5☆ミ

文字数 2,226文字

訳の分からぬまま話が進み、駄弁りに駄弁りが続いていつの間にか時間が過ぎ去っている。



この四人の魔族は何者なのだろうか。



ニックは戸惑いを隠せぬまま、時計を確認した。

針は朝の4時を指している。

あの、転移術の件はすみません。

ぼくはこれから仮眠を取って学校に行きます。

どうぞ好きに寛いでくださいね。

悪いね!

台所借りるよ!

なんかお腹すいたからご飯作る!

いい案だな。

早速行こう。

四人は意気投合し、そのまま階段を下りてキッチンへと向かった。


当然のように、まるで遠慮の欠片もなく家の中を勝手に物色し始める。

凄い量の魔道書だな。

ふむ。

中身が全て間違っている。

何?

シールックにも間違いが分かるのか?

いや、さっきの陣を見て覚えた。

アーネの陣を基本とすると、この魔道書はおかしいぞ。

ほら、ここなんか。

卑屈にも程がある。

シールックは馬鹿じゃないんだね。

不思議なやつだな!

そうなんだ。

シールックにいさん、流石だね。

魔法の経験は殆ど無いって言ってたけど、覚えると早いんじゃない?

そうなのか。

いつもボケ役ばかりだから……。

流石になあ。

魔の身体だから覚えが早い。

感性球に響くよ。

なるほどね。

よく考えればそうだよね。

シールックはいつも魔法剣使ってるもん。

風は特に得意だし。

風ねえ。

そうか。

陣タイプは大得意かもね。

なるほど。

陣なら風要素だもんな。

火はからっきしだが。

それはぼくが戦闘する気がないからで、火は勝ち気でないと無理だろう。

この魔道書にそのように書いてある。

戦闘する気がない!?

あれだけバーサーカーっぽく戦っておいて!?

変なの!

どんな気持ちで戦っているの?
相手をねじ伏せようと思って剣を持っているよ。
なんて奴だ。

流石、風だ。

なんだと!

覚悟しろ!

剣を持て!

む!
イシュタルとシールックは、魔法剣を生成すると居間のど真ん中で激しく打ち合い始めた。


その様子をアーネトルネはソファーに座って観察し、スクナヒコナはキッチンへと向かう。


彼は食料庫を漁り、適当なツマミを作ると料理酒を引っ張り出した。

果物酒と茶を持って、居間に戻る。

酒!

飲むよ!

スクナ!

ちょいまち!

スクナヒコナが料理酒を飲もうとした途端、イシュタルはシールックの剣を完全に弾き飛ばしてスクナヒコナに近付いた。


完全に剣筋を見切られたシールックは恨めしそうにイシュタルを見つめる。

あのさあ。

酒は、飲むじゃなくて呑むにしな。

それは水じゃないんだよ。

感謝の念が足りないよ!

えっ?

呑む?

何故。

酒を作るのは、実は大変だ。

それを水と同じ感覚で飲むと、まるで酒をその身に入れる意味が無くなってしまうよ。

酒呑童子は本来、人間の苦労をその身に受けて天の恵みに感謝し続ける存在だからね。

重さを知らぬ者に未来はないよ。

魔族とは思えぬ言葉だが、そのとおりだ。

スクナは感謝がまるで足りない。

本家の醸造所は発酵空間だから簡単に酒が作れるが、この世界なら酷く苦労するだろう。

それを忘れるとはな。

これは個性じゃないよ!

欠点だ!

わかったら返事をおし!

ふぁい。
全く。

なんて奴だ。

どうして忘れるんだ?

何故辿れない?

理解出来ない?

本当に不思議だ。

前に何回も言われたのに、また忘れるなんて。

どうしてだ?

……。

本当におかしいよな。

何かこの世界にヒントがある筈。

そう思った。

あのニックとか言う男、他人とは思えないし。

そう言いながら、イシュタルは音もなく階段を登るとニックの寝室へと入り込んだ。


彼はベッドの上で爆睡していた。

それを横目に、彼女は部屋に置かれた大量の本棚の背表紙を目で辿る。

……ここに何か。

これか!

イシュタルは一冊の本を手に取ると、静かに階下へと降っていった。


シールックとアーネトルネは居間に置かれた本棚を見ており、スクナは小さい身体を更に小さくしてツマミを齧っている。


イシュタルはそっと手に持った本をテーブルに置くと、ゆっくりと広げた。

気配がする。

この本に、必ずヒントが。

何?

何かの本?

あのね……。

あのニックとか言うやつ。

頭おかしかったでしょ。

自虐満載の魔法陣なんて構築して。

有り得ない苦しみを自分に架しているの。

なんでかな、と思って。

確かに。

毎回あんな陣に乗っていたらおかしくなるぞ。

何故自分の存在を抹消しようとし続ける?

抹消?!

……なんてことだ。

自虐を続けると自我が崩壊するのか。

する。

精神球の密度が低ければ低い程、吹けば飛ぶように壊れるよ。

お、これかな?

茶色に変色したページに、小さな一文があった。
テイシツニンゲンノコロシカタ
物騒だな。

ていしつ、人間?

殺し方だと?

また例のあれだ。

ヌース関連だろう。

これは……!

これを使えば、アイツを追放出来るのか?

アイツ?

思い当たる節でもあるの?

ある。

波動係数が3の倍数になった時に、物凄いバカな女がぼくから出て来る。

テイシツニンゲンっていうのかな?

テイシツとは。

底質かな?

貞質かな?

帝質かな?

滞質かな?

色々あるんだな……。

ぼくの至らない部分も殺して欲しいところだが。

シールックにいさんはまず、底を調べてみようね。

恐らくこれは、Y軸の拡張だ。

つまり自分の底の深さを書き換える魔術だよ。

虚数のY軸か。

これは……普通では到達出来ないな。

Y軸って……。

縦、かな?

高さだね。
いかん。

平面で考えていた。

それじゃ永遠に辿り着けないな。

そんな視点があったなんて知らなかったぞ。

お前はどうしてそう、常に斜めに飛んでいくんだ。

シールックは苦笑いし、スクナヒコナは急いでイシュタルの後ろに回った。

彼女の後ろで、魔道書を隅から隅まで貪り読み始める。

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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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