点呼係_1

文字数 7,976文字

一方、その頃……。

エリーゼ

「この髪飾り、可愛いわね。

 オデット、似合うんじゃない?」

オデット

「本当だ、可愛い……。でも姉さんの方が似合うんじゃないかしら。

 ほら、この国の人は髪の色が濃いでしょう? 私がつけるより、姉さんやロザリア姉さんの方が映えると思うの」

エリーゼ

「そうかしら。うーん……。

 ……あっ、そうだわ。母さんへのお土産にするのはどうかしら。

 珍しい紋様だから、インテリアとしても良さそう」

オデット

「あ、それいいわね! 今度、お土産を渡す口実でまた帰りましょう」

エリーゼ

「ええ、そうね。

 ――……すみません! これ、おいくらですか? ……うーん、そうですか。

 それじゃあやっぱりやめておき――、えっ? 負けてくださるの? ありがとう」

オデット

「さすがだわ、エリーゼ姉さん。

 異世界でも堂々と値段交渉しているなんて。

 ロザリア姉さんもそう思…………ん? ロザリア姉さん?」

先刻まで一緒にいたはずのロザリアの姿がないことに気づき、オデットは立ち上がって露天商から少し離れた。
時刻は夕暮れ時。

遠足の行程ももう終盤だ。

オデット

「ロザリア姉さん?

 ……近くにはいないみたい。どこへ行っちゃったのかしら」

エリーゼ

「あの子ったら、また何か変なものを見つけて、追いかけて行っちゃったんじゃないでしょうね……。

 もうすぐ学園に帰るんだから、合流しないと」

オデット

「そうね。

 それに今いる所はこの国のメインストリートみたいだけど、路地を一本入ると少し薄暗くて不気味だし……心配だわ。

 ……あっ、澄!」

ちょうど近くの細い道から飛び出してきたのは、澄だった。
なぜか、息を切らしている。
オデット

「ロザリア姉さんを見なかった?

 ……って、どうしたの? 慌てているみたいだけど」

「えっ、ロザリア?

 見ていないわ。というか、それどころじゃなくて……」

オデット

「? 何かトラブル?」

「トラブルではないけど……。

 ……この時代って、現代よりも妖が多いせいか、先刻から無駄にちょっかいかけられて鬱陶しい……」

オデット

「え? よく聞こえなかったけど、何?」

「何でもない……。

 あまり大通りを外れない方がいいわよ。もうすぐ逢魔時だから、もっと活発になる」

オデット

「? そうね、夜は治安が悪くなるから……。

 ……やっぱりロザリア姉さんが心配だわ。

 エリーゼ姉さん。私、探して……――ん?」

ロザリア

「――いい知らせよ!」


通りの反対側から走って現れたのは、探していた当のロザリアだった。
後ろにはリーザと栞もいる。
エリーゼ

「ロザリア……あなた、どこへ行っていたのよ。

 知らない国で一人いなくなるなんて、心配するでしょう」

ロザリア

「ごめんごめん。大丈夫よ、リーザと栞も一緒だもの。

 それに向こうに静と憂も……そう、憂よ!」

ロザリアは何故だか興奮気に来た道の方角を指さした。
ロザリア

「先刻、憂が偶然知り合いに会ったらしくて、その人(?)からお土産っぽいものを分けてもらえそうですって!」

エリーゼ

「お土産……“っぽい”もの?」

「えーと……まあ、ちょっと変わった感じの人(?)だったから……」

オデット

「それに知り合いって……。

 ここ、憂や静の知っている時代より1000年くらい前なんでしょう?

 1年生の千影の出身地だとは聞いているけど、憂に知り合いがいるの?」

「あー……うん。そうね、竜神の一族ならいるかもね……」

エリーゼ

「何だかよく分からないけど……大丈夫かしら。

 もちろん、お土産を入手できるのは助かるけれど」

リーザ

「そうなのよ。日中に見学を予定していた“内裏”?ってところ、結局ほとんど滞在できなかったでしょう?

