第12話:リーマンショックとその悪影響

文字数 2,107文字

 8月はドイツのNRW・BANKによる支払い停止やフランスのBNPパリバによる3つのファンド凍結などが相次いだ。BNPパリバが「アメリカ証券市場の一部で流動性が消滅したため、一部の資産評価が不可能になった」という声明を出した。すると危機の認識が広まり10月にはイギリスで住宅価格が急落した。

 サププライムローンが下落を続けたがアメリカの大手投資銀行はサププライムローンから作られたCDOの販売を続けた。格付け機関のムーディーズとS&Pは、2007年3月時点でもサブプライムローンの格下げを行わず、格付け機関は倫理的に破綻したと表現された。資産担保証券「ABS」も価格を下げて国際流動性を失った。

 これを担保とする資産担保コマーシャルペーパー「ABCP」の借換発行も困難となった。ABCPを簿外勘定に出していた銀行は、流動性を失ったABCPを保有した。預金債務が膨張したので銀行とFRBは事後的な信用創造に励んだ。そこで生まれた預金通貨は機関投資家によりマネー・マーケット・ファンドやレポ債権に転換された。

 ヨーロッパ系銀行は危機発生に先立つ数年間、100以上のSPVのため直接または間接のスポンサーになっていた。これらのABCPは数千億ドル規模のABSをアメリカ市場で販売した。その流動性が2007年8月に失われると償還のためにヨーロッパ系銀行は在米支店からドル資金を調達した。

 短期金融市場から調達された資金を引き揚げられてシャドー・バンキングは脆弱性を露呈。アメリカを中心として会計基準には時価評価主義が採用されておりサブプライム危機が短期間で拡大する一因となった。時価評価では金融資産の減価は自己資本減少と機関投資家が発行する株式の減価に直結していた。

 そのため、その株式を保有する企業が発行する株式も減価となる。こうして負の連鎖が拡大。サブプライムローン危機は少数の投資家にとっては利益をもたらした。2006年にアメリカでデフォルト率が上昇し始めた。その頃には、CDOの格付けに疑問を持つ者が増えた。そのため、サブプライムローン市場が破綻する方に逆張りをする投資家が出て利益を得た。

 2007年10月1日、日本郵政公社が解散した。その後、日本郵政株式会社を持株会社として郵便事業株式会社、郵便局株式会社、郵便貯金銀行、郵便保険会社、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構が発足した。11月21日、京都大学の山中伸弥教授が人工多能性幹細胞「iPS細胞」の作成に成功したと発表。

 7月16日10時過ぎ、マグニチュード6.8の新潟県中越沖地震が発生。柏崎、長岡、長野県飯綱で震度6の大きな地震で死者15人、負傷者2346人という大きな被害を与えた。この年、団塊世代の大量定年退職がはじまった。2008年が明ると1月、米国で景気後退が始まっていた。

 耐久消費財や自動車の支出下落、大量解雇も銀行危機より早く起きて、しかも大西洋を越えた欧州で影響が出ていた。2008年3月にベアー・スターンズの経営危機が明らかになると、金融危機が世界的に報道され始めた。9月に入り政府支援機関のフレディマックとファニーメイが実質的破綻に陥った。

 9月15日にはリーマン・ブラザーズが連邦倒産法第11章適用を申請し、負債総額6390億ドル「約64兆円」というアメリカ史上最高額の経営破綻を起こした。さらにバンク・オブ・アメリカによるメリルリンチの買収、保険会社アメリカン・インターナショナル・グループの国有化など金融機関の再編が進んだ。

 9月のショックで、リーマンの決済銀行であるJPモルガン・チェース、シティグループ、バンク・オブ・アメリカはレポ債権の追加担保を要求したが、貸付が打ち切られ倒産した。リーマン・ショックはリーマン債を保有していたMMFを元本割れさせた。9月19日、MMF保険創設のため連邦政府が為替安定基金から最大で5百億ドルを取り崩す方針が公表された。

 リーマン以外の清算ケースでもCDS「企業の債務不履行に伴うリスクを対象にした金融派生商品」は同様の状態でありCDSの売り手となっていた金融持株会社、投資銀行、保険会社、ヘッジファンドは、短期金融市場からの資金調達を金利の急騰に阻まれた。欧州系銀行もドル建て流動性資金について同じ境遇で新興国経済から資金を引き揚げた。

 この資金引き揚げにより中欧・東欧・南欧にも金融危機が波及。2008年の第2四半期から2009年第1四半期には世界の資本移動の90%が消滅し、富裕国の資本移動は17兆ドルから1.5兆ドルへと減少。2009年第2四半期はIMFにGDP統計を提出している60カ国のうち52カ国でGDP「国内総生産」が縮小した。

 サプライチェーンが同期してるために米国や欧州の需要減少は各国に波及しWHOが統計を取る104カ国の全てで輸出入が減少した。世界の原油価格は76%下がり産油国で財政赤字が続出した。各国政府が金融機関を支援した主な方法には4通り。1:銀行への貸付、2:銀行の資本増強、3:資産買い入れ、4:銀行のバランスシートに対する国家の保証だった。
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