第4話 妹
文字数 1,527文字
後日、リオンさんは急に週末の予定を進めだした。どこで待ち合わせしたらよいのか、いつにするのか。
『約束したでしょ?』と、すっとぼけていたが、絶対に初耳だった。
つまり、僕を犬扱いする最新の手段なのだ。
そうはいかない。僕は紳士なのだから。
『僕の友達に見つからない場所の方が良いですか?』
うれしい! うれしい!
リオンさんはイラストだけの返信で喜びを伝えてきてくれた。
僕は最寄り駅からほんの少しだけ裏道に入った所にある、リオンさんの好きそうなカフェをリサーチしてあった。こんなことをやるからワンちゃん扱いされている気分になってしまうんだ。
結果として、僕はリオンさんの喜ぶ姿を見ることはできず、カフェに入ることもできなかった。彼女は急に体調不良で寝込んでしまったためだ。
「まあ、あの人は器用なのか、不器用なのかよくわからないところがあって」と言ったのは妹のセラさんだった。
僕はショックのあまりに先走りし過ぎている。少し落ち着いて情報を整理しないといけない。
電車の改札口で、待ち合わせの場所に現れたのは、僕が何回もシュミレートした相手ではなかった。細身でショートボブが良く似合って、指が長くて控え目なピアスとネックレスをしていて、えくぼと笑い皺のある彼女ではなく、ポニーテールで緑色のジャケットにダメージジーンズを履きこなした軽快な印象の、知らない女性だった。知らない女性は首の長さだけ彼女に似ている、彼女の妹だった。
僕はリオンさんの体調不良をメールで知らされていた。信じないわけにはいかなかった。愛犬でも、紳士でも、愛犬紳士でもなんでもいいので、信じる一択だった。
『妹が待ち合わせの時間に伺うので、相手をしてやってほしい』と言われたとき、何と答えて良いのか分からなかった。ドタキャンした相手に代役を立てなきゃいけない決まりでもできたのだろうか、もしかして僕は、体よくあしらわれているのだろうか、だとしたら、まだワンちゃんの方がましじゃないか。心のジメジメして晴れなかったが、こんな時、レディー・ギャラガーなら……
僕は妹さんを笑顔で迎えた。
妹さんは僕の存在を確認するなり、
「喫煙所、どこ?」と聞いて来た。僕は案内した。
僕は彼女がタバコを吸っている間に、彼女と会えたことをリオンさんのスマホに知らせたが、返事はなかった。
「姉さん、残念がってたよ。あたしはそれを伝えに来ただけ」
タバコを吸い終えた妹さんはそう言った。「おまたせ」
「新しくできた年下の友達が呆れたり、不安にならないように、そう伝えて来てって。姉さんはそういう奴」
妹さんは僕の顔を見て笑った。「にしても若すぎだろ」
行こうぜ、と、僕は最寄りのハンバーガーショップに連れていかれた。
ハンバーガーショップの店頭の洗練されたフォルムはどことなく現代の自動車の構造に似ている気がした。配管も、鉄骨も、配線も、機能性を帯びた描線はどこにもなく、すべてが非鉄金属や強化プラスチックの表皮 によって巧妙に隠されていた。カウンターでは様々な電子音が様々な場所からスタッフを呼んでいて、彼らは時給労働とは思えないほどのキビキビとした働きをして機械類を次々に黙らせた。そして彼らは実にはきはきした喋り方をした。大きく平べったいディスプレイには誰も見ていない広告映像が垂れ流しにされている。
妹さんが何を注文したのか分からなかったが、単品でコーヒーだけを頼んだ僕の方が先だった。シンプルなテーブルと硬い椅子の席で待っていたら、トレイにハンバーガーの包みとナゲットのケース、ドリンクの紙コップを乗せて妹さんは歩いて来た。
「コーヒーだけで平気か? もしかして金欠?」
僕は首を振って質問を半分けむに巻いた。
『約束したでしょ?』と、すっとぼけていたが、絶対に初耳だった。
つまり、僕を犬扱いする最新の手段なのだ。
そうはいかない。僕は紳士なのだから。
『僕の友達に見つからない場所の方が良いですか?』
うれしい! うれしい!
リオンさんはイラストだけの返信で喜びを伝えてきてくれた。
僕は最寄り駅からほんの少しだけ裏道に入った所にある、リオンさんの好きそうなカフェをリサーチしてあった。こんなことをやるからワンちゃん扱いされている気分になってしまうんだ。
結果として、僕はリオンさんの喜ぶ姿を見ることはできず、カフェに入ることもできなかった。彼女は急に体調不良で寝込んでしまったためだ。
「まあ、あの人は器用なのか、不器用なのかよくわからないところがあって」と言ったのは妹のセラさんだった。
僕はショックのあまりに先走りし過ぎている。少し落ち着いて情報を整理しないといけない。
電車の改札口で、待ち合わせの場所に現れたのは、僕が何回もシュミレートした相手ではなかった。細身でショートボブが良く似合って、指が長くて控え目なピアスとネックレスをしていて、えくぼと笑い皺のある彼女ではなく、ポニーテールで緑色のジャケットにダメージジーンズを履きこなした軽快な印象の、知らない女性だった。知らない女性は首の長さだけ彼女に似ている、彼女の妹だった。
僕はリオンさんの体調不良をメールで知らされていた。信じないわけにはいかなかった。愛犬でも、紳士でも、愛犬紳士でもなんでもいいので、信じる一択だった。
『妹が待ち合わせの時間に伺うので、相手をしてやってほしい』と言われたとき、何と答えて良いのか分からなかった。ドタキャンした相手に代役を立てなきゃいけない決まりでもできたのだろうか、もしかして僕は、体よくあしらわれているのだろうか、だとしたら、まだワンちゃんの方がましじゃないか。心のジメジメして晴れなかったが、こんな時、レディー・ギャラガーなら……
僕は妹さんを笑顔で迎えた。
妹さんは僕の存在を確認するなり、
「喫煙所、どこ?」と聞いて来た。僕は案内した。
僕は彼女がタバコを吸っている間に、彼女と会えたことをリオンさんのスマホに知らせたが、返事はなかった。
「姉さん、残念がってたよ。あたしはそれを伝えに来ただけ」
タバコを吸い終えた妹さんはそう言った。「おまたせ」
「新しくできた年下の友達が呆れたり、不安にならないように、そう伝えて来てって。姉さんはそういう奴」
妹さんは僕の顔を見て笑った。「にしても若すぎだろ」
行こうぜ、と、僕は最寄りのハンバーガーショップに連れていかれた。
ハンバーガーショップの店頭の洗練されたフォルムはどことなく現代の自動車の構造に似ている気がした。配管も、鉄骨も、配線も、機能性を帯びた描線はどこにもなく、すべてが非鉄金属や強化プラスチックの
妹さんが何を注文したのか分からなかったが、単品でコーヒーだけを頼んだ僕の方が先だった。シンプルなテーブルと硬い椅子の席で待っていたら、トレイにハンバーガーの包みとナゲットのケース、ドリンクの紙コップを乗せて妹さんは歩いて来た。
「コーヒーだけで平気か? もしかして金欠?」
僕は首を振って質問を半分けむに巻いた。