1☆ミ
文字数 2,145文字
舞台は魔法使いこそ至高という認識が根底にある、タレスレッタ王国から始まる。
タレスレッタ王国の首都・コリオーリにある、都立カーペラ魔法学校。
今日も始業の鐘がなる。
最上学年の内、落ちこぼれと言われるDクラスが今回の舞台である。
パニィはクラスメイトのニックに宿題を写させるように迫っていた。
それは日々の常であった。
ニックは内心ビクつきながら、ノートの内容を埋めていった。
奪い取るようにノートを受け取ったパニィは一通り確認した後でにやりと笑った。
そんな彼女を見送りながら、ニックは小さく溜息を吐く。
いつもこうだ。
断りきれない。
断るつもりはないが、彼女の頼まれ事は好みではない。
どうせなら、もっと自分も楽しくなるような依頼をしてほしい。
そんな事を考えていると、肩をトントンと叩かれた。
驚いて振り向くと、そこにはライムが少し怒った様子で彼を見下ろしていた。
ニックはそんな彼女を見送りながら、力無く机に肘をついて俯いた。
ライムの話すことは、いつもよく分からない。
罵詈雑言を吐き散らしながら、何故か自分を応援するようなことを言う。
俗に言うツンデレとも違うし、彼女を見ているとイライラすることも少なくなかった。
しかし彼は友達がいなかった。
ただ、パニィとライム。
この二人だけが不定期に彼に接触を持ってくる。
ニックは常に孤独だった。
自分の言動が他者に理解されることがない。
心の内を吐露できる友人もいない上に、理不尽な扱いを受けることが多かった。
結果的に不祥事が公になって、酷い罰を受けることも多く。
憂鬱な気分になることは日常茶飯事であった。
やがてホームルーム、授業がいつものように行われていく。
ニックが不安で仕方なく思っていたパニィの宿題は特に咎められる事もなく、無事に終業の鐘まで漕ぎ着ける事が出来た。
心の中に置かれた鉛のような気持ちが抜け落ち、ニックはホッと胸を撫で下ろす。
世界の全てに。
しかし、帰宅の準備をしようというところで教室の出口をパニィが塞いだ。
身に着けていたペンダントのチャームが取れてしまったので、それを直せというご伝達らしい。
ニックはうんざりしながら、手早くペンダントを修理した。
絶対に壊れない星のペンダント。
それを作るためには、魔の谷へ行かねばならない。
今から材料の魔石を採取しに行こうと考えていた。
目的地まで時間がかかるが、時空転移術を使えば一瞬で辿り着ける。
それは、ひそかに開発したオリジナル魔術であった。
まずは帰宅だ。
下駄箱で靴を履き替えようとすると、ラブレターが入っていた。
見なくても差出人は分かる。
ライムだった。
彼女からはとんでもない量のラブレターを受け取っている。
うんざりしながらラブレターを鞄に仕舞うと、ニックは力無く歩き出し自宅へと向かった。