第3話 「 60分間 世界一周 」
文字数 1,538文字
*
「あたし、飴理香 に行きたいな!」
学校のへやのゆかにみんなで大きく書いた、
『世界地図』のかたほうを指さして、藍子が言いました。
「あたし今日ここで昼寝する!」
そう宣言すると、となりの眠るへやから毛布と枕をとってきて、
ひとりでさっさと『キタ飴理香』の上で丸くなりました。
「きっと飴理香の夢を観るから! 邪魔しないでね!」
おもしろそう、と絵里奈は思いました。
「じゃ、あたしは粋栗鼠 にするわ!」
そう宣言して、眠るへやから自分の寝じたくをもってきました。
「ぼくは…水巣 がいいかな…?」
ちょっぴり、でも、あんまり、ぴったりではなく、
エリカのちかくに行きたい卓が、急いで言い足しました。
「じゃあオレ、門豪瑠 !」
武がそう言ってのしのしと場所を確保しました。
いつも初めに動く四人がそう決めたので、他のみんなもばらばらと。
それぞれの好きな国に毛布をひろげて、くるりと丸まりました。
「あらあら…」
この時間の『先生役』だった佐和子は苦笑しました。
普段はおしゃべりに夢中でなかなか昼寝をしてくれない連中が。
今日に限って、五分もしないうちに、ぐうすかすやすやと、眠りについたからです。
それはいいのですが…
「…う~ん… むにゃむにゃ…」
いつも寝相の悪い何人かが。
あっという間に『越境侵犯』して。
『他国の住民』を押しのけ、蹴りのけして。
世界征服の旅?に出てしまったではないですか…
「あらあら…」
次の時間の先生役の交代に来た満里奈が苦笑しました。
「みんな、チョークの粉が着いちゃったわね…」
先生役ふたりが遅い昼ごはんを食べながら見守るうちにも。
あっちで越境。こっちで海没。そっちで侵略戦争…と。
動く世界地図の連中は、留まるところを知りません。
「この一覧表、なに?」
さっきの時間にみんなで書いたらしい漢字の並んだ部分の床を観て、
マリアが訊ねました。
「今はみんなカタカナで書いてるけど、
昔はそれぞれ漢字の国名があったらしいわ?…って、話をしたら、
みんなで『国名の漢字を感じで考える!』って…」
「あら素敵。」
言いだしっぺの理香は、自分の名前の漢字を入れた『飴理香』を、
真っ先に藍子に盗られてしまったので、オカンムリで。
むっつりと、眉間にシワを寄せた顔のまま、
南アメリカ大陸を、固守する構えで、熟睡しています。
そんな、ある日の『授業』風景でした。
*
なにしろその昔、とてもとてもたくさんの人が、死んだのです。
たくさんの大人が死んでしまったので。
生き残ったオトナは、ほんのぽっちりだけでした。
生き残ったコドモは、さらに少なかったので。
ガッコウ、というものの真似事は、
狭い地底都市の中では、
ひとつの大き目の部屋を割り当てるだけで足りました。
コドモたちはみんな、だいたいの年齢別に。
生き残ったオトナたちから交代で、
『よみかきさんすう』を教わりました。
でも、生き残ったオトナたちだって、
ずっと戦乱と天変地異のなかを苦労して生き延びてきて。
ちゃんとした『学校』や『知識』を持っている人は…
ほとんどいませんでした。
ただ、『辞書』という紙の束は。
他の本よりは、地底都市には(あらかじめ)たくさん保存されていました。
オトナたちがみんな忙しくて『自習』になると。
コドモたちはその時間だけ、『辞書』を自由に使うことが許されました。
それで。
みんなは、自分たちで自由に!