 いまだに寮へのお土産がないのよね」

オデット

「ああ、あれ……。大変な目にあったわよね」

ロザリア

「そう? 私はちょっと楽しかったな」

本来ならば日の高いうちの班別自由行動で、この国の政治の中枢にして、1年生の千影の勤め先だという公的施設を見学する予定だった。
昨年の遠足で、自由行動の折に同じ場所へ行った宿泊棟の現3年生が「エンペラーと交易してきたわ」と綺麗な絹の織物や調度品を寮生へのお土産として並べていた。

次年度のアポイントメントもとりつけておいた、とのことだったので今年もその場所をスケジュールに盛り込んだのだが……。

ところが、今年の2年生が同所の門をくぐり、謁見の部屋へ廊下を案内されていたところ……途中で攻撃(?)を受けたのだった。
謎の札を投げつけられたり、謎の術をかけられそうになったり……。
オデット

「……何だったのかしらね。

 変な格好の役人に追われて、しまいには無駄に広い庭を走り回って脱走する羽目に……」

「念のため持参していたけど、まさか本当に使うことになるとは思わなかったわ……手榴弾」

リーザ

「あれはやりすぎよ。ちょっと可哀想になるくらい大混乱だったじゃない、あの人達……。

 まあ向こうから仕掛けてきたんだけど」

「あー……たぶん、陰陽師って人間だと思う。学校で聞いたことがあるわ。

 きっと腕のいいのがいて、人間以外を内にいれないよう結界を張っていたのね。

 ……ごめんなさい」

リーザ

「? なんで澄が謝るのよ?」

「いや、まあ……。

 きっと憂も悪いと思ったんでしょう。

 お土産を提供してくれるというなら、有り難くもらっておきましょう」

エリーゼ

「うーん、大丈夫かしら……」

ロザリア

「行ってみましょうよ。だってこの辺り、もう店じまいじゃない」

オデット

「一応、先刻エリーゼ姉さんと一緒に、母さん用の雑貨を買ったのよ?

 ……まあ、一点物だから寮へのお土産にはならないけれど」

リーザ

「それに、もし何かあっても心配することないわ。

 私達がそろっていれば、大抵は物理で何とかなると思うの」

「…………」

「…………」

エリーゼ

「それもそうね。

 じゃあ護衛はお願いするわ」

オデット

「……姉さん……」

かくして2年生の一行は、もう少しの間だけ逢魔時の平安京を歩くこととなった。
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日が傾き、空は徐々に明度を落としつつある。
しかしエレクトリカルな現代文明が日暮れで眠るわけはなく、遊園地はいまだに多くの人々でごった返していた。
その中でも比較的、人口密度が高いと思われるエリア……土産を取り扱うショップの並ぶ道に、エリカはいた。
エリカ

「…………」

遊園地の閉園時間には程遠いが、学校行事として来園しているエリカ達にはもう出立の時刻が迫っている。

その前にどうしてもこなさなければならないイベント、それが土産の購入だった。

昼間に散々アトラクションで遊び倒し、くたくたに疲れていたが、土産を買わないわけには行かない。
滅多に来られない場所だし(何しろ異世界だ)、珍しい物も多い。

それに部活や寮の先輩後輩に土産を用意し交換するのが遠足の恒例となっているのだ。

エリカ

(お茶会部へのお土産はこれでいいわよね。

 寮生へのお土産はアリスに任せたし……って、うちの部の場合は後輩みんな寮生と被っているけど)

手に提げている鮮やかなプリントのショッパーを、ちらっと確認する。
先程エリカが近辺の店で購入したのは、お茶会で食べられるようなお茶菓子と紅茶のティーバッグセットだった。
かなり無難な土産になったが、ある意味実用的なはずだ。

それにケースが可愛らしいので小物入れとして形に残りそうでもある。

エリカ

(普通が一番のはずよ。

 去年の遠足で用意した寮への土産なんて、正直みんな扱いに困ったもの。

 絹……はともかく、家具に楽器って、貿易品じゃないんだから。商人なの?)

その反省と、また今年はアリスが寮長に就任したこともあり、プリンセス2人は寮への土産係から手を引いてもらった。
とはいえ生徒会への土産は彼女らが用意するのであろうが……他組織のことなのでエリカには関係がない。
同様にシエラは風紀委員への土産を物色しているだろう。
他にプライベートで買いたい物もあるだろうから、と今は一時的に単独行動の時間としている。
エリカ

(そろそろ、集合時間だわ)

わりに早く買い物を終えたエリカは、一足早く集合場所へ到着していた。
人並みに流されぬよう、柱の陰に身を寄せている。
エリカ

(あと1分。……50秒)

ちょうど近くに時計台があり、ぼんやりとそれを見上げながら心の中でカウントダウンを始めた。
途中、同じ学園の制服を着た学生がエリカの横を通り過ぎていく。

帰りのバスの時間は決まっているので、だいたい皆同じく退園する頃だ。

なにせ乗り遅れれば、異世界に取り残されることになる。
……実際には点呼時に応答がなければすぐに気づかれ、置いてけぼりにされることはないと思うが。
しかし仮にも生徒会長や風紀委員長や寮長の所属する班が遅刻して、学年全体に迷惑をかけたとあっては恥だ。
時間厳守、とは一刻前に解散する際、全員にきつく周知したスローガンである。
エリカ

