているのだ。

リヴと憂は、同じ棟の住人だが、学年が異なるため居住フロアが少し離れていた。

だいたいの共用施設はフロアごとに付属しているから、用事もなく他の学年のエリアに来ることはあまりない。

「いえ、そういうわけではないのだけど……。

 水を飲もうと思って2年生のキッチンへ行ったら、他の子たちがお菓子か何かを作っていて」

リヴ

「? ええ」

「ついでだから『手伝いましょうか?』と声をかけたら、血相を変えてすごい勢いで追い出されたわ……」

リヴ

「…………そう。何故かしらね……」

生徒会の先輩である憂とはまだ1か月ほどの付き合いだが、原因には何となく察しがついた。
リヴ

(いつも、生徒会室で憂がお茶を淹れようとすると他の幹部が全力で止めるのは……きっと、そういうことよね……)

リヴ

「ええっと……お水、どうぞ」

「ありがとう、お邪魔します……。

 ところで、いい匂いね。あなたもお菓子作り?」

リヴ

「ええ! そうなの」

先程までの上機嫌を思い出して、リヴの声が一段高くなる。
リヴの座っている椅子の前では、暖かな光と果実の甘い香りを発するオーブンが、その機械音を振るわせている。

調理台は既に片付けられているが、水きりに洗った包丁やボールが並べられていた。

「あなたがそんなに上機嫌ということは、林檎ね?」

リヴ

「ええ。新しい林檎が届いたから、早速アップルパイをつくっているの」

「えっ、ご実家からまた届いたの!? この間、生徒会であんなに振る舞っていたのに……。

 林檎農家さん……?」

リヴ

「うーん……私も頻繁すぎるとは思っているんだけど……。

 ちゃんと食べないと、うるさいのよ」

リヴ

(何故か届いた林檎を消費するペースを把握されているのよね……。

 食べ終わった頃に、次の便が届く……まあ、好きだからいいけど)

リヴの実家 (というと何だか温かみのある言い方だが、つまり城だ) からは週1ペースで大量の林檎が配達されてくる。
好物というのもあり、最初のうちは喜んでそのまま食べていたが、あまりに頻繁なので最近ではアレンジを試し始めていた。
リヴ

「ウェンディに作り方を教わってから、最近はアップルパイに嵌まっているのよ。……彼女自身は絶対に食べてくれなかったけど。

 良かったら、憂も食べる?」

「えっ。

 い、いえ……。先週まで相当な頻度でいただいたから、さすがにもう……。

 ……ここで調理しているということは、寮の1年生に振る舞うつもりなんでしょう? 私は遠慮しておくわ」

リヴ

「そう? じゃあ、また今度つくるわ」

「…………。……その、飽きないの?」

リヴ

「いえ? 全然」

「…………そう」

リヴ

(だって美味しいもの、林檎)

少々呆れた様子の憂が、ふとリヴの持つ書類に気づいた。

「ええっと……。それ、生徒会の書類よね?

 寮でまで仕事をさせてしまって、悪いわね」

リヴ

「いいえ、焼きあがるまでの時間が暇だったし、ちょうどいいわ。

 それに、仕事と言っても内容のチェックを頼まれただけだから」

「チェック? ……ああ、"新入生オリエンテーション報告"。

 今日アリシアが作成していたものね」

リヴ

「実際にその場にいた人が確認した方がいいからって、頼まれたの」

「へえ。ちょっと見せてもらえる?

 私は内容を知らないけど……これ確か、アリシアが担当したのよね?」

リヴ

「ええ、そうよ。

 ……なかなか印象的なオリエンテーションだったわ」

..............................
..............................
..............................
入学式のあと、新入生は大講義室でオリエンテーションを受けていた。
先程、風紀委員会による校則や学校生活での大まかな注意事項の説明があったところだ。

その後10分ほど休憩を挟み、今は生徒会によるオリエンテーションが始まっていた。

アリシア

「……選択必修単位は、決められたカテゴリの中から、それぞれが自由に選択して履修することになっている科目よ。詳しくは表を見てもらえればわかるけれど、通常の一般的な教養科目の他、政治経済やマネジメントや帝王学から、果ては魔法や妖術や戦闘論まで、学園には様々な講義が用意されて……」

パラパラと配布冊子をめくりながら、リヴは生徒会の現会長だという女生徒の話に耳を傾けていた。
リヴ

(帝王学から戦闘論……? 本当に?