『漢字を感じですてきに使う』習慣が、身についていたのです…
*
西暦で言うと、2200年~2300年ぐらいの間の、
どこかの出来事でした。
『二本』とか『次飯』とかの表記で書き残される。
どこかの、地下シェルター都市での。
ある日の、出来事でした…
「あたし、
学校のへやのゆかにみんなで大きく書いた、
『世界地図』のかたほうを指さして、藍子が言いました。
「あたし今日ここで昼寝する!」
そう宣言すると、となりの眠るへやから毛布と枕をとってきて、
ひとりでさっさと『キタ飴理香』の上で丸くなりました。
「きっと飴理香の夢を観るから! 邪魔しないでね!」
おもしろそう、と絵里奈は思いました。
「じゃ、あたしは
そう宣言して、眠るへやから自分の寝じたくをもってきました。
「ぼくは…
ちょっぴり、でも、あんまり、ぴったりではなく、
エリカのちかくに行きたい卓が、急いで言い足しました。
「じゃあオレ、
武がそう言ってのしのしと場所を確保しました。
いつも初めに動く四人がそう決めたので、他のみんなもばらばらと。
それぞれの好きな国に毛布をひろげて、くるりと丸まりました。
「あらあら…」
この時間の『先生役』だった佐和子は苦笑しました。
普段はおしゃべりに夢中でなかなか昼寝をしてくれない連中が。
今日に限って、五分もしないうちに、ぐうすかすやすやと、眠りについたからです。
それはいいのですが…
「…う~ん… むにゃむにゃ…」
いつも寝相の悪い何人かが。
あっという間に『越境侵犯』して。
『他国の住民』を押しのけ、蹴りのけして。
世界征服の旅?に出てしまったではないですか…
「あらあら…」
次の時間の先生役の交代に来た満里奈が苦笑しました。
「みんな、チョークの粉が着いちゃったわね…」
先生役ふたりが遅い昼ごはんを食べながら見守るうちにも。
あっちで越境。こっちで海没。そっちで侵略戦争…と。
動く世界地図の連中は、留まるところを知りません。
「この一覧表、なに?」
さっきの時間にみんなで書いたらしい漢字の並んだ部分の床を観て、
マリアが訊ねました。
「今はみんなカタカナで書いてるけど、
昔はそれぞれ漢字の国名があったらしいわ?…って、話をしたら、
みんなで『国名の漢字を感じで考える!』って…」
「あら素敵。」
言いだしっぺの理香は、自分の名前の漢字を入れた『飴理香』を、
真っ先に藍子に盗られてしまったので、オカンムリで。
むっつりと、眉間にシワを寄せた顔のまま、
南アメリカ大陸を、固守する構えで、熟睡しています。
そんな、ある日の『授業』風景でした。
*
なにしろその昔、とてもとてもたくさんの人が、死んだのです。
たくさんの大人が死んでしまったので。
生き残ったオトナは、ほんのぽっちりだけでした。
生き残ったコドモは、さらに少なかったので。
ガッコウ、というものの真似事は、
狭い地底都市の中では、
ひとつの大き目の部屋を割り当てるだけで足りました。
コドモたちはみんな、だいたいの年齢別に。
生き残ったオトナたちから交代で、
『よみかきさんすう』を教わりました。
でも、生き残ったオトナたちだって、
ずっと戦乱と天変地異のなかを苦労して生き延びてきて。
ちゃんとした『学校』や『知識』を持っている人は…
ほとんどいませんでした。
ただ、『辞書』という紙の束は。
他の本よりは、地底都市には(あらかじめ)たくさん保存されていました。
オトナたちがみんな忙しくて『自習』になると。
コドモたちはその時間だけ、『辞書』を自由に使うことが許されました。
それで。
みんなは、自分たちで自由に!
『漢字を感じですてきに使う』習慣が、身についていたのです…
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西暦で言うと、2200年~2300年ぐらいの間の、
どこかの出来事でした。
『二本』とか『次飯』とかの表記で書き残される。
どこかの、地下シェルター都市での。
ある日の、出来事でした…