第12話  おとり籠城。

文字数 1,483文字

        ◆

 とある開拓惑星の独立戦争が頓挫した時の逸話である。

 地表に取り残された、中央銀河政庁側の陣営は。
 四方から攻め上ってくる惑星独立側勢力連合軍の、
 圧倒的な人数の多さと士気の高さに、圧倒されていた。

「…もうこの星の支配権は、放棄して撤退するしかないのでは…」
 長きにわたる絶対的圧倒支配体制に慣れきった、
 たかだか無名の一地方惑星に、一時的にお役所仕事として配流されていたに過ぎない、
『慣例に倣った順当な出世』手順だけに熱心だった惑星支配代官どもは、
 おろおろと狼狽しきり、観るからに浮足立った様子で、会議に臨んだ。

「まぁまぁ皆さん」
 珍しく現地採用された『惑星臣民』上がりの、ごくごく下っ端の。
 変人の『歴ヲタ(イロニナンズ)』と有名な、治安担当管が。
 不気味なほどににこやか~に笑いながら。
 技術担当陣に問いかけた。
「軍事技術で。あるものを無いように見せかけるのがステルスってやつですが。
 無いものを有るように見せかける情報創作の技術ってのも…
 もちろん、有りますよね?」
「…それは当然、あることは有るが…??」
「惑星蛙どもの、しょせん寄せ集めの急増軍の情報網を、完全に騙しきることが出来るでしょうか?」
「…貴官の案によっては、講じてみないでもないが…?」

 ぼしょぼしょぼしょぼしょ…

 内緒話が、嬉しげに語り合わされ。
 浮足立っていた中央執政官たちは。
 とりあえず大急ぎで、撤退用の膨大な私物
(惑星資産をせっせと着服したものだ)をまとめながら。
 その作戦が功を奏するようなら、
 まんまと自分たちの手柄だと中央に吹聴しよう。
 と…
 興味津々で、成り行きを伺っていたのであった。

 かくて。

          ◆

 夜に日を継いでの突貫作業で。
 惑星中央都市には巨大な籠城用軍事施設が建造されていると。
 これはかなりの遠方からでもはっきりと肉眼で監視できる。
 その情報は、独立革命陣営側にも、早期から広く知られ。
「…難攻不落…ッ??」
 レーダーで探査し。
 水面下で、情報の奪取合戦が繰り広げられ…

 その重厚長大な防御構造と。
 かなり手ごわそうな、防御用火器類の多さに…
 革命陣営は、それぞれで、動揺しまくっていた。

「これは日を決めて全力で総攻撃をかけないと…」
 と、連日連夜の会議と、作戦立案が練りこまれ。
 さて。

 天高くそびえる巨大な防御籠城を。
 革命軍は十重二十重、四方八方から、取り囲みまくった。
「…撃て~ッ!」
 総大将から、号令が飛んだ。
 …比較的、防御構造が弱いと思われた、上層構造へ向けて。
 重火器・熱線が、撃ちこまれまくった。
 その壁が破られ次第。
 急襲して、内部に乗り込み、肉弾戦を挑もうと。
 空軍が陸兵を満載して、その周辺空域に密集して待機している。

 そして。

 …その、天高く聳えて実在するかと思われた…
 城は。

 完全な、フェイク(空中投影映像)に、過ぎなかったのである…

 某・性格の悪い治安担当管の計算通り。
 西から打ち込まれた砲弾は。
 架空の城の上層内部を素通りして。
 東の陣営のどまんなかに落下し爆発四散した。
 当然ながら東からの砲弾は、逆行して西に突き刺さり。
 また、南軍が発した火箭は城郭を素通りして、北部陣営の空軍を切り裂き。
 同様に、北が発した火箭は一瞬にして南空軍を壊滅的状況に追い込んだ。

 しょせんは烏合の衆であった独立戦争各群は、混乱と疑心暗鬼のうちに、一気に瓦解した。

 リステラス銀河中央集権末期において、中央側が勝利した、数少ない事例のひとつとなった。

 その謀略の指揮をとった治安担当管の名前は。
 テハロ、とのみ語られている。


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