 一般の学校にしては充実しすぎ…………いえ、明らかに一般の学校ではないんだったわね。ここ)

ある日突然、リヴの元に届いた入学通知だった。

軟禁されていた城の自室に、直接その手紙は現れたのだ。

学校名に心当たりは全くなかったものの、城から出たい一心で友人の助けを借り、ここまで来た。
結局、家人にはすぐにバレてしまったのだが……なぜか、学園敷地から出ないことを条件に在学が許された。
リヴ

(……不思議。本当に不思議

アリシア

「……学園にいる限り、各々が知識を欲すれば必ずそれを学ぶ場が提供されることを、生徒会長の私が保障するわ。

 長いようで短い学園生活……時間は有効に、ね?」

リヴ

(……そうね。せっかく外に出られたのよ。

 役立つ知識を身につけて、帰らないと)

謎は尽きないが、この機会を利用しない手はない。

政治だろうと護身術だろうと魔法だろうと……この際、付け焼刃でも何でも、ここにいられる間に学んでみようと誓う。

リヴ

(そういえば、先刻までの説明で、学園生は部活動参加が義務付けられていると言っていたわね)

どうせ学校の敷地内から出るなと言われている身だ。

(城にいる彼がどうやって察知するのかは謎だが、何だか怖いのでとりあえず概ね守ろうと思っている。)

放課後にやることもないので強制参加も構わない。

リヴ

(部活か……どうしようかな。

 そもそも部活ってどんなことをするのかしら)

アリシア

「……と、まあ形式的な説明はここまでにして。

 ここからが本題よ!」

壇上の女生徒が、手をパンと叩いた。

音につられて思わず顔をあげると、女生徒の力強い目と視線がぶつかる。

アリシア

「今日の説明で一番重要なところだから、もし隣に寝ている人がいたら起こしてあげてちょうだい」

リヴ

(……? えっと、隣……?)

何となく、リヴに向かって言われているような気がして、隣の席を見る。
隣の席人とは特段会話などしていないが、休憩時間にちらっと見た時には、女の子だったはずだ。

変わった髪色をした、歳の近そうな子だった。

リヴ

(休憩のときに話しかけようか迷ったけど……。

 ……思えば私、メイドのマリー以外に同年代の女の子と話したことないのよね)

今までの人生、あまりに友人経験が少なかったことから尻込みしてしまい、結局話しかけることなく休憩は終わってしまったのだった。
そんなことを思いながら目線だけで隣を伺ったリヴは……、思わず二度見をした。
リヴ

「えっ……」

リディア

「…………すぅすぅ」

リヴ

(ほ、本当に寝ていた……)

目を惹くブロンドを背中に散らし、その横顔をリヴの方へ向けて机上に突っ伏す女生徒の姿があった。
数瞬、呆然と固まったが、起こすように言われたことを思い出し、リヴは遠慮がちに彼女の肩に触れた。
リヴ

「あの……、起きて……」

リディア

「んん……、……ん?」

少し揺らすと反応があり、半分目をつむったままではあるが、彼女は上半身を起こした。
リヴ

(良かった……。

 ちょっとやそっとじゃ起きないくらい眠り込んでいたら、どうしようかと思った)

リヴ

「あの、これから大事な話をするそうだから……」

リディア

「んん……大事な話……?」

彼女がむにゃむにゃ言っているうちに、説明が再開した。
アリシア

「では、本題に行くわよ。

 この学園において、全学生に部活動への参加が義務付けられていることは、先刻話したわね?

 この部活動には、いわゆる"部活"の他に同好会や研究会や委員会などが含まれる。私が所属している生徒会もね」

リヴ

(うーん、部活というのはよく分からないけど、委員会や研究会なら何となく想像がつくかしら……)

アリシア

「では何故、こうした組織への所属が義務となっているか。

 ……それは、この学園では、学生にとある"ゲーム"に参加してもらうという絶対的ルールがあるからよ」

リヴ

(ゲームに、ルール?)

いささか唐突な単語に、リヴは何となく、城でよく遊んだトランプのポーカーを思い出した。
リヴ

(全校生徒でポーカー大会……なわけはないわね。

 ポーカーなら少し自信があるけど)

アリシア

「ふふふ……このゲームへの参加は学園生である限り、強制よ。

 ゲームに参加しないと在学できない、……それがルール」

リヴ

(……なんだかあの生徒会長さん、楽しそうね)

アリシア

「そのゲームとは! "部活対抗☆ポイント争い"ゲームよ!!」

リヴ

(…………は?)

