休戦の特別地区_2

文字数 9,066文字

☆前回までのあらすじ☆
ルーク

「入学初日のジュリエットの話だ。

 彼女の寮の相部屋相手は、なんと角と羽根と尻尾の生えた女の子だった!

 ……小悪魔系女子ってやつか? そういうの好きな男もいるよな」

..............................
..............................
..............................
アリス

「……全員、指定の席に座った?

 いま同じテーブルに座っている人達が、同じ宿泊棟のメンバーだから顔を覚えておいてね」

アリス

「さらにそのテーブルで隣に座っている人が、これから3年間、相部屋で過ごす相手よ。

 とりあえず、数分時間をとるから自己紹介をし合いましょうか」

彼女が言い終ってマイクのスイッチを一度きると、オリエンテーション中であるはずの食堂は一気に話し声で満たされた。
おずおずと名前や出身を言い合う者。

話題づくりに資料をめくりながら少しずつ打ち解けていく者。

自己紹介そっちのけで”ゲーム”について盛り上がるテーブル……。

男女ごとに分かれていることもあってか、今までのオリエンテーションより雰囲気が気安い。
……しかしその中に、比較的静かなテーブルがあった。
琴子

「…………」

信乃

「あの……先刻は……」

琴子

「…………」

信乃

「…………。

 ……え、笑顔が怖い…………」

琴子

「何か、仰有いまして?」

信乃

「……い、いや何でも」

リディア

「あら、先刻の綺麗な子! 同じ部屋なのね、すっごい偶然」

リヴ

「ええ……すっごい偶然だわ……」

リディア

「……肩を押さえて、どうしたの?

 凝っているの?」

リヴ

「ええ、誰かさんのせいで

 ……気にしないで。最近運動不足なのよ」

リディア

「ああ、そういえば私もしばらく運動していないわ……。

 そうだ。良ければ、肩もむわよ?」

リヴ

「えっと……いらないわ」

ルシエル

「よ、よろしくお願いします。ルシエルです」

千影

「ルシエルさんね。

 私はちか――じゃなくて、光よ。よろしく」

ルシエル

「ええ! こちらこそ」

千影

「…………。

 あの、ところで、どうしてそんなに離れたところに座っているの?

 喋りづらいから、もう少し近くに――」

ルシエル

「いえ、気にしないで! 私はここで大丈夫だから」

千影

「そう……?

 でもそこ、ほとんど廊下よ……?」

ジュリエット

「…………」

ローズ

「…………」

ジュリエット

「…………」

ローズ

「…………。

 私はローズよ、ローズ=ディノワール」

ジュリエット

「……ジュリエット=キャピュレットよ」

ローズ

「ジュリエットね。

 その、よろしく……?」

ジュリエット

「ええ、よろしく…………」

ジュリエット

(…………いや。魔物相手によろしくって、どうなの?)

ジュリエットは目の前の女子生徒をじっと見た。

もしかするとかなり胡散臭げな視線だったかもしれないが、非礼を気にしていられない。

夕方に校舎裏で子供の魔物と一緒にいた制服の女性……。

目の前の彼女には角と羽根こそない(それと耳の形も違うような気がする)が、うり二つの双子でもない限り、同一人物なのは間違えようがない。

ジュリエット

「…………。

 一応、聞いておきたいのだけど」

ローズ

「なに?」

ジュリエット

「結局、あなたって魔物……なのよね?」

ローズ

「だから、違うわ」

ジュリエット

「まあ、もちろんそう言うしかないわよね……」

ローズ

「いや、本当に違うから。私は魔物じゃなくて――」

ジュリエット

「あのときは初めて魔物を見て動転していたけど……あれから、冷静になってよく考えたの。

 たとえ魔物だったとしても、敵意のない相手を攻撃するのは良くなかったわ。

 まずは、言葉で解決すべきだった……ごめんなさい」

ローズ

「なら今、話を聞いてよ……」

ジュリエット

「たとえあなたが魔物だろうと、入学を認められた学生であるなら攻撃はしない。

 普通の学生として生活をしていくなら、銃口を向けることはないから安心して。

 ……ただし、もしも人間に危害を加えるようなら、撃つわ」

ローズ

「……そう。とっても安心だわ……」

物騒な言葉を口にしている自覚はある。

だが仕方のないことだ。

ジュリエット

(……これは、ハンター寮よりハードな寮生活になるかもしれない……)

