第2話 『 タサミ の 浜 』

文字数 1,379文字

 
      *

 動顛したまま、息をきらして走っていくと。
 ようやく辿り着いた明かりの灯るあたりの外れ。
 磯浜と、一段上の別荘地の、
 外灯の光が支配する外庭とを繋ぐ階段の。
 まだいささかほの暗いふちのあたりに、
 誰かがたたずんでいた。

 先ほどのことがあるので、わたしは内心
(…うっ?)と、
 おののいて、立ち止まった。

「…どうしました、そんな顔して?」
 暗がり氏は、
 …ポゥ、と、煙草に付け火を灯す燈りに。
 みずからの横顔の半分の明暗を、浮き上がらせながら。
 穏やかに、少し面白そうな表情を交えて、
 …声をかけてきた。

「タサミにでも、遭いましたかね?」
「…タサミ?」
「そう。タサミ。………おや、通じませんでしたかね?」
「いや、…知ってます… タサミ。
 …そう、タサミ… www」

 懐かしい、単語だ。

「滑らなくて良かったですよ」
 言った相手が、そう、軽い笑みを含んだ声でつけたした。
「ははは… 同世代ですねぇw」
「そのようで。」
 そして、同じ本や雑誌を読んで育った…

 おたく、仲間だw

「それで?」

 同じ集まりに参加するために、この時期、同じ別荘地にいるのだから。
 どこかで見た記憶もある顔だったが。
 お互い面識がある、というほどの知己ではない。

「どうしました? タサミいましたか?」
「………そうなんですよ!」
「え? ホントにいた?」
「いや、…そうじゃなくてね…」

 酔いざましに。

 と、酔った頭で、うっかり夜の浜辺に降りてしまって。
 星は明るいが、足元はほとんど見えない。
 浜に打ち寄せる波頭がかすかに白いが、
 どこまでが砂浜なのか、
 どこからが岩浜なのか、
 足元は、平らなのか凸凹なのか、
 はたまた、落とし穴が口を開けているのか、
 ぽっかりと、陥穽に墜ちて、
 眼が覚めたら、異世界にいるのか…???

 などと、ぼんやり、ぼんやり、
 さ迷い歩いていると。
 突然。

 すぐ目の前に、あったらしい。
 岩浜の、はずれの岩の崖縁から。
 ぴかり!
 びかり! …と。
 二つの、巨大な、明るく光る目ン玉が…!!!!

「…ぎゃ!?????」

 酔った頭で、悲鳴をあげ、腰を抜かしかけると。

「…あんだ、暗いだに、明かりも持たずに出て。
 危ねし!」
「…あ? …あ? …あ??」
「戻れッし。」
「…ふぁ?」
「聴こえんが? 戻れッし! 言うだらがッ!?」

 怒鳴られて。

「ふ、…ぅわわわわわわわわ…ッ!!!!」

 声にならない悲鳴を上げて、慌てて、逃げてきたのだが。

「…よく、考えたら、アレ、額につける型の。
 素潜りの、漁師さんのランプのアレですわ…www」

 良いトシをした酔いどれ親父が。
 地元の漁師の夜漁帰りの姿を。
 妖怪? 宇宙人? ここ、異世界…ッ????

 …と、半分、腰を抜かして。

 よたよたと、走って逃げかえって来たのだ…
 という小話を、面白おかしく演出して聴かせたら。

 相手は。
 小腹を抱え、煙草の火を揺らして、楽し気に。
 悪げも嫌味もなく。
 すなおに。
 笑ってくれた…

 それが。

 後に名?コンビとして世界に凸凹ぶりを轟かす、
 アニメ界の雄、
 某有名変人作画監督と、
 某辣腕辛口(嫌味名人)プロデューサーの。
 意外に遅い、人生初の。

 直接の、出会いであった…。





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