びしっっと壇上から新入生に向かって指を突きつける大仰な仕草と口調に反して、講義室の反応は薄かった。

おそらくリヴ同様に、呆気にとられている者が多い。

横で身じろぐ気配がして、リヴが再び隣の女生徒を見ると、彼女はまたしてもうつらうつらとしていた。
リディア

「…………ん」

リヴ

「…………」

……一応、軽く突っついて上体を安定させておく。
新入生らの反応を気にせず、ゲームとやらの説明は続いた。
アリシア

「ちなみに、名前は今私がつけたわ。

 とくに名前はないのよ。学生は単にゲームとだけ呼んでいるわね」

リヴ

(これ、本当に重要な説明なのかしら)

アリシア

「ルールは簡単。

 その名の通り、部活対抗のポイント制よ。ゲーム終了時に最も多くのポイントを獲得していた組織が優勝。

 ゲーム期間は年始から年末まで。……年度末ではないところに注意ね。既に今年のゲームは始まっているわ。

 新入生である皆には、途中参加してもらう形になる」

リヴ

(……ん?)

ふと、肩に何か当たる感覚がして、リヴは右を向いた。
すると、隣の女生徒がリヴの肩に頭をのせて気持ちよさそうに寝ていた。
リディア

「…………すぅすぅ」

リディア

「ちょ、ちょっと……」

アリシア

「ポイントの増減は、通常の学園生活の様々な場面で起こるわ。

 定期試験で良い成績を修めたり、部活動で活躍したりすれば、その学生の所属する組織にポイントが加算される」

ゆすって起こせばいい……のだが、今まで感じたことのない柔らかく温かい重みに、リヴは混乱して動けなかった。

リヴ

(ど、どうしよう……?

 動いたら、この子の頭が落ちちゃわない!?)

アリシア

「逆もまた然りよ。

 校則違反や遅刻、それに授業中の居眠りなんかを繰り返していると……」

居眠り、という言葉に反応し、リヴは反射的に顔をあげた。
その言葉を発した人物は……、広い講義室であるにも関わらず、ばっちりリヴと目を合わせたうえに、にっこり微笑んだ。
アリシア

「……その場で所属組織が減点されることになるわ。

 気をつけてね?」

リヴ

(か、完全に目をつけられている……!

 というか、私は関係ないわよ!?)

すやすやと寝息を立てているのは、リヴではなく隣人だ。
リヴ

(理不尽……)

アリシア

「次に、賞品の話よ。

 ゲームであるからには当然、勝者に褒美が、敗者には罰が与えられるわ」

リヴ

(……もういいや。説明、聞こう)

右肩は相変わらず枕にされているものの、入学早々に何かを諦めたリヴは、もう気にしないことにした。
アリシア

「まあ、罰といっても安心して。このゲームが賭けているのは人命や領土ではないから。

 個人に大きな影響があるようなものではなく……影響があるのは、所属組織の方ね。

 このゲームが賭けているのは……予算よ」

リヴ

(…………予算

 ……え? 予算って賭けるもの?)

聞き間違いかと思ったが、続く説明は間違いでないことを示すものだった。
アリシア

「ゲーム期間が年度ごとでないのは、このせいよ。……予算決定に間に合わないから。

 多くのポイントを獲得した組織は、次年度、より多くの活動費を得られる。そしてポイントの低かった組織は、活動を縮小される、というわけ。

 生徒会だって例外ではないわ。……公平で、合理的でしょう?」

リヴ

(合理的……かしら)

アリシア

「……ま、入学したばかりだし、まだどの組織にも所属していないし、ぴんと来ないかもしれないわ。

 でも、これは学園をあげて毎年やっているゲーム。……お金が絡むとやる気を見せる人も多いから、結構盛り上がるのよね。


 ――そういうわけだから、全員、心してかかりなさい」

生徒会長が不敵な笑みを浮かべて命令口調で言うと、自然と講義室全体の空気が変わった。
半信半疑、または冗談半分に聞いていた新入生の多くが、今の一言によりこの"ゲーム"を受け入れ、参加の意志を持ち始めたのがわかる。
リヴ

(……ゲーム、か)

アリシア

「じゃ、最後に。

 新人の皆に、今年のゲームの現在の戦況を伝えておくわ。

 現在のところ、抜きんでてリードしている組織はないわね。

 ……ただし、どこも足並みを揃えているというわけでもないわよ」

今まで壇上から動かずにその存在感を発揮させていた生徒会長は、そこで初めて教壇を下りた。
と言っても、話者をおりたわけではなく、資料準備のために退いただけのようだ。

入れ替わりに何人かの生徒が壇に上がり、黒板に大きなポスターを貼りはじめた。

リヴ

(あれは……組織図、かしら。それと、誰かの写真?)