..............................
――30分ほど前。

想定よりも長くなってしまった散歩 (?) から戻ったジュリエットは、遅刻することなく本日最後のオリエンテーションへ参加していた。

アリス

「新入生のみんな、入学おめでとう。それと、今日は一日お疲れ様。

 これが終われば夕食だから、もう少しだけ時間をとらせてね」

学生寮の中央に建つ食堂棟。

その名の通り、食堂施設がその建物のほとんどを占めている。

1階に食堂や厨房など、2階には事務室や倉庫、同窓会室などもあるらしい。
食堂は入学式のあった講堂に劣らないほど広く、新入生全員が座ってもまだ余裕がある。

カウンターを隔てた厨房から夕食の美味しそうな匂いが漂ってくる以外は、オリエンテーションの会場として適している言えた。

今カウンターの前では学生寮の代表生徒、つまり学生寮長である3年生がマイクを持っていた。
アリス

「まず初めに、寮の役割について説明するわ。

 学生寮はもちろん、学園に通う学生の衣食住のための場所だけれど、もうひとつ重要な役割があるの。

 ……先刻、生徒会のオリエンテーションで”ゲーム”の話は聞いた?」

ジュリエット

(ゲーム? ……ああ、そういえばそんなことを生徒会長が言っていたわ)

周りの新入生たちは即座にうなずいている。

しかし生徒会オリエンテーションの後に、わりと衝撃的な出会いをしていたジュリエットは、一瞬何のことか思い至らなかった。

アリス

「私は生徒会長がどう説明したか聞いていないけれど……。

 学生全員が強制参加のゲーム、ゲームなしにはこの学園で過ごせないルールの……部活動対抗の予算争いゲームのことよ」

アリス

「学園生が学園で過ごしている間のすべての行動が、ゲームの対象になる。

 学園の敷地以内にいる限り、学業も部活動の功績も研究成果も生活態度も、予算争いのポイントに関わってくるわ」

ジュリエット

(要は、どこかへ所属して真面目に学生生活を送ればいいのよね。

 それなら、第一候補は風紀委員会だわ。魔物の情報を知りたいもの)

アリス

「ただし学園内で唯一争いには不干渉、ポイントの対象外となる例外的な場所があるの。

 それがここ、学生寮よ」

アリス

「実は私もゲームに参加するため、とある部に所属して去年まで部長を務めていたわ。

 でも今年、寮長に就任することが決まって任をおりた……それは、この学生寮が特殊な立場にあるからよ」

アリス

「学園内で唯一この学生寮でだけ、ゲームのポイントが変動しないの。

 ここでの行動が予算争いに影響することはない、ということ。

 ……あ、もちろん学園生であることには変わりないから、通常の校則違反は罰則対象よ」

ジュリエット

(……よかった。

 寮内では規律をやぶることに対する罰則がない、というわけではないのね)

アリス

「ここは言わば予算争いにおける中立地帯……先刻、部長の任を下りたと言ったのはこのため。

 寮長が他の部の、しかも有力勢力の重要人物であったら中立性に関わるでしょう?」

アリス

「学生寮という勢力はないし、皆も寮所属というわけではないから、一般生徒は気にする必要ないわ。

 中立を保つ必要があるのは、寮長である私、アリス=リデルだけ。

 相部屋の子に副寮長として仕事を手伝ってもらっているけど、彼女は生徒会の幹部だしね」

アリス

「とはいえ、ゲームを降りたわけではないわ。ゲームからは降りられない。

 寮から一歩でも出れば私も所属部のために予算争いに参加するけど、それは皆も同じ。

 たとえば寮で勉強したことや研究したことが後で成績や成果に結びついたら、それはもちろんポイントになるわ」

アリス

「つまりは……まあ寮でくつろいでいる時間くらい、予算争いを休みましょう、ということよ。

 学生寮は休戦の特別地区なの。

 ちなみに、寮の予算は毎年一定額が確保されているわ」

ジュリエット

(うーん……寮にいる間は、所属のことを忘れて過ごしてね、ということかな。

 私のやることは、あまり変わらないと思うけど)

風紀委員会がゲームの優勝候補であることとは関係なしに、魔物の情報を得るために所属する。

我ながら真面目な気質であると自覚しているジュリエットだ。

寮内であろうと寮外であろうと、普通に過ごしていれば問題ないだろう。

ジュリエット

(魔物といえば……夕方に会った、あの女性。

 何者だったのかしら……あとで、風紀委員に報告した方がいい?)

