ロード・ムービー
文字数 1,973文字
暗い部屋にモニタの明かりだけがある。
それに照らされた雄一の顔。
目はモニタを睨み唇を噛んでいる。
雄一「また落選か……」
つぶやき立ち上がる。
足音、４歩。
冷蔵庫の扉が開き、雄一のシルエット。
雄一、２Ｌのペットボトルを取り出す。
足音、４歩。
モニタの前に座る雄一。
キャップを取りごくごく飲む。
モニタには『函館ヤングシナリオ賞』の受賞者の写真。
＊＊＊
『白樺芸術工科大学』の看板、夕方。
ナップザックを肩にかけ校門へ向かい歩いてくる雄一。
浩樹「せんぱーい」
雄一、振り返る。
走ってくる浩樹。
浩樹「先輩もしかして帰っちゃうんですか？」
雄一「ああ。今日バイトなんだよ」
雄一、浩樹と目をあわせない。
浩樹、雄一の進路を阻むように移動する。
浩樹「そう言って先輩、休んでばっかじゃないすか。卒業制作のフィルムもまだでしょ？」
雄一、浩樹を押しのけるようにして歩き出す。
浩樹「ちょっと、先輩……」
浩樹、雄一の背中に手を伸ばす。
雄一「今日、休むってツカサに言っといて」
地面を見たまま立ち去る雄一。
溜め息をつく浩樹。
＊＊＊
『映画研究倶楽部』の看板。
扉が開く。
室内に浩樹が入ってくる。
浩樹「おつかれーっす」
武田「ういー」
麻雀宅を囲む４人の男子学生、武田、森口、河井、末田。
武田、咥えたばこのまま喋る。
武田「また振られたんか」
浩樹「なんか、バイトらしっす」
浩樹、パイプ椅子に後ろ前に座る。
暗幕が開き、ツカサが顔をのぞかせる。
ツカサ「またぁ！？ ひろ、あんた舐められてるんじゃない？」
浩樹、ツカサを振り返り口をとがらせる。
浩樹「じゃあ、ツカサ先輩が呼びに行けばいいじゃないすか。なんで毎回俺に行かすんすか」
ツカサ、一瞬ひるみ暗幕の中に戻る。
ツカサ「私は忙しいの！」
浩樹「へぇ～」
浩樹、興味なさそうに麻雀に目をやる。
＊＊＊
大学構内、昼。
ナップザックを肩に歩いてくる雄一。
追いかけてくるツカサ。
ツカサ「待ちなさいよ！ 卒業制作どうするのよ！ もうクランクインしなきゃ間に合わないのよ！？」
雄一「俺はいいからお前らだけでやれよ。俺は抜ける」
ツカサ「そんなこと……。監督はあんたじゃない！」
雄一、ツカサから目をそらす。
雄一「監督くらい、お前がやればいいだろ」
ツカサ、声をつまらせ両手を握り震わせる。
＊＊＊
雄一の部屋、夜。
雄一、暗い中で膝を抱き、ホームビデオを見ている。
揺れる画面の中、雄一の父が笑っている。
父「すごいぞ、雄一！ 未来の大監督だ！」
スピーカから明るい笑い声。
雄一、涙を拭く。
＊＊＊
雄一の実家、昼。
父の遺影に手をあわせる母。
仏壇に小包、宛名は雄一。
＊＊＊
雄一のアパートの部屋前、昼。
ポストに小包が入っている。
手にとり首をかしげる雄一。
雄一の部屋、昼。
包みを開ける雄一。
中からカチンコが出てくる。
父の手紙を手にとる雄一。
父モノローグ「雄一、これが最期のプレゼントになるだろう。なあ雄一。このカチンコを使うたび、思い出してくれ。お前が見るカメラの向こうの世界を、俺も見てるんだってことを。お前が大監督になるのを、ずっと待ってるよ」
手紙を握りしめ顔を伏せる雄一。
＊＊＊
映研部室、昼。
扉が開き、雄一が入ってくる。
ツカサ、浩樹、末田がミーティングをしている。
しんとなった部室、雄一に視線が集まる。
ツカサ「……なにしにきたの？」
雄一、９０度に腰を折り、頭を下げる。
雄一「もう一度、やらせてほしい」
ツカサ「負け犬に監督はまかせられない」
雄一、顔を上げ、ツカサを強く見つめる。
雄一「俺は負け犬だ。負け犬だから吠えまくりたいんだ。吠えたいことがあるんだ！」
ツカサ、握りこぶしで雄一の肩を軽くつく。
ツカサ「……おそいぞ、負け犬」
雄一、複雑な表情。
ツカサ笑顔。
ツカサ「おかえり、監督」
＊＊＊
撮影場所、昼。
小麦畑の中、真っすぐな道の途中に遊牧民のような衣装を着たツカサが立っている。
衣装担当の女子がツカサの髪を整える。
ツカサ、カメラの向こうの雄一を強い視線で見る。
カメラからの映像。
東欧あたりの景色に見える風景。その中にツカサ。
カメラの前に差し出されるカチンコ。
雄一「よーい」
カチンコが開く。
雄一「スタート！」
カチンコが鳴らされ画面外に消える。
駆けだすツカサ。
ツカサを追うカメラ。