その間も説明は続く。
アリシア

「現在、他の組織に大きく差をつけている主だった組織は三つ!

 トップ争いに関しては、実質的に、この三勢力による三つ巴の体を成しているわ。

 今のところかなり均衡していて、決着がつくのはまだ先になりそうよ」

やがてポスターの準備が終わり、彼女が壇上に戻ってくる。

アリシア

「今日は、これらの組織を簡単に説明して終わるわね」

三枚貼られた写真のひとつは、彼女自身のものだった。

それを、コンと手の甲で叩く。

アリシア

「まずは、我が生徒会。

 私、3年生のアリシア=ヒルデガルドが生徒会長を務め、同じく3年生のアイリーン=オラサバルが副会長を務める組織」

リヴ

(定番ね)

アリシア

「それに、会計で3年生のウェンディ=ダーリング、書記で2年生の龍田憂を加えた、幹部と呼ばれる4人が中心となって、学園生の取りまとめを行っているわ。

 学園生の指揮系統の最上位に位置し、準備委員会と共に全ての学校行事に携わり、各組織を管理し、予算の決定や様々な書類決裁や学園内の備品管理や……。主だったものから、縁の下の力持ちのようなものまで、仕事は膨大で多岐にわたる」

アリシア

「生徒会というだけあって認知度が高く、毎年多くの優秀な人材に恵まれるおかげで、例年ゲームの優勝候補よ。

 ただ権力性が強いせいで他の組織から反感を買うことも、正直なところあるわね」

リヴ

(生徒会か……。

 実は、ちょっといいかも、と思っているのよね)

学園にいる間に、今後に役立つ知識を得たいと思っている。
世間知らずを自覚しているリヴにとって、学校の生徒会で組織の所管について学ぶのは有益であるような気がしていた。
リヴ

(今後……いつになるかわからないけど、国を取り戻した時のために。

 学校の生徒会くらいが、世間ずれを直すにはちょうどいいかもしれないわ)

アリシア

「そして、風紀委員会。

 ……先刻、私の前に登壇していたわね」

生徒会長、アリシアの手の示す先が、次の写真へ移った。

そちらに写っている人物にも、見覚えがある。

休憩の前に同様にオリエンテーションで説明をしていた女生徒だ。

アリシア

「風紀委員会……、2年生の一条栞が委員長よ。

 副委員長は、3年生のシエラ=ロザン」

リヴ

(風紀委員会……。名前からすると、風紀を守るための組織よね。

 でも、先刻のオリエンテーションでは――)

アリシア

「風紀委員会は、名目上は他の下部組織の委員会と変わらないけれど……その立場が少し特殊なの。

 学園生の風紀を守る任務……校則違反を取り締まったり、生活態度を更生させたり、ね。

 それに見回りと並行して、校内警備も担当しているわ。魔物が校内に現れた際には、討伐クエストを受注したりも、する」

アリシア

「……腕の立つ人材が多いから、一部の学生に恐れられているわ。

 逆に、憧れられていたりもするみたいだけど」

リヴ

(いち生徒でありながら、魔物と戦う……確かに特殊ね。 

 でも、私には難しそうだわ……例の不思議な力を使いこなせたら、別かもしれないけど)

アリシア

「それに、風紀委員会の重要な任務はもう1つ……他組織の監視と弾劾よ。

 学園生の風紀だけでなく各組織のコンプライアンスのためにも立ち回り……、場合によっては裁きを下す」

アリシア

「ちなみに、この対象には上部組織である生徒会も例外なく含まれているわ。

 ……もちろん、生徒会は弾劾されるような黒い組織ではないけれどね?」

彼女は、その言葉とは裏腹に、悪そうな笑みを浮かべた。
リヴ

(……食えないわね)

アリシア

「そして……」

壇上のアリシアがもう一歩ずれて、隣のポスターを手の甲で叩く。

写っているのは、黒髪の女生徒だ。

三枚の写真中でこの人物だけ、リヴには心当たりがなかった。
アリシア

「彼女は、お茶会部の現部長よ」

リヴ

(……は? 何部ですって?)

