1☆ミ

文字数 2,145文字

剣と魔法の世界。



舞台は魔法使いこそ至高という認識が根底にある、タレスレッタ王国から始まる。




タレスレッタ王国の首都・コリオーリにある、都立カーペラ魔法学校。


今日も始業の鐘がなる。

ニック!

あんた、今日こそ私に宿題を移させなさいよね!

魔法学校高等部。

最上学年の内、落ちこぼれと言われるDクラスが今回の舞台である。


パニィはクラスメイトのニックに宿題を写させるように迫っていた。

それは日々の常であった。

だ、だめだよ。

パニィ。

ぼくの魔術式は独特だから、これを丸コピしたら一発でぼくのだってバレちゃうから。

ほら、違う式をぼくが書いてあげるから写すのは許して。

バレたら嫌なんだ。

なーにー?

わかったわ。

ほら!

早くノートに書きなさい!

ボンクラ!

パニィは自分の名が記入されたノートを差し出すと、すぐに近くの机に勢いよく座り込む。


ニックは内心ビクつきながら、ノートの内容を埋めていった。

あんた、魔法は得意なの?

私は全く分からない。

魔法式なんて、丸しか書けないの〜。

得意って訳じゃないけど。

まあまあ、できる方かな?

宿題の代理をするくらいにはね。

なるほど。

永遠に宿題をしなさいね!

私の為に!

わかったら返事をおし!

ニック!

ふぁい。
ニックは全く詰まることなく魔法式をサッと書き出すと、パニィにノートを返却した。


奪い取るようにノートを受け取ったパニィは一通り確認した後でにやりと笑った。

まあまあキレイにかけてるじゃない?

このパニィ様には負けるけど。

私は本当になんでも得意だから!

なんでもできるから!

……分かんないって言ってなかった?
あ?!

なんか言った?!

……別に。
ひひっ。

あんたって笑えるわよね。

大好きよ。

パニィはいたずらっぽく笑うと、ノートをヒラヒラと靡かせながら、自分の席に戻っていった。


そんな彼女を見送りながら、ニックは小さく溜息を吐く。


いつもこうだ。

断りきれない。

断るつもりはないが、彼女の頼まれ事は好みではない。


どうせなら、もっと自分も楽しくなるような依頼をしてほしい。





そんな事を考えていると、肩をトントンと叩かれた。

驚いて振り向くと、そこにはライムが少し怒った様子で彼を見下ろしていた。

ニック。

あんなのを許すの?

宿題を移させるなんて、お人好しにも程があるわよ。

ばかね!

ライム……ちゃん?

写させた訳ではなかとですね。

は?

移させてないって?

あんなのに負けじゃなくてね!

私はあんたに勝ってほしいの!

分かる?

負けじゃ?

わかりません。

ッカーッ!

ボケナス!

バカ!

アホ!

ヘタレ!

絶対に負けんじゃないわよ!

言うだけ言うと、ライムは不機嫌な様子でニックの前から去っていった。


ニックはそんな彼女を見送りながら、力無く机に肘をついて俯いた。


ライムの話すことは、いつもよく分からない。

罵詈雑言を吐き散らしながら、何故か自分を応援するようなことを言う。


俗に言うツンデレとも違うし、彼女を見ているとイライラすることも少なくなかった。



しかし彼は友達がいなかった。

ただ、パニィとライム。

この二人だけが不定期に彼に接触を持ってくる。



ニックは常に孤独だった。

自分の言動が他者に理解されることがない。

心の内を吐露できる友人もいない上に、理不尽な扱いを受けることが多かった。

ぼくの書いた魔法式の痕跡が先生にバレたらどうしよう。

それに気付かれないように祈るしかない。

立場の弱さもあり、危ない橋を渡ることを強要されても断りきれない。


結果的に不祥事が公になって、酷い罰を受けることも多く。


憂鬱な気分になることは日常茶飯事であった。




やがてホームルーム、授業がいつものように行われていく。


ニックが不安で仕方なく思っていたパニィの宿題は特に咎められる事もなく、無事に終業の鐘まで漕ぎ着ける事が出来た。



心の中に置かれた鉛のような気持ちが抜け落ち、ニックはホッと胸を撫で下ろす。

帰ろう……。
全てに絶望する。

世界の全てに。



しかし、帰宅の準備をしようというところで教室の出口をパニィが塞いだ。

あんた!

あたしに魔法を教えないつもり?

宿題をやってしまいなさい!

ソケットに星を付けて!

早く!

??

何?

ソケット?

宿題?

何の話?

ソケットよ!

この!

ペンダント!

パニィは首からぶら下げたチェーンを指差し、声を荒げた。


身に着けていたペンダントのチャームが取れてしまったので、それを直せというご伝達らしい。


ニックはうんざりしながら、手早くペンダントを修理した。

あのね。

いつもそのペンダント、壊しているよね。

おれが新しいのを作ってあげるよ。

絶対に壊れないキラキラの星のペンダントだね。

本当に?

分かった!

宿題だって頼みたいけど、それなら仕方ないわね!

よろっく!

……はいはい。
鞄を背負い、ニックはトボトボと教室を出た。


絶対に壊れない星のペンダント。



それを作るためには、魔の谷へ行かねばならない。

今から材料の魔石を採取しに行こうと考えていた。


目的地まで時間がかかるが、時空転移術を使えば一瞬で辿り着ける。


それは、ひそかに開発したオリジナル魔術であった。



まずは帰宅だ。

下駄箱で靴を履き替えようとすると、ラブレターが入っていた。

見なくても差出人は分かる。

ライムだった。


彼女からはとんでもない量のラブレターを受け取っている。

うんざりしながらラブレターを鞄に仕舞うと、ニックは力無く歩き出し自宅へと向かった。

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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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