パン・アップ。
まぶしい太陽。
それに照らされた雄一の顔。
目はモニタを睨み唇を噛んでいる。
雄一「また落選か……」
つぶやき立ち上がる。
足音、４歩。
冷蔵庫の扉が開き、雄一のシルエット。
雄一、２Ｌのペットボトルを取り出す。
足音、４歩。
モニタの前に座る雄一。
キャップを取りごくごく飲む。
モニタには『函館ヤングシナリオ賞』の受賞者の写真。
＊＊＊
『白樺芸術工科大学』の看板、夕方。
ナップザックを肩にかけ校門へ向かい歩いてくる雄一。
浩樹「せんぱーい」
雄一、振り返る。
走ってくる浩樹。
浩樹「先輩もしかして帰っちゃうんですか？」
雄一「ああ。今日バイトなんだよ」
雄一、浩樹と目をあわせない。
浩樹、雄一の進路を阻むように移動する。
浩樹「そう言って先輩、休んでばっかじゃないすか。卒業制作のフィルムもまだでしょ？」
雄一、浩樹を押しのけるようにして歩き出す。
浩樹「ちょっと、先輩……」
浩樹、雄一の背中に手を伸ばす。
雄一「今日、休むってツカサに言っといて」
地面を見たまま立ち去る雄一。
溜め息をつく浩樹。
＊＊＊
『映画研究倶楽部』の看板。
扉が開く。
室内に浩樹が入ってくる。
浩樹「おつかれーっす」
武田「ういー」
麻雀宅を囲む４人の男子学生、武田、森口、河井、末田。
武田、咥えたばこのまま喋る。
武田「また振られたんか」
浩樹「なんか、バイトらしっす」
浩樹、パイプ椅子に後ろ前に座る。
暗幕が開き、ツカサが顔をのぞかせる。
ツカサ「またぁ！？ ひろ、あんた舐められてるんじゃない？」
浩樹、ツカサを振り返り口をとがらせる。
浩樹「じゃあ、ツカサ先輩が呼びに行けばいいじゃないすか。なんで毎回俺に行かすんすか」
ツカサ、一瞬ひるみ暗幕の中に戻る。
ツカサ「私は忙しいの！」
浩樹「へぇ～」
浩樹、興味なさそうに麻雀に目をやる。
＊＊＊
大学構内、昼。
ナップザックを肩に歩いてくる雄一。
追いかけてくるツカサ。
ツカサ「待ちなさいよ！ 卒業制作どうするのよ！ もうクランクインしなきゃ間に合わないのよ！？」
雄一「俺はいいからお前らだけでやれよ。俺は抜ける」
ツカサ「そんなこと……。監督はあんたじゃない！」
雄一、ツカサから目をそらす。
雄一「監督くらい、お前がやればいいだろ」
ツカサ、声をつまらせ両手を握り震わせる。
＊＊＊
雄一の部屋、夜。
雄一、暗い中で膝を抱き、ホームビデオを見ている。
揺れる画面の中、雄一の父が笑っている。
父「すごいぞ、雄一！ 未来の大監督だ！」
スピーカから明るい笑い声。
雄一、涙を拭く。
＊＊＊
雄一の実家、昼。
父の遺影に手をあわせる母。
仏壇に小包、宛名は雄一。
＊＊＊
雄一のアパートの部屋前、昼。
ポストに小包が入っている。
手にとり首をかしげる雄一。
雄一の部屋、昼。
包みを開ける雄一。
中からカチンコが出てくる。
父の手紙を手にとる雄一。
父モノローグ「雄一、これが最期のプレゼントになるだろう。なあ雄一。このカチンコを使うたび、思い出してくれ。お前が見るカメラの向こうの世界を、俺も見てるんだってことを。お前が大監督になるのを、ずっと待ってるよ」
手紙を握りしめ顔を伏せる雄一。
＊＊＊
映研部室、昼。
扉が開き、雄一が入ってくる。
ツカサ、浩樹、末田がミーティングをしている。
しんとなった部室、雄一に視線が集まる。
ツカサ「……なにしにきたの？」
雄一、９０度に腰を折り、頭を下げる。
雄一「もう一度、やらせてほしい」
ツカサ「負け犬に監督はまかせられない」
雄一、顔を上げ、ツカサを強く見つめる。
雄一「俺は負け犬だ。負け犬だから吠えまくりたいんだ。吠えたいことがあるんだ！」
ツカサ、握りこぶしで雄一の肩を軽くつく。
ツカサ「……おそいぞ、負け犬」
雄一、複雑な表情。
ツカサ笑顔。
ツカサ「おかえり、監督」
＊＊＊
撮影場所、昼。
小麦畑の中、真っすぐな道の途中に遊牧民のような衣装を着たツカサが立っている。
衣装担当の女子がツカサの髪を整える。
ツカサ、カメラの向こうの雄一を強い視線で見る。
カメラからの映像。
東欧あたりの景色に見える風景。その中にツカサ。
カメラの前に差し出されるカチンコ。
雄一「よーい」
カチンコが開く。
雄一「スタート！」
カチンコが鳴らされ画面外に消える。
駆けだすツカサ。
ツカサを追うカメラ。
パン・アップ。
まぶしい太陽。
