10☆ミ

文字数 2,172文字

授業が終わった後、ニックは教室の席の後部座席周辺へと向かう。


黒板に描かれた波動の表を見て、小さな悲鳴を上げた。

なんっ!

魔法学校で物理の問題なんか解かないでください!

世界観丸潰し!

何言ってんの。

魔法の基本は物理現象でしょ?

ニック、お前はプレートで魔法を使っているのか?

何?

それは大変だ。

板を抜こう。

えっ!

プレート魔法?

そんなの使っていないよ!

自分で覚えた!

確かに、真似だけどさ!

ふん!

大学で学んだのか。

未核質から引っ張り出しているんだな!

素質はあるけど、応用は難しいやつね!

未核質か……。

早く神性以上に行きたい。

アーネちゃん、既核質への転換までには血反吐が出るような道を辿らにゃならんよ。

アーネちゃんならきっと出来るけど、今はまだ理論を叩き込む時期かな。

既核質か……。

どうやって……。

ふふ。

エモだよ。

エモい体験を山程するんだ。

エモ?

キモ。

コイツ……。

やはりニックはクズだ。

エモとは?

それより、ニックは板の乱用を行ってはいないんだな?

恐らく乱用はしていないし、魔法は自分で覚えたのも本当だ。

謎な奴だが、やはり向上心の欠如が見られる。

鞭は必要かもしれない。

えっ!

やだ!

鞭はもういらないよ!

エモね!

エモいことするから!

エモエモ!

いやらしい奴だな。
どっち。

いやらしいのといやしいのと。

両方だろう。
吐き気がするぜ!
五人が談笑しているのを見て、しびれを切らした邪なる存在が突然金切り声を上げた。
あんたたち!

私を無視すんじゃないわよ!

私はガディスゼル!

悪魔よ!

悪魔なんてここにいるのか?

種族としてはいないかも。

このガディスゼルとやらはアーネちゃんから出て来たモノだから、魔族のヒューマノイドを持っていないみたいね。

ヒューマノイドなしで実存可能とは?
……ぼくの超心点で即席でボディを作っただけだけど。
え!

アーネは超心点を持っているのか?

シールックだって持っているじゃん?

アーネも持っていて当然だろ!

魔王だぞ!

超心点……?

ああ、形質再現だな。

ぼくも使えるよ。

??

ケイシツサイゲン??

未核質で超心点を扱っているのか。

不思議な天才肌だな。

これが20次元か。

刮目せよ!

確かに。

この絶妙なバランスは刮目せざるを得ないな。

人の事言えない気がする。

シャリ人間だな。

シャリ人間とは?
プレート記憶のうわっ滑りだよ。

銀シャリみたいなね。

銀シャリがどうしてうわっ滑りになるんだ?
あんた!

ザギンでシースーとか言ってんじゃないわよ!

……?

こいつはまさか。

恐るべき六次元人間なのでは。

なんてものがぼくの中にいたんだ。

銀座でお寿司。

成金ってことだよね。

また極論を。

しかし一般論に近いものでもある。

これはなんだっけ?

はい、アーネちゃん。

Ψ7です。

この認識が大事です。

ザギンでシースーが一般論?

次元観察子Ψ7?

それは外から見た経験?

なんだ、その視点は。

全く思いつきもしなかった。

本当にお前は斜め上だな。

確かに。

ψ7になると感性球からの視点になるから内なるものになるね。

ちなみに、シールックにいさんは銀座でお寿司を食べることをどう思う?

銀座でお寿司を?

高いよね。

食べに行かないよ。

わざわざ銀座でなんて。

高級路線なら六本木だし、普段は回転寿司で十分だ。

回らない寿司なら秋葉原に良いところがある。

なるほど。

お前はプレートの乱用をしない席にいるんだ。

アーネちゃんの視点も斜め上だよね。

席と言うんだ。

位置を通り越して、遥かなる未来の先まで見据えちゃうんだね。

アキバの寿司?

それより新宿の店の方が好きだな。

高架線下の。

ぼくは銀シャリ人間の自覚がある。

細かすぎて伝わらないやつ。
新しい視点が大豊作だね。

素晴らしきメタトロン。

待ってください!

何故みんな、そんなに都内に詳しいんですか!

この世界に無い店について熟知しているなんて!

あ!

私もどうして異世界跳躍出来るんだろう!

もしかして、私は仲間なのかな!

は?

そんなわけないだろう。

こいつはマシンガンで銃殺刑にされる運命にある筈だよ。

どうして……。

穏やかでないね。

そんなものが……あ?

これはテイシツニンゲンというものでは?

ほう。

そう言えばそうだ。

バンハッタソワカだし。

イシュタルが敷いた陣の内容を今更思い出し、四人は納得した。


ニックはガディスゼルに怪訝そうな目を向け、彼女に魔法剣を向ける。

本当に魔族なの?

嫌な気配がしないけど。

悪魔だってば!

あんまり調子に乗ると、ころすぞ。

ぼくを殺せると思う?

なめないでね!

瞬時に二人のチャンバラが始まった。


ガディスゼルは光の刃を、ニックは魔法剣を使って教室の隅で打ち合いが繰り広げられる。

甘い太刀筋だねえ。
確かに、踏み込みがイマイチだ。

あれじゃへっぴり腰だよ。

なんであそこで振り下ろすんだろうな。

二人共下手にも程がある。

やがて二人は剣の打ち合いを辞め、肩で息をしながらお互いを見合った。
やるな、お前!
お前もな!

こんなに楽しんだのは久しぶりだ。

意気投合したニックとガディスゼルは硬い握手を交わし合い、やがて抱擁を行う。


かつて無い程に輝かしい笑顔を見せるニックに、四人は顔を顰めた。

低レベルだねえ。

しかしあれが普通なのかな?

平均よりは上だろうね。

ただ、我らから見ると下劣に見えるかも。

シンラッツだが、その通りだろうな。
剣稽古を付けようにもどこから手を付けてよいものやら。
ニックとガディスゼルは涙を流して出会いを喜び、席に戻っていった。
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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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