不可解なのは、彼女が制服を着ていたことだ。

しかもオリエンテーションに出席するようなことを言っていた。

ジュリエット

(まさか、この中にいるとか……?)

ジュリエットは、そっと周囲を見回した。
見える範囲に、それらしい角や羽根は見当たらない。

そもそも食堂が広くて、座った状態では新入生全員を確認できなかった。

ジュリエット

(まあ、まさかね……。

 きっと学生を装うために、制服を着ていただけよね?)

アリス

「ゲームの話はここまでよ。

 気分を入れ替えて、席替えと行きましょうか」

アリス

「今は自由席で座っていると思うけど、これから宿泊棟ごとに分かれてテーブルへ座ってほしいの。

 同じ棟のメンバーや……相部屋相手の顔を知りたいだろうし。

 それでは配った資料の3枚目の寮生名簿を……」

――そして、ジュリエットは彼女と早い再会を果たしたのだった。
..............................
ジュリエット

(学生寮は、休戦の特別地区ね……。

 ごめんなさい寮長さん……休戦は、無理だわ

いや正確には、予算争いとかいうゲームの休戦であればまったく構わない。

そちらではなく、ハンター見習いとして……というか正義感の問題だ。

ジュリエット

(相部屋相手が魔物なのよ?

 休戦どころか、常に臨戦態勢の気持ちでいなきゃ)

宿泊棟メンバーとの自己紹介と交流のための時間は一度区切られ、続きは夕食の時間にでも、ということになった。

……結局、ジュリエット達のテーブルではろくな会話をしていない。

今は寮長のアリス (なんと、彼女もジュリエット達と同じ宿泊棟に部屋があるらしい) からの説明が再開し、ひとまずは耳を傾けていた。

アリス

「……事前の届け出があれば外泊は自由。外泊しない場合は、宿泊棟の出入り口および学生寮の門の施錠時刻までに戻ること。もしも遅れてしまったら各宿泊棟の代表か、寮長、副寮長まで連絡を……」

話を聞く限り、食事や施錠・就寝の時刻や入浴の時間帯こそ決まっているものの、その範囲内であれば制限はさほど厳しくなさそうだ。

放課後や休日の外出も自由、そのまま外泊したり帰省したりも許される。

備え付けのキッチンで自炊をしてもいいらしい。

朝晩の点呼や掃除、食事当番などもない。

学園内と同様に、学年による上下関係もないという。(各宿泊棟の代表は3年生と決まっているようだが。)

ついこの間までいたハンター寮は上下関係に厳しく、なかには横暴な先輩もいた。

掃除当番など専ら見習いの仕事で、それも修練のひとつだとされていた。

それに比べれば、ここの寮則は随分とゆるいようだ。

ハンター寮で生活すること数年、もう集団生活に慣れっこのジュリエットにとって何の問題もない。

……はずであったのに。

ジュリエット

(問題は1つだけね……)

アリス

「外泊届や寮食の要否については、各宿泊棟ごとにとりまとめて寮長まで提出すること。

 宿泊棟内では、各学年の代表がとりまとめていることが多いわ。

 今ちょうど宿泊棟ごとにテーブルへ座っているはずだから、後ででも代表を決めておいてね」

ジュリエットは、自分の座っているテーブルを見回した。

いま同じテーブルについているのは、ジュリエットを含め8人。

寮長の女子生徒が言うには、この8人が同じ宿泊棟で過ごす1年生ということだ。
宿泊棟には他の学年の学生もいるから、各学年の人数がだいたい同じだとして、20人超の女子生徒とひとつ屋根の下で暮らすことになるのだろう。
ジュリエット

(年頃は、皆同じくらいかしら)