生徒会、風紀委員会、までは一般的な学校でもよくある組織だとして……、今のは全く聞き慣れなかった。

およそ、生徒会や風紀委員会と肩を並べるとは思えない。

リヴ

(お茶会部? えらく呑気そうな部活ね)

アリシア

「……ああ、失礼。お茶会部というのは通称だったわ。

 本来の名前は新聞部よ」

リヴ

(それなら、まだ聞いたことがあるけど……。

 新聞とお茶会に、いったい何の関係が)

アリシア

「この写真が、現部長で3年生のエリカ=フルール。去年までは別の子だったけど……まあ、それはいいわね。

 副部長は同じく3年生のルーク=ドイルよ」

アリシア

「この部活は……正直言って、かなり特殊ね。生徒会や風紀委員と違って大した権力はないし、全体の人数だって少ない。

 月に一度の校内新聞を出すのが主な活動だけど、メインは……お茶会を開くこと、だと思う」

リヴ

(……なにそれ)

アリシア

「一人一人のメンバーは優秀で、侮れないわ。

 新聞も毎度好評、そのたびにポイントを稼いでいる。それに新聞だけでなく、メンバー自身が人気というのもあるわね。

 新聞のネタ集めという名目で定期的に一般生徒を招くお茶会をしているようだけど、それもまた好評で……とにかく、他の生徒からの好感度が抜群なのよ。……マスコミにしては珍しいわ」

アリシア

「それにあのお茶会……ネタ集めとか言っているけど、情報源としてかなり貴重だわ。実際あの新聞、生徒会も把握していない事象を扱っていることが少なくない。

 権力性のある組織の元に、一般生徒の本音は集まらないもの。

 ぜひ今度盗み聞きをさせてもらいた――……失礼、ゲームには関係なかったわね。

 ……まあ、お茶会部に関しては、こんなところよ」

リヴ

(? 結局どういう部活なのか、よくわからなかったわ)

三組織の説明が終わったところで、終業のチャイムが鳴った。
アリシア

「本当は、もう1つ紹介すべきでしょうけど……、それは次のオリエンテーションに譲ろうかしらね。

 とはいえ、今説明した組織以外にも、学園にはたくさんの部活動があるわ! 皆、悔いのないように所属を選ぶことね。

 私の話は以上よ」

これにてこの講義室でのオリエンテーションは終了ということで、起立の号令がかかった。
一斉に椅子を鳴らしながら立ち上がった周囲の生徒に合わせて、リヴも立ち上がろうと腰を浮かしかける。
が……、そこでようやく、そういえば隣の席の女生徒に寄りかかられたままだというのを思い出した。
リディア

「…………ぐぅぐぅ」

リヴ

(う、うそ……。

 途中から気にしていなかったけど、まさかこの子、ずっと寝ていた……!?)

リディア

「…………う~~~ん……むにゃむにゃ」

リヴの肩のどこがそんなに寝心地良かったのか、彼女の睡眠は熟睡の域に達しているようだった。
リヴ

「お、起きて! さすがにもう起きて!」

リディア

「…………んんん?」

もはや遠慮も忘れてリヴが肩を揺さぶると、彼女はようやく目を覚ました。
リディア

「寝ちゃった……? じーっと座ったまま長々と話を聞くのは久しぶりで……。

 …………あれ? ええっと……あなた、誰?」

リヴ

こっちの台詞なんだけど、それ」

リディア

「うわあ……誰だか知らないけど、すごく美人ねえ……」

リヴ

「…………はあ」

リヴ

(意識し出したら、急に右肩が痛くなってきたわ)

……結局、号令は座ったままのリヴ達を置き去りにして終わってしまった。
アリシア

「夕食の前に学生寮のオリエンテーションがあるから、全員、時間までに食堂棟に集まること!

 それまでは自由時間よ」

着席するや否や、講義室は一斉に興奮した話し声でいっぱいなった。

その内容のほとんどは、先程の興味深い"ゲーム"に関するものだ。

どの部活に入ろうか、早速情報交換が行われている。

そんな中、ガヤガヤとうるさい講義室でもよく通る声が、リヴにさらなる追い打ちをかけた。
アリシア

「それと、そこの黒髪と銀髪の美少女2人!

