8☆ミ

文字数 2,124文字

ニックの鞄の中に潜みながら、魔族の三人は魔法学校へ付いていく事にした。

シールックは堂々とニックの横を歩いていく。

あなたの姿は本当に他の人には視えないみたいです。

どうなっているんですか?

いや……。

ぼくは影の人という魔なんだけど、昼は姿が透明化しているんだ。

夜になると実体化が可能になるが。

魔?

魔というものなんですか?

魔族という響きがカッコ悪いからと言うことで、我々は魔を名乗っている。

他の奴らは酔いしれたように自らを魔族と名乗っているが。

あいつらよお!

魔族のヒューマノイドを手に入れたとかで滅茶苦茶盛り上がってたよ!

頭が軽いんだね!

鞄の中からスクナヒコナが飛び出すが、すぐにイシュタルに服の裾を引っ張られて元の位置に座り直しをさせられる。


スクナヒコナの言葉を聞いて、ニックはそっと腕を組んだ。

魔族のヒューマノイドか。

ぼくもヒューマノイド転換してみるかな。

魔法で何とかなりそう。

そんな事が出来るのか?

ドラえもんのひみつ道具のノリで?

可能です。

ぼくもアカシックレコードにアクセス出来ますし、もう学校には行きたくないんです。

女の子が嫌で。

女の子が嫌か……。

分かる気がするよ。

頭空っぽ系かい?

空っぽ系なんて言葉、使いたくない。

そういう人しか寄ってこなくて。

それは失礼した。

いや、でもなんで好きなの?

……嫌いになりきれないんですよ。

ああ見えて、良いところあるんです。

そう思って我慢してきて、ぼくも駄目になった。

無理に異性と付き合わない方がいいよ。

え!

いいのかな!

本当に?

あの人の真似をしてきたんだけど!

あの人?

まさか……。

五黄だよ!

あいつ、クズとずっと付き合っているから。

なんで義なんて立てて……。

次の瞬間、イシュタルがニックの鞄から飛び出し、彼の後頭部に手刀を入れた。

ニックは余りの激痛に目玉が飛び出し、その場に蹲る。

死ね!

なんだコイツ!

ぶっ殺すぞ!

イシュタル……。

隠れないと。

イシュタル?

五黄を知っているのか?

うん。

全く、このニックは本当にどうしようもないな!

解脱しきってないじゃないか!

うう。

女の子への執着を断ち切ってもいいんだね?

イシュタル、きみは?

もしかして五黄か?

雛型がそうだよ!

バカニック!

モテ願望なんか振りかざして!

みっともないな!

……こいつ。

やはり足りないな。

あー、なんだか懐かしいノリ。

懐かしいノリ?

このイシュタルの罵倒が?

ニックとは何者なんだ?

恐らく古い仲だよ。

私の本体を知っているから!

大うつけだ、コイツは!

酷い。

やっと解脱出来たんだよ!

これでもね!

これで解脱と言えるの?

スローペースだなあ。

人の事言えないか……。

……まあね。

本当にしょうがないな。

ニック!

今日からあんたは生まれ変わるよ!

覚悟しな!

ふぁい。
気の抜けた返事をしながら、ニックは何故か小躍りを始めた。


まるで何かの重荷を、肩から下ろしたかのように。

??

ニックの奴、狂喜乱舞している。

どうしたんだ?

大方、オレンジ色のくまちゃんを分けて貰えると思っているんだろう。

ニックにくまちゃんは荷が重すぎる。

くまちゃん狙い?

あのくまちゃんはぼくのだぞ。

……少しくらいいいじゃない。

ケチ……。

そんなに人気とは思わなんだ。


ぼくも欲しいけどね。

大の大人がねえ。

仕方ないか。

オレンジのくまちゃんをそんなに軽視しているのか。
いやー、だってさあ。

あんなに喜ばれると思わなかったんだもん。

プレゼントしてびっくりだよ。

自分が何をしたか、分かっていないようだな。
……不穏な流れ。

でも実情はほっこり。

いいなあ。

オレンジのくまちゃん。

癒やしの波動だもんね。

そんなにかなあ。

蜜漬けくまちゃんがそんなに……。

蜜漬けだと?

おれもちょっと欲しい。

あれ……。

アーネちゃん!

勝利の女神が寂しがるよ!

すまん。

欲をかいた。

なんということだ。

うちに帰ったら抱きしめよう。

なんて平和なノリ……。
何だよ……。

ぼくだって蜜漬けの生活を送りたいよ。

もう辛くて辛くて。

早く楽になりたい。

まだまだ自覚が足りんのう。

ニック。

今日は一日、観察させてもらうからね。

自覚って?

もしかして、もうぼくはあらんでいいってこと?

は?

あらんってなんだ?

荒ぶることさ!
コイツ……。

あの怪獣が本性なのか。

怪獣と懐柔?
それはいけないね。

ニック、きみはおとなしくならないと。

あの子みたいになるよ。

あの子?

……分からん。

……解脱が足りない。

そんな未来が見える。

……?
コイツはいつもだよ!

下品なのが悪い!

下品……?

ぼくが?

まさか……。

やがて学校に着くと、ニックはすぐにパニィのそばへと向かった。
おはよう。

パニィ、昨日言っていた星のペンダント。

あげるね。

えっ!

ほし?

うそっ!

マジ?

うれしー!

パニィはニックからもぎ取るようにペンダントの包みを開けた。


透し彫りのレリーフの人形入りのペンダントを見て、彼女は目を輝かせる。

何?

この可愛いペンダント!

女の子が入っているね!

いいじゃーん!

サンキュー!

パニィはペンダントを身につけると、即座に席に戻っていった。


ニックは一息つくと、鞄の中にいる魔族達に視線を落とす。

しかし彼らの姿はなかった。

教室ー?

しょぼいね!

探検しようか!
あ!

見つからないようにね……!

ぞろぞろと外に出て遊び出す彼らを、ニックには不安なようで不安もなく静かに見つめた。
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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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