ジュリエットがぼんやりとメンバーを眺めていると、同じように視線を動かしていたらしい仲間と、目があった。
ローズ

「…………」

ローズは気まずそうに笑っている。

きっとジュリエットの顔は引きつっていただろうに、彼女は嫌そうな表情を見せなかった。

ジュリエット

(……悪い人ではなさそうなんだけど。

 いやいや、人ではないんだったわ)

アリス

「寮生活での細かい規則は、配った冊子に書いてあるわ。

 とはいえ、基本的な事項ばかりよ。食事や入浴の時間厳守、共用施設の丁寧な利用、騒音を立てない……」

ジュリエット

(ハンターの修行を兼ねて魔物の情報を得るために入学したのに、まさか相部屋相手がその魔物だなんて。

 ……教会へはどう報告しよう)

ローズは魔物だ。だが狂暴な性質ではないようだし、言葉も通じる。

何より学生として正式に入学している……問答無用で手出しをするというわけには行くまい。

ジュリエット

(でも、穏健を装っている可能性だってあるわ。

 魔物のこと、まだよく知らないもの)

やはり、魔物の情報を得るのが先決だ。

明日にでも風紀委員会へ話を聞きに行こうと、ジュリエットは決意した。

ジュリエット

(考えようによっては、相部屋で良かったかもしれないわ。

 何か不穏な動きがあれば、すぐに対処できるもの)

監視するように隣に座るローズを眺めながら、ジュリエットは無意識に銃のホルスターをスカートの上から触れた。
ローズ

「…………。視線が痛いわ……」

ジュリエット

「……あ、ごめんなさい。じろじろ見てしまって」

ついつい、獲物の隙を窺うような目で見続けていたようだ。

さすがに、小声で文句を言われてしまった。

ジュリエット

「気にしないで。というか、慣れて」

ローズ

「慣れるって……武器を触りながら睨まれることに?」

ジュリエット

「だって、気になるのよ。

 急に人間の首筋に噛みついたりしないか、とか」

ローズ

「そんな変態的な攻撃しないわ」

ジュリエット

「あ、そうなんだ」

ジュリエット

(吸血行動はとらないのね)

よく知らないので、ジュリエットの中では魔物のイメージがヴァンパイアに近くなってしまっているのだ。
ジュリエット

(吸血目的ではないのに人間を襲う狂暴なヴァンパイアもいるから、この人 (?) だって油断できないわよね。

 寮にいるときでも、いつでも応戦できるよう構えておかなきゃ)

――ところがジュリエットの心構えは、予想外の方向から水を差されてしまった。
アリス

「……それと、これは最近追加された規則なんだけど。というか、前までは言わなくてもみんな守っていたのだけれど。

 去年、静とリー……いえ、今の2年生が宿泊棟内で派手な喧嘩をして、壁や柱を壊してしまったのよね」

ジュリエット

(教会から支給された弾丸はどれくらいだったかしら。定期的に送ってもらえるよう頼んできたけど……。

 あ、風紀委員会にも、銃の装備や手入れ具があるもしれないわ)

アリス

「それ以来……、寮内での喧嘩と武器の使用は厳禁よ。

 風紀委員だったり、武術系の単位を履修していたりする人は部屋に持ち込むこともあるでしょうけど、ケースや包みに入れて出さないこと。鍛錬なら専用の場所を使って。

 まあ、言うまでもないとは思うけど」

ジュリエット

(寮に持ち込めるか交渉してみ…………。

 ……え!?

アリス

「学園での校則違反と違って、寮則違反では相部屋の学生も連帯責任でペナルティを負うことが多いから気をつけて。

 相部屋の子とは、仲良くね?」

..............................
..............................
..............................
リディア

「……だめ。もうお腹いっぱい」

リヴ

「そうね、さすがに……。

 林檎はおいしいけどパイが……くるわね、胃に」

千影

「お腹が苦しくて動けません……」

信乃

「ルシエルは食べた? そんな遠くに座っているから、手が届かないんじゃあ……」

ルシエル

「えっ!? たっ食べた! 食べたわ!