(10秒。……5秒。3、2、1……)

そして、秒針が頂点をまわった。
エリカ

「…………」

念のため、もう1分待つことにする。
やがて秒針が再度真上を通り過ぎた。
エリカ

「…………」

エリカ

(…………)

エリカ

「…………。

 ……それじゃあ、時間だから行くか」

ルーク

「待て待て待て」

エリカが寄りかかっていた柱の、90度の隣からルークが口を挟んだ。
エリカ

「ああ、いたの。ルーク」

ルーク

「あのな……お茶会部への土産、俺も一緒に選んだだろ?」

エリカ

「そのあと会計前に消えたでしょう。

 ……まあ、あなたはお土産を買う宛てがたくさんあって忙しいんでしょうけど?

 好感度をあげるアイテムはストックできたかしら?」

ルーク

「いつになく刺々しいな……」

エリカ

「そう? いつもこんなものじゃない?」

ルーク

「それはそれでどうなんだ」

集合時間は17時。

集合場所は時計台の近くの柱。

時計は確かに集合時間であることを示しているし、場所は解散場所と同じなので間違えようがない。
それなのに。
エリカ

誰もいないってどういうこと」

ルーク

「……俺に言われても。

 というか俺は2分前に着いたぞ」

エリカ

(アリスやウェンディまで遅刻とは……)

几帳面な彼女らが時間を忘れているとは考えにくい。
この混雑だから、普通に考えれば予想より会計に時間がかかっているのだろうが。
エリカ

(様子、見に行った方がいいかしら)

もし万が一、何かトラブルが発生していては事だ。
エリカ

(メンバーが濃すぎて忘れていたけど、私一応この班の班長なのよね……)

エリカ

「……私、ちょっとその辺を見てくるわ。

 行き違いになるかもしれないから、ルークはここで待っていてくれる?」

ルーク

「おう、任せとけ。

 人に流されて迷子になるなよー」

エリカ

「……なんか腹立つわね、あなた」

ルーク

「えっ」

余計な荷物をルークに預け、エリカは再び雑踏へ繰り出した。
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適当に大きな店構えの建物へ入り、会計スペースをうろついていると、レジ列の中に何やら騒がしい一団を見つけた。
ウェンディ

「いいから戻してきなさい!」

アリシア

「えーっ!? これは外せないわよ!

 きっと生徒会のみんな喜ぶわ」

ウェンディ

「黄色い熊のフードつきパジャマを!? 誰が着るのよ」

アリシア

「ええっと……。

 あっそうだ、繁忙時の仮眠用よ。他にも、憂が昼寝する時に着せて遊べるわ」

ウェンディ

「『あっそうだ』じゃないわよ。

 憂を巻き込むんじゃありません!」

アイリーン

「ウェンディ。これも会計、お願い」

ウェンディ

「どれ……って、何、これ」

アイリーン

「“おせんべい”と言うらしいわ。

 珍しいでしょう?」

ウェンディ

「そうね……でも、食品系のお土産はもうカゴに入っているわよ?

 それに…………何なのよ、この量は。

 いくら何でも生徒会メンバーはこんなに多くないわ。何箱あるの」

アイリーン

「ああ、生徒会用じゃないのよ。

 珍しい食べ物だから、うちの国できっと高く売れると思うの。高級菓子とか何とか適当に言って……」

ウェンディ

転売じゃない

アイリーン

「えっ? 転売って、普通の人でもするわよね?」

ウェンディ

「普通じゃないから戻してきなさい!」

エリカ

(…………。お母さんかな)

セーラー服の女の子が三人。

(日の高いうちは妖精の衣装を着ていたアリシアも、日が落ちて冷えてきてからは既に着替えていた。)

またそのカートに通常の女子学生の買い物にしては贅沢すぎる量の商品が積まれているとあって、店内の混雑にも関わらずかなり人目をひいている。

エリカのいる列の外とは仕切りロープで区切られており、少し距離があった。
エリカ

(目立つから、話しかけるの嫌だわ……)

しかしエリカが躊躇っている間に、ふとアイリーンが振り向き、手を振った。
アイリーン

「エリカ。

 ……あ、そうか。集合時間を過ぎていたわね」

ウェンディ

「ごめんなさい。見ての通りよ」

エリカ

「ええ、概ね予想通りの光景だわ……」

アリシア

「ごめん。とりあえず並んではいるから、あと10分くらいで会計できると思うわ。

 終わったら急いで行くから」

エリカ

「わかったわ」

エリカ

(ここなら集合場所にも近いし、大丈夫そうか)

