9☆ミ

文字数 2,055文字

授業が始まったが、魔族の四人組は全く気にすることもなく教室の後ろで駄弁り始めた。


彼らは魔法で音量調整をしている為、話し声が人間に聞こえる事はなかった。

その為、全くの遠慮もなく通常通りに振る舞う。

スクナ、何をしている?
ぼくの中に潜む、3の倍数の時にだけバカになる体質を治すのさ!

その準備だよ!

ナベアツならぬ胸熱?
今から魔法陣を描くからね!
……何も学校でしなくてもいいんじゃないかなあ。
教室内の誰一人として彼らの存在に気付く者は無かったが、唯一ニックには感知できた為、内心ハラハラしながら教室の後ろをチラチラと覗いていた。


イシュタルは魔法のチョークで陣を描くと、真ん中にスクナヒコナを座らせた。

いい?

バンハッタソワカ!

幸せになれ!

えっ?

うわっ!

次の瞬間、スクナヒコナの身体から薄紫色の煙が噴き出した。


煙は少しずつ形を変え、女性型へと形取っていく。

……あら?

どうしたの?

音量調節!

姿を消して!

教師に気付かれる前に、シールックは現れた女性の姿に魔法をかけた。


彼女はキョトンとした様子で教室全体を見回す。

あたくしは一体?

さっきまで殿方と愛し合っていた筈なのに。

ずっとぼくの中にいた筈なのに。

殿方と愛し合っていたって?

なあに?

この小賢しいボクチャンは!

あたくしはずっと、ハイブロッサムといたのよ!

なんなの、あなたは?

知らない。

お前は何なんだ!

スキムルーク!

あたくしの名よ!

ハイブロッサムねえ……。

それは有名な明王だね。

ハイブロッサムならここにはいないよ。

彼は遠い所にいる。

明王?

そう言えばそうだったわね!

ちょっと探してくる!

さいなら!

スキムルークと名乗る女性は、瞬時に姿を消した。

彼女を見送り、スクナヒコナはホッと胸を撫で下ろした。

あいつ、うるさかったんだ。

常にエロい映像を送りつけてくるから!

エロい?

色情狂だったというの?

あいつが?

イシュタルとスクナヒコナのやり取りを聞いて、アーネトルネはピクリと眉を動かした。


大きな体躯を揺らし、そっと陣の前に立つ。

……おれもやってみようかな。

変なのがいる。

マジか!

アーネも解脱しきっていないのか!

解脱というのは永遠に行うものなんだよ!

お前は甘すぎるぞ!

……そうなのか。

すまん。

アーネちゃんは紺属性だから。

色々脱がなくちゃいけないかもね!

脱ぐ?

おれは爬虫類にもなれるぞ。

爬虫類!

大人だなぁ。

そう言いながら、アーネトルネはそっと陣の中心に向かった。

イシュタルはそれを確認してから、複雑に腕を組む。

バンハッタソワカ!

かっこよくなれ!

かっこよく?

次の瞬間、アーネトルネの前身からエメラルドグリーンの煙がモクモクと上がりだす。

まるで煙幕のように身体から煙が噴き出すのを、3人は信じられないような目で見つめた。


やがて、彼は少しずつ姿を変え、煙も同時に人型を形取っていく。

うう……。
うぎゃっ!
いかん!

魔法を!

すぐさまシールックが早撃ちの魔法をかけ、現れた煙の何かの姿をかき消した。


彼女はキョロキョロしながら教室を見渡している。

何?

私、ひたすら強くなりたくて!

魔王に取り憑いたのに!

??

なんだ?

アーネちゃん!

どうしたの、その姿は!

??

女の子になっちゃったの?

えっ!

可愛い!

どうして!

解脱した……。

ぼくの中に潜む邪魔な存在が外に出たらしい。

良かった。

引き継ぎを忠実に行ったから……。

引き継ぎ?

あっあああ!

ぼくの!

全てが!

アーネに渡っていたんだ!

愛も名誉も力も地位も!

何もかもが!

名誉?

そんなのあったの?

ひっ!

ひどい!

ぼくは!

最高神だろう!

……?

そうなのか?

……まだそんな事を言っていたのか。

スクナ……。

いい加減に諦めろよ……。

授業中のシンとした空気の中、四人の魔族は全く気にすることなく話し合いを続け、魔法陣により姿を現した邪の存在は異質な空気感に金切り声を上げた。
あんたたち!

どうして私を呼んだの!

私は覇道を極めたかったのに!

覇道?

まずは波動だろう。

そうなのか?

ぼくはてっきり、アーネは覇道を極めるものだとばかり。

いや、物には順序というものがあるから。

まずは波動が読めないと。

だよね。

アーネちゃんは素質ありだけど、まずは量子回転の極みからだね。

量子を?

どうやって極めるの?

え?

今更そんな事を……。

イザナミとイザナギやん?

なんで……。

ぼくにも分からない。

何故ナミとナギが波動と量子になるんだ?

おやおや。
イシュタルはチョークを手に取ると、後ろの黒板に図を描き始めた。
高校物理の問題で充分だ。

量子振動の波が波長で、最低点と最高点が止点。

止点にして至点。

凪。

まずはこれが基本。

そこから法則に従って、粒子が積み上がって物質が生まれるの。

この総体を量子というのよ。

素粒子とは?
磁性の性質。
そこまで言語化出来ない……。
知らなかった!

ぼくは今まで、どうやって魔法を使っていたんだ?

四次元転換など普通にしていたよ!

見様見真似で何とかなるもんなんだよね。

しかし他者に教えるとなるとちょっと大変で。

ちょっとアンタ!

急に何よ!

授業なんて始めちゃって!

……?

何を話している?

アッチの方が興味あるな。

授業は淡々と過ぎていく。
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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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