 もう、入らない……」

廊下でウェンディを見送ったジュリエットが部屋へ戻ると、部屋を出た時よりも脱落者が増えていた。
学生寮の部屋はどこも同じレイアウトで、使用者2人分のベッド――つまりこの部屋の場合はリヴとリディアのベッドが左右の壁に沿って並び、その間に通路がある。

8人はその通路上にテーブルを持ってきて、それを囲むようにベッドへ腰かけたり椅子に座ったりしていた。

テーブルの上のアップルパイは……案の定、先刻からあまり減っていないようだ。

新たに手を伸ばす者もいない。

ローズ

「……あら、おかえりなさい。ジュリエット」

ジュリエット

「ただいま、ローズ。もう終戦のようね……」

元よりとっくにお腹いっぱいになっていたジュリエットは、テーブルと反対側のローズの隣へ腰を下ろした。
ローズ

「ジュリエット、それは?」

ローズが目ざとくジュリエットの持っているバインダーに気づく。
ジュリエット

「たった今、廊下で副寮長のウェンディに会ったの。

 琴子、あなた宛てよ」

琴子

「え、私ですか?」

やはり琴子も先程のジュリエットと同じく、心当たりがなかったらしい。
ジュリエットがバインダーを手渡し、その上の書類に目をやったところで、ようやく思い至ったようだ。
琴子

「ああ、なるほど。寮関係の……」

ジュリエット

「確認したら上の署名欄にサインをして、次は2年生のエリーゼへ回覧してほしいんですって。明日で構わないと言っていたわ」

琴子

「わかりました。

 オリエンテーション報告……風紀委員のと同じですね」

ジュリエット

「わからないことがあれば遠慮なくウェンディの部屋にって」

琴子

「ウェンディさんの部屋……3年生の寮長部屋ですね。

 ありがとうございます、ジュリエットさん」

リディア

「オリエンテーション報告って、リヴも持っていたわよね。生徒会の」

リヴ

「ええ。締切が同じなのかしらね」

ジュリエット

「入学して1か月くらい経つから、そういう時期なのかも」

ジュリエット

(1か月か……)

なんとなく、しみじみとした気持ちになる。

オリエンテーションの日にテーブルを同じくした時には、こうして同じ皿のお菓子をつつき合うようになるとは想像できなかった。

同じように感じたのはジュリエットだけではなかったようだ。
千影

「……ルシエルさん、最近は比較的近くでお話してくれるようになりましたね。

 お部屋の中では、ですけど」

ルシエル

「えっ、そう? ……うん、そうかも。

 何だか、千影は平気みたいだし……」

千影

「? 何がですか?」

ルシエル

「う、ううん、何でもない……。

 そういう千影は、逆に言葉づかいが丁寧になったわ」

千影

「えっ!? ……はい、実はこちらの方が素で……」

ジュリエット

(……微笑ましい)

ローズ

「……そういえばジュリエットも」

ジュリエット

「え?」

ローズ

「最近は私のこと、あまり警戒しなくなったわね」

ジュリエット

「……そうかもね。だんだん、悪い子には見えなくなってきたし……。

 あなた、意外と抜けているし」

ジュリエット

(それに、風紀委員として魔物討伐に参加するうちに、ローズと普通の魔物は違うってことがわかってきたしね)

信乃

「警戒? ローズを?」

ジュリエット

「ええ、ちょっとね」

ジュリエット

(言わない方がいい、のよね? たぶん)

結局あの日以来、角と羽根の生えた姿のローズをジュリエットは見ていなかった。

いつもは今のように人間の姿で生活している。

しかし初対面の時の容姿が本来のローズなのだと、いつだったか教えてもらったことがある。

ジュリエットのように勘違いする人もいるだろうからと、普段は人間を装っているのだそうだ。

唯一、生徒会には生徒情報を把握されているのでバレているらしい。

しかしこの場にいる生徒会メンバーはまだ日が浅いので、知らない恐れがある。

ジュリエット

(最初は疑っていたのに、今は、むしろ私が彼女を庇っているなんてね……。

 たったの1か月前が、懐かしいはずだわ)

ジュリエット

「それより、もう食べないならお開きにしない? 就寝時間が近いわ」

ジュリエットはベッドから立ち上がり、時計を見やりながら言った。
ルシエル

「本当だわ。もうそんな時間……」

ジュリエット

「それに、みんなで集まっていることを先刻ウェンディに話してしまったから……たぶん就寝時間を過ぎると連帯責任になると思う」

信乃

「そ、それは……確かに急いだ方がいいかもしれないね。

 副寮長は厳しそうな人だし」

千影

「確かに……! もしもウェンディさんに、」

ウェンディ (想像) 

『まだ寝ていないなんて信じられないわ。何を考えているの?