エリカ

「それじゃ、他の人を見てくるから。

 なるべく急いでね」

ウェンディ

「ええ。

 会計までに、もう少しカートの商品を間引かないと……」

アリシア

「いやいや、さすがにもうないって」

ウェンディ

「どうだか。この入浴剤は何?」

アリシア

「あ、それは個人的なお土産よ。

 うちの使い魔をタライでお風呂に入れる時に使おうと思って」

ウェンディ

「? あなたペットを飼っていたの。

 ……私も、ナナに何か買おうかしら」

エリカ

(…………。

 やっぱり、まだかかりそう)

エリカは列を離れ、外へ出た。
..............................
エリカ

「アリス」

アリス

「あっ、エリカ……。

 ごめんなさい。時間、過ぎているわよね」

先程の店の通りから一本入ったところにある、小さめの土産屋でアリスを見つけた。
アリス

「本当にごめんなさい。

 あと一品選べば終わるから……」

エリカ

「ああ、いえ。そこまで……」

真面目な彼女は申し訳なさそうに眉尻を下げている。
放っておけばいつまでも気に病むことを知っているエリカは、「他のメンバーも時間がかかっているから気にしなくていい」と言おうとして……。
ふと、彼女の背後の買い物カゴを見て言葉を切った。
エリカ

「…………」

大漁、だ。
まるでクリスマス前のサンタクロースかのように、彼女の買い物カゴは会計を終えたいくつもの土産ものでいっぱいだった。
先程、ウェンディ達もかなり多めの買い物をしていたが、彼女らは三人分だ。

しかしアリスは一人でそれに迫る量を持っているように見える。

エリカ

「……えっと、寮へのお土産には何を買ったの?」

アリス

「寮へは、無難だけどお菓子にしたわ。キャラクターものの可愛いやつ。

 去年のお土産が……アレだったし」

エリカ

「ああ、わかる。私もそうしたわ」

エリカ

(……と、いうことは寮への土産ではない。

 いくら20人分とはいえ、お菓子だけであの量にはならないもの)

お茶会部への土産はエリカとルークが購入済みなので、それも違う。
寮への土産でも、部への土産でもないとすると個人用だろう。
アリス

「? ……ああ」

エリカの視線に気づいたアリスが、その意味を察して視線を逸らしつつ疑問に答えた。
アリス

「……まあ、勤め先とか、お世話になっている人とか、付き合いのある人とか、付きまとわれている人とか、会いたくもないのに何故か会ってしまう人とか……。

 あと、兵士にメイドに構成員にキャストに駅員に美術館員に……。

 ……色々と、ね。一応買っておこうかと思って」

エリカ

「……そ、そう」

エリカ

(シリーズ長いと、大変ね……)

アリス

「あと一人分を買えば、終わるから……」

エリカ

「あ、いいのよ、気にしなくて。向こうで生徒会組も買い物を続けているから。

 ……ところで、何を見ているの?」

アリスを見つけたこの店は、大通りの店に比べてずいぶんと静かで落ち着いている。

食品や服飾雑貨系が少なく、比較的高価なアクセサリーや食器、インテリアのようなものが多く陳列されていた。

大勢へ配りまわるタイプのお土産の購入には、おおよそ向いていない品揃えだ。

それよりは、特別な誰かへ贈るプレゼントのような……。

エリカ

(……って、普通に考えたらそうよね)

エリカ

「……ごめんなさい。デリカシーがなかったわ」

アリス

「? 別にそんなことないけど……。

 どれを見ていた、というわけではないの。何を買おうか迷っていたし」

そう言う通り、彼女の視線の先にあるのは店のインテリアのひとつだった。売り物ではない。
ガラスケースの中央で宙に浮いている……ように見える、一輪の薔薇だ。

店のコンセプトなのか、壁紙や商品にも薔薇をモチーフにしたものが多いようだった。

改めてそれらを見渡したアリスが、深い息を吐く。
アリス

「はあ……。

 センスのいい人への贈り物って……悩むわ」

エリカ

「……ちょっと分かるかも」

知り合いの貴族の男性を思い浮かべながら、エリカは同意した。
きっとアリスも特定の誰か……贈り相手のことを考えているのだろう。
エリカ

(……これは、本当に邪魔かもね)

