第1話  四足歩行機の伝説

文字数 1,051文字

 
 それは《 三界 》時代の、主に地球系を発祥とする移民文明の僻地で用いられた。

 難地用(主に瓦礫上や急傾斜地などを想定した災害救助等活動用)の
直接搭乗型 四足歩行機(クァトラール) の複座型には央座式と前座式があって。

 安定性を重視した央座式は中央に操縦者(主救助者)を。
 周囲の四座には被救助者(または救助活動の補助者)を載せることが出来る大型で。
 さらには脚間の簡易担架病床を開設すれば、
 追加合計四人までの重傷病者を即席に収容することが出来る。
(ただしその場合は自力歩行は不可能になるので、その場で静止して、被救助者とともに丸ごと収容艇に回収されるのを待つことになる。)
 この型は外見と機能上の種類によって、
主に《 らくだ 》または《 めんどり 》なる愛称で総称されることが多かった。

 また、速度と機動性を重視した前座式は、
爆発の危険性や酸欠死の危惧がある場合などに多く用いられた。
 搭乗者は身を乗り出すようにして機体の最前部に腰掛け。
 被救助者は発見され次第、その腕に掴まって背後に放り上げられ。
 その背中にしがみつくようにして、危地のなかを駆け抜ける。
 背後に耐爆用の保護幕を展開できる型を主に《 くじゃく 》と。
 ひたすら駆け抜けることを目的とした単純型を《 けんた 》と、
 呼ばれることが多かった。
※《 けんた 》は、神話上の怪物、『 ケンタウロス 』の略である。
 
 後の時代。
『生身の人間が直接搭乗する』救助方式が時代遅れとなり。
 最後期にして最新鋭だった《 けんた 》の未使用在庫が。
 辺境惑星のとある忘れ去られた倉庫に放置されたまま、
 大量に、盗難されたことがあった。
「あんなもん、誰が何に使うんだよ…??」
 当時の当地の治安管理者たちは、首をかしげ。
「まにあっくな蒐集家にでも売りつけるんじゃないの~??」
 …と。
 嗤いとばしたまま。
 盗品の行方は、捜索されることすらなかった。

 犯人は。
《 末法 》と呼ばれる時代から、盗難当時は違法犯罪とされていた、
《 時間遡行 》で襲撃を繰り返していた、盗賊集団であった。

 さらに、のち。

 彼らが売りさばいた盗品が。
 大規模時間遡行移民団の手に渡り。
 古代( 地球 )本星の、
 古代某大陸の、硬い岩盤の荒れ地の上を。
 縦横無尽に、駆け回り…
(狩猟と、そして、強盗・強姦団として…だ!)

 当時の地球の原住民から。
「…人馬一体の、怪物…!!」
 と、恐れられ。

 ぐるっと回って【 ケンタウロス 】伝説の原型になった…

 という。

 歴史上の皮笑な小話を。

 知る者は、稀である…




 
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