2☆ミ

文字数 2,191文字

ニックは自宅に鞄を置くと、採取セットの詰まったバックパックを背負った。


そのまま、自室のど真ん中に大きく書き出してある時空転移の術式の魔法陣の上に乗った。



靴を履き、ニックは音もなく術を発動させる。

やがて光の粒となった彼は、目的地へと瞬時に飛び立った。

ふう。

魔の谷か。

魔族に会えるかな。

岩肌が剥き出しになった足場の悪い道を歩き続けると、ふと小さな影が揺れた気がした。


目を凝らすと、三寸ばかりなる人影があっちへゆらり、こっちへゆらり、と落ち着きなく揺れている。



ニックは眉を顰め、足元にウィスキーボンボンを置いた。


すると、小さな影が瞬時にニックの前に飛び出してきた。

それはとても小さな、一寸ばかりの大きさの少年の姿をした魔族であった。

やった!

ウィスキーボンボンだ!

食べて良い?

貰うね!

コビット族っぽいな。

いいよ。

あげるよ。

きみの名は?

前前前世から、名前はスタアトだよ!

誰にも呼ばれないけどね!

種族はスクナヒコナ!

スクナと呼ばれている。

なるほど。

異世界超越が出来るから龍持ちだな。

紫龍の匂いがする。

もっとボンボンが欲しいかい?

お願い事を聞いてくれる?

ボンボンをくれるなら、なんでも!

酒天童子でもあるからね!

酒ある所にぼくがあり!

あのね。

かみ の場所、知ってる?

えっ!

かみ?

ちょっと待って。

それはアーネに許可を取らないといけない。

ぼくに付いてきて。

訊いてみよう!

スクナヒコナは受け取ったボンボンを一瞬で口に押し込むと、ぴょんぴょんと駆け出した。

ニックはゆるゆると彼の後をついていく。


不思議な魔族だ、と思う。

異世界の情報を巧みに操る不思議な小人。


異世界跳躍と呼ばれるボケテクニックは、龍持ちでないと行う事が出来ない。


そんな事を考えていると、やがて岩肌に隠れるように存在する大変な豪邸に辿り着いた。

なんだ?

とんでもない住処だな。

魔王でも棲んでいるのか?

アーネは魔王だよ!

ぼくは邪神でね!

ぼくは神を名乗らされている。

未熟なんだってさ!

さ!

こっちだよ!

スクナヒコナから誘導に従い、ニックはトボトボと後についていく。



やがて、見事なシャンデリアが輝く大広間に辿り着いた。

な、なんだ?

どこから入った?

どうも。

お邪魔します。

スクナヒコナに案内されて来ました。

スクナ?

全くしょうがないな。

酒で釣ったのか?

ここに来た目的は。

酒で釣りました。

かみの居場所を聞いたら、スクナヒコナが付いてこいというので。

魔王に許可を取らねばならぬということです。

かみ?

それはなんだ?

アーネ!

お客様だぞ!

何?

知らないよ。

イシュタル、頼む。

はい。

何かな?

次々と魔族が現れるのを見て、ニックは少し身構えた。


魔法剣の準備をこっそり行いながら、イシュタルと呼ばれた女性をそっと見る。

彼女は紫の髪を静かに揺らし、ニックを見つめている。

かみの居場所を知りたいんです。

教えてください。

かみ?

チェーンソーで一撃で葬るのかな?

それより、私達は危害を加えないから安心してね。

ティーはいかが?

いらない。

チェーンソーは即死の確率が低過ぎて使う気になれません。

地道に戦うしかないでしょう。

しかし、ぼくの目的はかみの捕獲です。

討伐ではありません。

こいつ、物凄い異世界超越能力だ!

只者ではないぞ!

なんだ?

サタンの一派か?

サタンはぼくの大切な人ですけど……それほど交流があるわけではなく。

ぼくはただの……人間です。

とてもそうとは思えない。

闇のパピヨン並に計り知れない。

闇のビーかもね。

蜂だよ、こいつは。

魔族のヒューマノイドでないというだけで。

蜂……。

蝶のように舞い、蜂のように刺す。

うわ、うわあはあはっ!

またしても、ぼくは!

きみに!

持っていかれた!

ああ!

真理の扉を開いたような事を言ってますね。

鋼のの話は、本来真理の扉に何かを持っていかれる事はありません。

足りない部分の近似部分の防御が低過ぎるので、失うだけです。

エドの場合は左足を持っていかれましたが、左脳が弱いせいです。

彼はヒトとして甘過ぎるんですよ。

えっ?

アルフォンスは?

全身持っていかれたね。

コーザルが足りない上に、バカなのよ。

アルは。

だから全部。

でもエドへの執着が強過ぎて、縁が切れないからああなった。

無理矢理ゴリ押してなんとかするタイプね。

何故ハガレンの話になるんだ?

真理の扉とは?

お前、本当に馬鹿だな。

何を見て聴いて生きているんだ。

シンラッツ!
ロイ・マスタングは視力のみ持っていかれましたが、色蘊の感度が低過ぎるせいです。

リザは彼と一緒になっても幸せにはなれないでしょう。

イズミ師匠は内臓を持っていかれたとあるけど、正確には胃と左腎臓と太腿の筋肉。

お豆腐メンタルの現れね。

お豆腐メンタルとは?

卵豆腐か?

だーりぃってやつね。

お醤油が必要よ。

出汁でいいのでは?
あんた、いいの?

そんな事を言って。

??
本当に馬鹿だな。
何となく会話の中身が分かる自分が怖い。

卵焼きには、醤油だろ?

卵焼き?

何も付けずに。

お前はそういうやつだったのか。

ケチャップだろう。

オムレツにしないでくれる?
不穏な関係性だなあ。

でも大丈夫そうだから不思議だ。

余程次元が高いのだろう。

どうしてこれで高次の存在って分かるの?

ぼくにはさっぱり。

スクナだっけ?

きみはまだまだ足りないね。

ほら、ウィスキーボンボンをあげよう。

あげぽよ!
今時あげぽよなんてね。
これもシンラッツだな。
……。
まるで初めて見知った仲ではないかのように、ニックは彼らと打ち解けていた。
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登場人物紹介

ニック

ヘタレ魔法使い。

パニィ

ニックにちょっかいを出す女の子。

ライム

ニックにラブレターを渡す謎のツンデレ。

シールック

影の人。

アーネトルネ

魔王の人。

イシュタル

闇のパピヨン。

スタアト

コビット族。スクナヒコナ。

スキムルーク

謎の爆美女。

解脱の姿

ガディスゼル

とりつくしまもなし

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