6☆ミ

文字数 2,238文字

目的のページを凝視しながら、イシュタルとスクナヒコナは真剣に魔道書を読み進めていく。


その間に、シールックとアーネトルネは数学について話し合いをしていた。

Xが横軸。

Yが縦軸。

平面から立体の変換だとどうなる?

ふむ……。

Y軸が高さになると……。

Y軸は縦だが、立体変換するとそのまま上下に動くようになるな。

hか。

正八面体で考えている。

正四面体の組み合わせだよね。

これが大事なんだよね?

ちょっと待て!

四角錐だろう!

お前も三角錐と四角錐の区別が付かない人間なのか!

これは物理と光の話になるらしい。

そして、おれも最近知ったのだが円柱と円錐でも考える必要があるようだ。

二人の会話を聞きつけ、イシュタルはハッとしたように顔を上げた。


すぐに二人の元へと飛んでいく。

すまぬ!

私の説明不足だ!

本当にごめん!

形質とマナの関係性だよ!

分かってないと思ってなかった!

またしても私の独りよがりだったよ!

開かれた書籍の前に座ったまま、スクナヒコナはイシュタルが突如として居なくなった事に気付き、顔を上げた。
分かってないと?

思っていなかった?

なんで?

私は知らないんだよ。

闇のパピヨンとしての、能力を。

ほぼ全知全能でさ!

その自覚がないの!

本当に酷い人だ。

本当に酷い。

それでおれが何度苦しめられたことか。

理論展開出来なくて。

教え方が下手なんだ。

ごめんね。

シールックにいさんを交えて一緒に学ぼう?

良いヒントをたくさんくれるから。

なんか嬉しい。

貶されているようだが。

分かった。

こいつを理詰めにすればいいんだな。

ぼくも!

ぼくのアホがきっと役に立つから!

なんだ。

スクナも急に物分りが良くなったな。

シンラッツだが……人の事は言えないからな。
ちょっと、シールックにいさん!

本気?

下座が出来ているようだな。
これが下座になるの?

ただの自虐じゃない!

下座はともかく、自虐は傷付く。

全く違うよ。

四人がワイワイと騒がしくていると、二階から気配がした。


驚いて四人が居間の扉に目をやると、ニックが不機嫌そうに彼らを見下ろしている。

あの、物凄くうるさいんですけど!

人ん家に来てなんですか!

いい加減にしてください!

起こしちゃった?

ごめんね!

それより魔術で聞きたい事があるんだけど!

イシュタルにも知らない事があるのか?

全知全能とは一体……。

私にだって分からない事はあるよ!

ニックはどうして、自虐風の術を使い続けているのかなって。

人の気持ちは、聞かなきゃ分かんないの。

なるほど。

他人の気持ちは物ではないからね。

……自虐風、のね。

それはぼくが鞭で叩かれないと動けない人間だからです。

苦がないと、前に進めない。

なんてやつだ!

ドMだ!

いや、マゾヒストではないんだけど。

快楽に引っ張られやすいだろう君には分かんないだろうけどね。

ぼくはやることをやるために、敢えて自分の周囲を火の海にする必要があるんだ。

そうしないと動けない。

快楽に引っ張られやすい?

スクナが?

言い得て妙だな。

ニック、そこまで読むとは何者だ。

スクナくんだっけ?

君はウィスキーボンボンに釣られすぎだよ。

もしぼくが毒を仕込んでいたらどうするつもりだったの?

三味線にされる猫みたいに、チョロ過ぎるよ。

え!

毒……?

考えた事もなかった。

既製品っぽくて。

三味線にされる猫なんて、古風な喩えだね。

ニックは策士らしい。

自虐で動く気持ちも分かる。

あんたはまだ、r 領域を拡げたいと。

そう思っているんだね?

あーる領域?

それは分かりませんが、もっと成長したいと思っています。

なんでかな。

焦りがひどくて。

それは……いつもイシュタルが言っているやつだ。

焦っても仕方ない。

気を抜いた風に生きるしかないって。

気を抜いた風に?

まさか、お前いつも緊張感を持って生きていたのか。

知らなかった。

なんだよ!

お前がいつも寝ている時にとっても可愛い事をしてくるから、常に臨戦態勢で……。

寝ている時に木刀で殴りかかられるのが可愛いことなの?

マゾヒストじゃない?

不意打ちを仕掛ける事に喜びを感じるだと?

それじゃ、つまらないな。

今度からくまちゃんの人形をシールックにいさんのベッドに置いておこうね。

オレンジ色の。

そうして寝込みを襲う気持ちがないことを徹底的にアピールしないと。

まさかそんな事になっているとは思わなかった。

うむ。

オレンジ色のくまちゃんな。

いいんじゃないか。

なんだよ!

アーネもオレンジ色のくまちゃんと一緒に寝たいのか?

ぼくが羨ましいっていうのか!

……別に。
なんだか怖い会話をしている……。

ぼくもくまちゃん欲しいけど……。

全く。

なんて奴らだ。

ずっと喋っているぞ。

ニックは呆れながらキッチンへ向かい、茶を煎れる準備を始めた。

ふと食料庫が殆ど空っぽになっている事に気付き、絶叫する。

ちょっと!

確かに食料庫の中の物を食べて良いですとは言ったけど、空っぽになっていますよ!

食べ過ぎです!

少しは遠慮を知ってください!

ごめん。

お腹が空いたから。

ぼくが魔法で元通りに再現させるから。

……あ、いや。

魔法はちょっと……。

お金が欲しいです。

買い物がしたいので。

なるほど。

ドカ買いの趣味があるんだ。

分かった。

ほら、お詫びだよ。

幾らくらいかな?

100万ダラーでいい?

え!

そんなに?

ええ。

構いませんが。

イロ付けすぎ!
相変わらず気前良すぎる。
イシュタルの癖だ。
イシュタルはどこからともなくアタッシュケースを取り出すと、テーブルの上に置いた。


ニックがアタッシュケースを開けると、中には溢れんばかりの山吹色のお菓子が入っており、彼はそれを確認するとしっかりと頷いた。

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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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