第9話 悲喜こもごもの個人情報。

文字数 1,422文字

 
     ☆

「へーい、観て嬉しいか哀しいか?
 人による!?
 博士のマル秘映像!?
 大公~開~ッ!!!!!」

 すでにかなり酔っぱらった主治医が。
 にやにやしながら壇上に進み出て。
 おいおい、ってな感じで。
 業務用の映像投影機を引っ張り出した。

「えー、何?」
「なに、なに、なに!?」

 泣き笑いしながら祝杯を。
 酌み交わしあっていた旧知の仲間たちは。
 一斉に注目しまくった。

「ふっふっふ♡ 博士の! 個人情報~ッ」
「をいっ? 業務上…」
 ガタリ!と立ち上がる正義の志士が約一名
(限定)。

「待て落ち着け大丈夫だ!
 やばいところ映すわけじゃないからッ!」

 ヒキ笑いしつつ。
 慌てて制止者を制止する主治医と。

 ほぼシラフのままのくせに祝杯の場で。
 一番幸せそうだった、某護衛官を。

 げらげら笑いながら引き離す、その他おおぜい…

「さて、おたちあーい♡」
 医療用重篤患者監視映像の。
 マル秘!上映会が、始まった…。

     ☆

「きゃー博士!」
「寝顔~っ♡ 可愛い!」
「コレ意識とりもどしかけた時の寸前な?」
 女と男たちの黄色と茶色の歓声がどよめく。

「…目ぇ開けた瞬間。」

 もぉ言葉にもならない、大歓声があがる。

     ☆

 なにしろ脳死も危ぶまれ。
 いかに最先端の医療技術を駆使しようとも、
 生涯、植物状態かも?
 とも、言われていたのだ…

 その、なんと!
 無事!?
 意識が、戻って…
 記憶も、ある? 少しは??
 らしい…ッ??

 …てんで。
 一旦解散した、某特別作戦従事チームが。
 当の患者である博士は寝たきりで不在のままだが。
 一同、集まって、
『祝!生還おめでとう!』
 飲み会を…
 開催して、多少はハメを外したって…
 バチは、当たるまい…

     ☆

「はい、日付かわりまして…
 これ、お気に入りの看護師さんたちに、
 世話してもらっている時。」
「あ、笑ってる!」
「すねてる?」
「か~わいい~!」
「…これがじつはシモの世話、されてるときの顔…」
「…えッ?」
「それって…」
「ぅんまぁ一応? そういう、羞恥心とか?
 社会常識的な? 意識、あるらしいわ…
 喋れないけど」
 
 どよどよどよ… と、また泣き笑いの歓声。

「…で、さて…」

 ここからが。本番である…

     ☆

「こないだアリサが面会に来た時。」
「うわ! 笑ったッ!?」
「これ認識してるよね絶対!あいて誰だか!」
「記憶、あるんだ!?」
「視力も無事だってことだよね?!」
 ひとしきり、歓声。

「で、エヴォナが顔みせに来た時。」
「…………!」
 このへんで、敏いチームメイトたちは。
 わざわざ映像編集した性格悪の主治医の。
 意図と、オチを、なかば、悟ったわけだが…

「…可愛い!」
 そんなの関係ねぇ!とばかりに、
 外野のぜんたいは大騒ぎする…

「サラの。」
「いいなぁ~! 全開!」
「パキの。」
「…ぁはははは☆彡 嫌がられてるwww」
「トワの。」
「うはw たまんねぇ、可愛い!」

「んで…」
「…ぇえ~? もうオチ~!????」
「…勘づくなよ。つまんねぇ奴らだなぁ~…」

     ☆

 もぅ、もぅ、見惚れるほどの…
 …砂を、吐きたくなるよぉな…

 全開の、満面の、心から幸せそうな…

 笑顔。

 …で。

「 ……… え? 」

「おまえん時だよ! このばか護衛!」

 ちょっと、おろおろしながら、呆然とばかづらで立ち尽くす…
 男と。

 ひそかに、というか、公然と。
 ぎりぎりと、胸を刺す、恋の痛みに…

 ぐれまくった者たち数名が。

 あったのだった。



 


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