(二十三)Tokyo

文字数 1,021文字

 目を開けると列車は地上に戻っていた。空は夕闇に包まれ外の景色はもう薄暗かった。建物はなく地平線だけが何処までも続いている。列車はレールの上をひたすら走り続けた。
 しばらくして物音に気付いた。空だ。急いで空を見上げると何かが飛んでいる。何だろう?よく見るとそれは戦闘機だった。夕闇の中に無数の戦闘機が飛んでいる。きれいに整列して次から次へと編隊を組んだ戦闘機の集団が現れては空の彼方へと消えていった。一体どれだけの数だったろう。やがて最後の集団が消えると再び静寂が訪れた。しかしそれも束の間突然物凄い爆撃音が始まった。何という轟音。思わず耳を塞いだ。爆撃音が鳴るたび列車は揺れた。
 それからわたしは地平線の彼方に炎を見た。炎は強風に煽られ大きく揺れながら次から次へと広がっていった。列車は地平線へと走り続けた。このままだとあの炎へと飛び込んでしまう。炎は大きく口を開け列車を待ち構えている。どうするのだ?停車しないのか?
「車掌!」
 大声で叫んだが答えはない。ああーー。わたしは手で顔を覆った。列車は炎へと突っ込んだ。熱い。焼けるようだ。一体どうなるのだ?けれど列車は炎の中を走り続けた。ん?大丈夫なのか?わたしは顔から手を離した。

 爆撃音が止み一瞬静けさが訪れた。けれどすぐに炎が大地を焼く音がわたしの耳を捉えた。風が列車の窓を叩いた。と風の中にノイズが聴こえてきた。もしかしてこれは!わたしは待った。するとノイズの中に声が聴こえて来た。やはりラジオの電波だ。声は次第に大きくなった。声は叫んだ。
『B29』
 ん、何だ?何のことだ?
『Tokyo大空襲!アメリカ軍が最大規模の空襲を行いました』
 なに、Tokyo?空襲?
 もしかして、まさか、あれを、あの新型爆弾を?わたしは絶句した。わたしはわたしの体が燃えさかる炎に焼き尽くされる思いがした。声は続けた。
『B29爆撃機による爆撃のため、数万の死者が出た模様です』
 なに、B29爆撃機?B29とは戦闘機の名前か。一瞬あの新型爆弾の名前かと思ったがあの新型爆弾ではなかったのか?再び爆撃音が始まりラジオの声はかき消された。

 列車は炎の中を走り続けた。熱い。そして爆撃音。炎と爆撃音はいつまでも続いた。止めてくれ、もう勘弁してくれ。いつまで続くのか?いつまで続くのだ!わたしは叫びながらシートにうずくまった。耳を押さえそのまま意識を失った。わたしは疲れていたのだろう。わたしは深い眠りに落ちていった。
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