7☆ミ

文字数 2,373文字

頭の中のモーターが回転しっぱなしのような感覚を引きずりながら、ニックは登校の準備を始めた。


昨日作ったペンダントを丁寧に梱包し、鞄の中に詰め込む。

課題を一瞬で終わらせてから、教科書類の整頓をした。

学校へ行くの?

私達もついていっていい?

ええ?

駄目です。

バレちゃいますから。

ぼくはバレる自信ない。

上手く隠れるから。

ぼくは影だから、昼間は人間には見えない。

ニックには何故か視えているようだが。

影は便利だな。

おれもバレない。

小さくなれるからな。

私も小さくなれるよ。

ニック、ついていくよ。

いいね?

……にゅ。

ふぁい。

む。

こいつ、未だに次元観察子νの領域から脱していないぞ。

未熟者だ。

ニューの領域とは?
無核質のことだけど、未核質への転換が非常に難しくなっているってことさ。

あんたさ。

もう、自己領域を拡げるのやめたら?

限界一杯だと思うんよ。

既に限界一杯?

どうしてそんな事が分かるんです?

ニックの質問に対し、イシュタルはそっとテーブルの上にビー玉を置いた。

赤と青と黄のそれを、指先でコロコロと転がす。

あのね。

神性領域っていうのがあって。

それが心の真の意味での底となるんだけど。

この3つの領域に全到達しないと先に進めないようになっているんだ。

自己領域の底が知れてしまったら、どんなに自分に鞭打っても成長の為の動きが起きないの。

ニックは成長したくて自分に鞭をくれているようだけど、もう無理かもね。 

だって既に伸び切っている感があるし。

赤のビー玉は神?

青は飛翔?

黄色はヘイト?

だったっけ?

そそ。

この3つの中で量子回転に繫がるのは飛翔の青。

青に乗れないと駄目なの。

赤と青とで禁術の解禁が可能になる。

青と黄色とで叡智の扉が開く。

赤と黄色とで感性球の完全到達の扉が開く。

……それがどうしたっていうんです?

ぼくはどの領域に……。

あんた、おもろいようでつまらんね。

何もかもが中途半端。

禁術は使えそうもない。

中途半端も中途半端だね。

もう成長はあきらめな。

これからは快楽に従って生きる時代だよ。

快楽に!?

本当に?

その言葉は禁忌だと思っていた!

女の子と付き合える!

なんだコイツ、女好きか?
いや、うん!

青春したくて!

なんだ?

恋が青春?

さもしい奴だな。

……やはり、コイツは限界を迎えているようだな。

やった!

ぼくはもう修業が終わったんだ!

神性領域の扉は開けない!

そう思うことにする!

ありがとう!

イシュタル!!

軽すぎる。

なんだコイツは。

……ちょっと見損なった。
恋はいいもんだぜ。
まあ、な……。

しかし、なんて軽さだ。

三人はニックを冷めた目で見つめた。

シールックだけは訳が分からずに彼を温かい目で眺めている。

神性領域とはなんだ?

ニックは開けないって?

向上心の欠片もない奴だ。

こういうのを見ると絶望する。

神性を開けないと、指先まで魔力を張り巡らす事が出来ないよ。

ニックは魔法を諦めたんだね。

指先までって、どういう……。
聖爪術のことかな?

ぼくも使えるよ!

??

後で教えてくれ。

強くなりたい。

なんだと……。

これが理解出来ない魔……。

これが20次元レベルか。

アーネちゃん、刮目せよ!

丁字路の在り様だよ!

これが……!

しかと見たぜ。

二人がやたらと騒ぎ立てるのを、スクナヒコナは微妙な目で見つめた。


手元の魔道書に視線を落とし、それからそっとニックに近付く。

あの、ちょっと訊きたいんだけど。
何?
このページのさ……。

オンキリキリバサラウンハッタ。

魔術転換法を教えてくれる?

いいよ。

簡単だよ。

逆さ言葉で魔法陣を書いてごらん。

それで使えるから。

……?

タッハンウラサバリキリキンオ?

アナグラムの方がいいかな?

onkirikiribasaraunhatta

attahnuarasabirikirikno


アッターヌアラサビリキリキリンノ

リキリクじゃないかな?

アッターヌアラサビリキリクノね。

ありがとう。

これは効きそうだ。

スクナ!

それはだめだよ!

自分に跳ね返ってくる奴だから!

オンキリキリバンハッタソワカにしな!

ソワカの方?

アナグラムにするの?

いや。

これはね。

オンキリキリを切るだけでいいから。

バンハッタソワカを平仮名にして、それをぐるっと描くだけでいいよ。

スクナの中のアレを切り離すだけなら、ソッチの方が幸せになれるから!

なんで?

よくわかんない。

このっ!

出来損ない野郎!

スクナを危険な目に合わせようとしやがって!

何?

こいつ何しようとした?

裁きだよ。

スクナにバカみたいな美女の怨霊が巣食っているんだけど、それを切り離す術を知りたかったんだ。

それをこのニックとか言う阿呆は下手糞な縁切りで怨念を増やそうとしやがってさ!

バッカ!

ああいう輩には、幸せを願ってそっと切り離すのが最適だよ!

幸せを願って?

仏にも程がないか?

シールックにいさん!

私がもしシールックにいさんとお別れする時、恨み言を言ったらどうする!

心が死ぬでしょ!

優しくさよならするよね!

……!

なんでそんな事を言うんだ!

お別れなんて絶対にしないからね!

……しないけど、例えばの話よ。

逆恨みって怖いから……あれ?

うっ……。

なんてことを。

ぼくは君と別れるなんて絶対にしないから……。

シールックは大粒の涙をポロポロと零して泣き始め、その様子をアーネトルネは呆れたように見つめた。
例え話でそれか。

だったらもっと、イシュタルを大事にしてやれよな。

お前は本当にもう……。

例えねえ。

これが企画倒れになることを祈るよ。

一回は意識を敷かないとだからね。

兎に角、魔法陣はね……。

イシュタルにお願いすることにする。

ニックは駄目だ。

信用が地に落ちた。

別れ話が企画倒れ?

企画?

……シールックにいさんのおっとりもここまでくるとね……。

この例え話は、お別れしないおまじないにしようね。

分かったかな?

……ふぁい。
……信用って?
四人のテンポが良い会話についていけず、ニックは戸惑いながら登校の準備を進めていった。
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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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