第1話 レディ・ギャラガー
文字数 1,049文字
『クリスタルアイズ』の登場人物である『レディー・ギャラガー』が一発の銃弾に倒れた時、僕はあまりの出来事にSNSで大騒ぎしてしまったのだが、『クリスタルアイズ』は月間『ヤングホーネット』というマイナーレディースコミック雑誌に連載している漫画で、その上『レディー・ギャラガー』は主人公を導くちょい役(おそらく早期で退場するんだろうなと察せられるほどの役)だったため、フォロアーからは生暖かい空気の中で無視されたのだった。
僕は荒れた。
荒れて、豚骨ラーメンを食べた。ずるずると。
すると、スマホが軽く振動し、緑色のランプで通知を出した。電源を入れてみるとSNSに鍵付きのアカウントからリプライが来ていた。珍しい。
『心中察するに余りあります』と。
僕はそれがSNSでもらった最も丁寧な同情の言葉だったので、嬉しくなってオタク特有の長文を返信してしまったのだ。
『レディー・ギャラガーは吉岡先生の集大成となってもおかしくなかったところを、過去のエピソードを匂わせるだけ匂わせていおいて、惜しげもなく退場させたことは画期的ではあるものの、エピソードの挿入はどちらかというと作家の恣意性のみを強調してしまうため、吉岡先生は『吉岡先生』というキャラクターとして現前し……』うんぬんかんぬん。
鍵付きの相手からは、
『吉岡先生の描くキャラクターは背景から設定が緻密で、一見かみ合わない会話文に思えて、先の展開を把握したのちに読み返してみると当時のキャラクターの心情をつぶさに拾い上げていることが分かり、かみ合わない会話こそがキャラクターを立体的に立ち上げるための儀式として作用していて……』うんぬんかんぬん。
びっくりした。
同じような人間がいるものだ。
僕はそれでもDMを送ることをためらった。あまりネットの交友関係の広げ方に慣れていなくて、メッセンジャーに招待したり、されたりすることも好きではなかった。勇気を振り絞れたのは孤独感が背中を押したからだ。『クリスタルアイズ』を読んでいる知り合いは学校に一人もいなかった。
鍵付きの相手は快く承諾してくれて、一歩だけ身近になったやり取りが始まった。まだ書き文字レベルの交流で、お互い『ふゆモブ』さんと『れんげ』さんというハンドル呼びだった。
そして次の月、レディー・ギャラガーはそのまま帰らぬキャラとなった。
『れんげ』さんはスマホの向こう側ですすり泣きをしていた。
僕たちが手の届かない距離にいるなんてだめだ。そう思った。
僕は『れんげ』さんに会いに電車に乗った。
僕は荒れた。
荒れて、豚骨ラーメンを食べた。ずるずると。
すると、スマホが軽く振動し、緑色のランプで通知を出した。電源を入れてみるとSNSに鍵付きのアカウントからリプライが来ていた。珍しい。
『心中察するに余りあります』と。
僕はそれがSNSでもらった最も丁寧な同情の言葉だったので、嬉しくなってオタク特有の長文を返信してしまったのだ。
『レディー・ギャラガーは吉岡先生の集大成となってもおかしくなかったところを、過去のエピソードを匂わせるだけ匂わせていおいて、惜しげもなく退場させたことは画期的ではあるものの、エピソードの挿入はどちらかというと作家の恣意性のみを強調してしまうため、吉岡先生は『吉岡先生』というキャラクターとして現前し……』うんぬんかんぬん。
鍵付きの相手からは、
『吉岡先生の描くキャラクターは背景から設定が緻密で、一見かみ合わない会話文に思えて、先の展開を把握したのちに読み返してみると当時のキャラクターの心情をつぶさに拾い上げていることが分かり、かみ合わない会話こそがキャラクターを立体的に立ち上げるための儀式として作用していて……』うんぬんかんぬん。
びっくりした。
同じような人間がいるものだ。
僕はそれでもDMを送ることをためらった。あまりネットの交友関係の広げ方に慣れていなくて、メッセンジャーに招待したり、されたりすることも好きではなかった。勇気を振り絞れたのは孤独感が背中を押したからだ。『クリスタルアイズ』を読んでいる知り合いは学校に一人もいなかった。
鍵付きの相手は快く承諾してくれて、一歩だけ身近になったやり取りが始まった。まだ書き文字レベルの交流で、お互い『ふゆモブ』さんと『れんげ』さんというハンドル呼びだった。
そして次の月、レディー・ギャラガーはそのまま帰らぬキャラとなった。
『れんげ』さんはスマホの向こう側ですすり泣きをしていた。
僕たちが手の届かない距離にいるなんてだめだ。そう思った。
僕は『れんげ』さんに会いに電車に乗った。