エリカ

「それじゃあ、そろそろ私は他の人を探してくるわね。

 待ち合わせ場所にはルークがいるから。

 ……あんまり難しく考えずに、贈りたいものを贈ればいいと思うわよ。月並みだけど」

アリス

「あ、うん。……ありがとう。

 ごめんなさいね、あと5分以内には片をつけるわ」

エリカ

「ええ、わかった」

ここのレジは混んでいないようなので、品が決まればすぐに買い終わるだろう。
薔薇モチーフとにらめっこするアリスを残し、エリカは店を出た。
..............................
エリカ

(……シエラ、いないな)

発見していない最後の班員を探し求めて、メインストリートから小さな脇道まで一通り歩き回ったが、彼女の姿はなかった。
たった10分ほどの間にも、土産エリアの客足は増えていくばかりだ。

シエラのことも見逃してしまったのかもしれない。

エリカ

(一度ルークの所へ戻るか。すれ違いになっているかもしれないわ)

小道の行き止まりに突き当たったタイミングでそう決め、エリカは来た道を戻り始めた。
エリカ

「……ん?」

大通りへ繋がる路地は狭く、人通りがない。

おとぎ話の迷路のような道を戻っていると、往路では気づかなかった壁の窪みを見つけた。

柱一本分ほどのへこみに、すっぽりと嵌まるように鏡――姿見があり、制服姿のエリカの全身を映している。
エリカ

(? 外壁の装飾にしては、綺麗に磨かれているわね)

曇りがなさすぎて、まるで鏡の中へ道が続いているかのように錯覚しそうになるほどだ。
疑問には思ったものの、それ以上は観察せず、集合場所へ急ごうとその場所を通り過ぎた。
二歩、三歩と、進んだ所で――。
エリカ

(……?)

一瞬、進行方向である自分の前面に、自身の影が浮かび上がった気がした。
まるで後ろから光に照らされたように……。
自然と振り返る気になったのは、その光が何となく、あの本を開いた時の感じに似ていたからかもしれない。
――別の世界へと繋がる、魔法の光。
エリカ

(って、ここがもう既に別の世界なんだけど)

あり得ないと思いつつ半身を捻ったエリカはしかし、予想に反して目を疑うこととなった。
エリカ

「――!? シエラ?」

エリカの背後、数メートルも離れていない路上にいたのは、先程までは影も形もなかった赤い髪のルームメイトだった。
To be continued...
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登場人物紹介

アリシア=ヒルデガルド

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:会長

・寮ではアイリーンと相部屋。

アイリーン=オラサバル

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:副会長

・寮ではアリシアと相部屋。18~20歳。

アリス=リデル

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:寮長

・寮ではウェンディと相部屋。ロゼ棟の3年生代表。

シエラ=ロザン

・学年:3年生

・所属:風紀委員会 役職:副委員長

・寮ではエリカと相部屋。18~21歳。

エリカ=フルール

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:部長

・寮ではシエラと相部屋。16~18歳。

ウェンディ=ダーリング

・学年:3年生

・所属:生徒会 役職:会計 兼 副寮長

・寮ではアリスと相部屋。3年首席。一昨年度ミスコン覇者。

ルーク=ドイル

・学年:3年生

・所属:お茶会部 役職:副部長

・16~18歳。

オデット=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮では静と相部屋。昨年度ミスコン覇者。

涼江 静(すずえ しずか)

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮ではオデットと相部屋。

リーザ=ベルネット

・学年:2年生

・所属:風紀委員会

・寮ではロザリアと相部屋。

ロザリア=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮ではリーザと相部屋。

龍田 憂(たつた うい)

・学年:2年生

・所属:生徒会 役職:書記

・寮では澄と相部屋。2年首席。

一条 栞(いちじょう しおり)

・学年:2年生

・所属:風紀委員会 役職:委員長

・寮ではエリーゼと相部屋。18歳。

黒門 澄(くろもん すみ)

・学年:2年生

・所属:風紀委員会

・寮では憂と相部屋。

エリーゼ=スカーレット

・学年:2年生

・所属:お茶会部

・寮では栞と相部屋。ロゼ棟の2年生代表。

ジュリエット=キャピュレット

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮ではローズと相部屋。

八津瀬 琴子(やつせ ことこ)

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では信乃と相部屋。ロゼ棟の1年生代表。

犬塚 信乃(いぬづか しの)

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では琴子と相部屋。

リヴ=トレゾア

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではリディアと相部屋。

ルシエル=イヴリース

・学年:1年生

・所属:風紀委員会

・寮では千影と相部屋。17歳。1年首席。

ローズ=ディノワール

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではジュリエットと相部屋。

リディア=グリーン

・学年:1年生

・所属:お茶会部

・寮ではリヴと相部屋。

千影(ちかげ)

・学年:1年生

・所属:生徒会

・寮ではルシエルと相部屋。

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