 ……その可愛い顔、ちょっと貸しなさい?」

リヴ

「……げ」

リヴ達のことを言っているのは、誰がどう見ても明らかだ。

目が合っているどころではない。人差し指の先を天井に向け、手招きまでされてしまっている。
リヴが青ざめている一方、同時に指名された相方は、呑気に目をこすっていた。
リディア

「え? それって私も?」

リヴ

「むしろ、あなたのせいだと思うわ……」

..............................
..............................
..............................
リヴ

「……あのあと、何故だか知らないけど、生徒会へ勧誘されたのよね……」

リディア

「オリエンテーションのときの話? あったわね。

 ……私は、あんまり覚えていないけど」

先刻までここで書類を見ていた憂が2年生のフロアへ帰ってしばらくした頃、他の1年生達へ誘いをかけに行っていたリディアが、キッチンへ戻ってきた。
読み終わった生徒会の書類は、椅子の上に投げ出されている。

今は、焼き上がりまでの残り秒数を表示するオーブンの前に2人してしゃがみ込み、その時を待機していた。


リヴ

「ふふ、あともう少しね」

リディア

「本当に好きねえ、林檎……。

 とりあえず、みんなには私達の部屋で待ってもらっているから、出来上がったら運びましょう」

リヴ

「ええ、楽しみだわ」

リヴ

(隣で爆睡された子が、寮の相部屋とはね……おかしな縁)

入学初日に生徒会長に呼び出されるという稀有な体験をした彼女とは、そのまま仲良くなって今にいたる。

……数少ない同年代の友人だ。

一緒に生徒会にも誘われたが、彼女は柄じゃないからと断っていた。
リヴ

(結局リディア、"あの"お茶会部に入ったのよね?

 何というか、さすがだわ……)

今度活動内容を聞いてみようとリヴが密かに思ったところで、目の前のオーブンがピッ、ピッと音を鳴らし最後のカウントダウンに入った。
リヴ

「! いよいよね」

リディア

「はいはい。ナイフを準備するわ」

リヴ

「ええ!」

リヴ

(楽しみ……なのは、アップルパイもだけど。

 歳の近い女の子と部屋でお菓子パーティなんて、生まれて初めてなのよね)

期待に胸を躍らせながら、リヴは加熱を終えたオーブンの取っ手に手をかけた。
To be continued...
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登場人物紹介

アリシア=ヒルデガルド

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:会長

・寮ではアイリーンと相部屋。

アイリーン=オラサバル

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:副会長

・寮ではアリシアと相部屋。18~20歳。

アリス=リデル

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:寮長

・寮ではウェンディと相部屋。ロゼ棟の3年生代表。

シエラ=ロザン

・学年:3年生

・所属:風紀委員会 役職:副委員長

・寮ではエリカと相部屋。18~21歳。

エリカ=フルール

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:部長

・寮ではシエラと相部屋。16~18歳。

ウェンディ=ダーリング

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:会計 兼 副寮長

・寮ではアリスと相部屋。3年首席。一昨年度ミスコン覇者。

ルーク=ドイル

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:副部長

・16~18歳。

オデット=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮では静と相部屋。昨年度ミスコン覇者。

涼江 静(すずえ しずか)

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮ではオデットと相部屋。

リーザ=ベルネット

・学年:2年生

・所属:風紀委員会

・寮ではロザリアと相部屋。

ロザリア=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮ではリーザと相部屋。

龍田 憂(たつた うい)

・学年:2年生

・所属:生徒会 役職:書記

・寮では澄と相部屋。2年首席。

一条 栞(いちじょう しおり)

・学年:2年生

・所属:風紀委員会 役職:委員長

・寮ではエリーゼと相部屋。18歳。

黒門 澄(くろもん すみ)

・学年:2年生

・所属:風紀委員会

・寮では憂と相部屋。

エリーゼ=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮では栞と相部屋。ロゼ棟の2年生代表。

ジュリエット=キャピュレット

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮ではローズと相部屋。

八津瀬 琴子(やつせ ことこ)

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では信乃と相部屋。ロゼ棟の1年生代表。

犬塚 信乃(いぬづか しの)

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では琴子と相部屋。

リヴ=トレゾア

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではリディアと相部屋。

ルシエル=イヴリース

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では千影と相部屋。17歳。1年首席。

ローズ=ディノワール

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではジュリエットと相部屋。

リディア=グリーン

・学年:1年生

・所属:お茶会部

・寮ではリヴと相部屋。

千影(ちかげ)

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではルシエルと相部屋。

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