 罰として、全員1か月間お菓子禁止よ!』

千影

「なんて言われたら……!」

ローズ

「……千影ってたまに変な妄想するわよね。

 いくらウェンディでも、そんな罰は科さないと思う……」

琴子

「でも、いい時間なのは本当ですね。片付けましょうか。

 美味しかったですわ」

リヴ

「ありがとう、琴子。

 残った分はキッチンの共用冷蔵庫に入れておくから、みんな好きに食べていいからね」

リディア

「ああ、それは……明日には確実になくなっているわね」

色々と口を動かしながらも、テーブルはあっという間に片付いていった。

女性が8人も集まっているだけあって、手早い。

(ただし、こういった給仕に慣れていない約数名は大人しくしていたようだ。)

信乃

「それじゃあ、私達は先に部屋に戻るよ。リヴ、ご馳走様」

琴子

「ジュリエットさんも、書類を届けてくれてありがとうございました」

ジュリエット

「いいえ」

千影

「ルシエルさん、私達も引き上げましょうか」

ルシエル

「うん、そうね」

リディア

「みんな、また明日!」

リヴ

「ジュリエットとローズも、後は私とリディアで片づけるから大丈夫よ」

ローズ

「そう? じゃあお言葉に甘えて……」

ジュリエット

「ええ、それじゃあ――」

部屋を退出する前に、ジュリエットが扉から室内を振り返る。
そして、一緒に出ようとしていたローズもジュリエットと全く同じタイミングで振り返り、奇しくも同じ言葉が重なった。
ジュリエット

「おやすみなさい」

ローズ

「おやすみなさい」

To be continued...
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アリシア=ヒルデガルド

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:会長

・寮ではアイリーンと相部屋。

アイリーン=オラサバル

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:副会長

・寮ではアリシアと相部屋。18~20歳。

アリス=リデル

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:寮長

・寮ではウェンディと相部屋。ロゼ棟の3年生代表。

シエラ=ロザン

・学年:3年生

・所属:風紀委員会 役職:副委員長

・寮ではエリカと相部屋。18~21歳。

エリカ=フルール

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:部長

・寮ではシエラと相部屋。16~18歳。

ウェンディ=ダーリング

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:会計 兼 副寮長

・寮ではアリスと相部屋。3年首席。一昨年度ミスコン覇者。

ルーク=ドイル

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:副部長

・16~18歳。

オデット=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮では静と相部屋。昨年度ミスコン覇者。

涼江 静(すずえ しずか)

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮ではオデットと相部屋。

リーザ=ベルネット

・学年:2年生

・所属:風紀委員会

・寮ではロザリアと相部屋。

ロザリア=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮ではリーザと相部屋。

龍田 憂(たつた うい)

・学年:2年生

・所属:生徒会 役職:書記

・寮では澄と相部屋。2年首席。

一条 栞(いちじょう しおり)

・学年:2年生

・所属:風紀委員会 役職:委員長

・寮ではエリーゼと相部屋。18歳。

黒門 澄(くろもん すみ)

・学年:2年生

・所属:風紀委員会

・寮では憂と相部屋。

エリーゼ=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮では栞と相部屋。ロゼ棟の2年生代表。

ジュリエット=キャピュレット

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮ではローズと相部屋。

八津瀬 琴子(やつせ ことこ)

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では信乃と相部屋。ロゼ棟の1年生代表。

犬塚 信乃(いぬづか しの)

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では琴子と相部屋。

リヴ=トレゾア

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではリディアと相部屋。

ルシエル=イヴリース

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では千影と相部屋。17歳。1年首席。

ローズ=ディノワール

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではジュリエットと相部屋。

リディア=グリーン

・学年:1年生

・所属:お茶会部

・寮ではリヴと相部屋。

千影(ちかげ)

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではルシエルと相部屋。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色