11☆ミ

文字数 2,194文字

ニックの隣にガディスゼルが座り、二人は静かに授業を受け始めた。

どうやら二人は懇意の存在になったらしい。


四人は密かに顔を顰めた。

アーネちゃんのテイシツニンゲンとは言え、あれが底とはとても思えない。

もっと色々あるんだろうねえ。

あんなのが底だと思ったら恥ずかしいよ。
ひひ。

ゼルは良い奴だ。

ニックもな。
なんであんなに仲が良いんだ?
授業は退屈なものだった。


魔法理論の初歩的なもので、ファイヤーボールの打ち方、とある。


シールックは難しい顔をして黒板を凝視する。

あれでどうやってファイヤーボールを打てるんだ?

プレート召喚術?

銀を使っていないから、この授業で習うファイヤーボールはハリボテになるね。
銀が無いと火の術が使えないのか。

なるほどね。

ぼくは阿呆ほど火の術が使えるよ。

阿呆ほど?

それは……。

テイシツニンゲンを抜かねばならぬという事か?

どういう事だ?
テイシツからなるΩがシリウスの炎の邪魔をして、銀が扱えない場合もある。

シリウスにはAとBがあるから、どちらかを駆使して炎を出すことになるが……。

私達は当然、シリウスAだよね!
シリウス時空?

入った記憶がないな。

火は扱えないし。

ぼくはBなら完全制覇出来るけど、Aには全く入れなかった!
な、なんだと?

信じられない!

スクナ!

スクナの火術はヤケの炎だったの!?

白炎じゃなくて?

白炎?

爆炎なら使えるよ!

特に怒った時にね!

イシュタルとアーネトルネは信じられないような顔をしてスクナヒコナを見つめ、大きな溜息を吐いて肩を落とした。
道理で物覚えが悪い筈だよ!

スクナはアイヴィだったんだね。

あ、イヴ側の人間!

アダムだったな、こいつは!

何?

アダムだって?

創世記の?

しまったな!

アダムとイヴ、リリスとリリトでシリウスが分離する事を全く分かってなかった!

相容れないのか!

リリスはともかく、リリトとは?

リリスの別称だよな?

リリトはリリスの左腕から生まれた娘だが。

リリスは兎に角、リリの付く娘を大勢産んでいるから紛らわしいよね!

ああ。

おいたは許さんぞ、リリス。

という言葉が自分の中にある。

自分はアダム側の人間なんだ。

な、なんだと?

こいつもシリウスBだったのか!

なるほど。

リリスを追放した張本人か。

シリウスA組とB組に分かれるなんて思いもしなかったね。

不思議な縁だなあ。

何故リリスは追放された?
リリスはアダムが好きだった。

しかし彼女が騎乗位をすると、アダムは激昂してリリスを追放した。

つまり、嫉妬だろうね。

アダムはリリスが偉そうに振る舞うのが許せなかったのさ。

騎乗位とは?
コイツ……。

キャベツから生まれた人間だからこういう話についていけないのか。

兎に角な、リリスはアダムに対して挑発的な振る舞いをしたのさ。

それだけだ。

何故、それだけでアダムはリリスを追放するんだ?

さっぱり分からない。

色々あるんだよ。

男心ってやつさ。

リリスは恨んじゃいないし、リリトは複雑そうにしているけどリリムはまるで怒ってもいない。

リリンは呑気そのものだし。

昔の軋轢なんて忘れるべきよな。

お人好しすぎるよ、イシュタルは!
ぼくはアダム派だよ!

みんなはリリスなの?

寝耳に水だ!

ぼくは独死するだけだ!

創世記の話題が進むに連れて、スクナヒコナは徐々に表情を歪め始める。


やがて、その場で地団駄を踏むように暴れ出した。

……なるほど。

スクナがバカなのはこれが原因か。

これは付ける薬がないね!

正直、ぼくはこのスクナを追放したいくらいなんだ。

アダムとイヴなんだろう?

しかし我慢している。

魔族そのものだね!

リリスの肩を持つなんて!

スクナヒコナは空高くジャンプすると、教室の窓際に飛び乗った。


三人に向けて、大きくアッカンベーをする。

見損なったぞ!

リリス一族の肩を持つな!

ぼくはこれから聖なる一族に転身するから!

さよなら!

スクナ!
イシュタルが追う間もなく、スクナヒコナは窓から大きくダイブする。


あっと思う間に彼は地面に落ちたが、全くの無傷でありそのまま華麗なポーズで着地した。

あれ?

死ねないな!

バカ!

あんたは身体が小さいから高いところから落ちてもダメージが少ないんだよ!

それに魔族なら、聖水を浴びないと死ねないよ!

聖水?!

やだ!

聖水なあ。

聖職者の尿の事だろ?

あのくらいはぼくたちにも簡単に作れそうなものだが?

え?

どうやってつくるの?

聖の字を反転の意識を以て意味を考えながら放尿すればいいんだよ。

シールックにいさんも作れるかもよ?

聖なる心と羞恥心。

これだけ。

??

邪なる心と厚顔無恥?

そうじゃないんだよなあ。

シールックはまだ甘い。

??

厚顔無恥ってなに?

や!

普通に恥知らずって意味だけど。

私はすぐに作れるよ。

浴びるかい?

スクナ!

……まだいいや。

ぼくはいつ死ぬの?

お前は不死身だろう。

何をやっても死なない。

それがお前だ。

やだなあ。

聖水なんて。

何故こんな隠語が……。

四人の話を盗み聞きながら、ニックはノートに授業の内容を書き出しつつ顔を顰めた。


白昼堂々、猥談を交わしている。

彼らと縁を切るべきか?

シャーペンでノートを突付きながら、暫く考え込んだ。

どうした、ニック?

難しそうな顔をして。

いや、ぼくは……。

まあいいか。

このまま泳がせとこ。

ニックのひそひそ話を聞きつけて、イシュタルはニックのパーカーを睨みつける。
あの野郎、私達を金魚みたいに思っているぞ。
何?

ニック?

ほっておこう。

このまま死ぬだろ。

餌は?
アイツはビョーキだ。
退屈な授業は淡々と続いた。
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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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