アドヴェントカレンダー5・13月のカレンダーのはなし

文字数 1,797文字

黒猫のミイを抱いて、メアリーはすやすやと眠っています。
ですが、ミイは眠ることができずにいました。

ミイは先月、メアリーに拾われました。メアリーはずっと猫を飼いたいと思っていたので、大喜びでした。
ミイとであえた幸運を神様に感謝しました。

ですが、ミイとであったのは、本当は偶然ではないのです。
ミイは死に神でした。

幼いメアリーが怖がることなく天国へ行けるようにと、猫の姿になって迎えにきたのでした。

ミイは、すぐにメアリーの魂を連れていくつもりでした。
メアリーも、お医者さんに言われて、命が長くないことは知っていました。
長くもっても1月を迎えることはできないと知っていました。

ですが、雨のなか、傘を放り投げるようにして泥だらけのミイを抱き上げたメアリーの顔。
初めて知った、生きているものの力強さ。
抱き締める腕の暖かさ。

その泣きそうな、でも嬉しそうな、とても優しい顔を見ると、ミイはただの黒猫のように大人しくなってしまいました。

「あなた、うちの子になる?」

そう聞かれて、ミイは「にゃーお」と鳴いたのでした。

何日も、ミイはメアリーと穏やかに暮らしました。
ですが、メアリーの命は尽きようとしています。命が消える前に神様のもとへ連れていかなければ、メアリーはこの世から消えてしまいます。

ですが、ミイはどうしてもメアリーの魂を肉体から離すことができません。
暖かなメアリーの腕から抜け出せません。

ある日、神様の声がしました。
メアリーの命は12月が終わると同時に消えてしまうというのです。

ミイは眠っているメアリーの顔を、じっと見つめました。
頬をぺろりと舐めました。
メアリーはくすぐったそうに笑って、寝返りをうちました。

寝室が闇に包まれました。
その中心にいるのはミイでした。
でも、ミイはもう、猫の姿ではありません。
黒い衣で身を隠した、恐ろしい死に神の姿に戻っていました。

ミイは大きな鎌を振り上げて、素早く振り下ろしました。
音もなく、死に神の鎌はメアリーの魂と肉体の結び付きを切りました。

メアリーの魂はふわりと光って、神様の国へと旅立ちました。
あとに残ったのは、力が抜けたメアリーの死体と、俯き動かないミイだけでした。

ミイは死に神の仕事ができなくなりました。
鎌を振り上げようとしても、力が入らないのです。
神様は他の死に神に、ミイの分の仕事も頼みました。

死に神たちは、働かないミイを嫌いました。
みんな、できることなら命は取りたくないのです。
ミイはみんなに仕事を押し付けるのがつらくて仕方ありません。
なんとか鎌を振り上げようとしますが、だめでした。

ミイは、自分の鎌を自分の魂に向けました。
力が入らず、鎌は重いです。でも、ミイは手を止めません。

『12月が終わった』

声に振り返ると、見たことのない死に神が立っていました。
自分の魂を取ってくれるのかと、ミイは死に神を見つめました。

『13月が始まるよ』

死に神は、一枚のカレンダーをミイに渡しました。
存在するはずのない、13月のカレンダーです。

『魂は死なない。また、始まるのだから』

そんなことはミイも知っています。
ですが、メアリーの魂は生きていても、メアリーの体は死んでしまったのです。
メアリーは、冷たくなって死んでしまったのです。

ミイは13月のカレンダーを見つめているうちに、ぶるぶると震えていました。
両手で強くカレンダーを握りました。

『どうしてこんなことをするの』

ミイが尋ねると、見たことのない死に神は黙って去っていきました。

なみだがポツリとカレンダーに落ちました。
ミイは泣いていました。
なみだはカレンダーの文字のインクを滲ませました。

ハッと、ミイはカレンダーを見つめました。
この字に見覚えがありました。
メアリーの字です。

ミイは死に神が去っていったほうへ走りました。
ですが、見つけることはできませんでした。
死に神がどうやってカレンダーを手に入れたのか、知ることはできませんでした。
ミイは13月のカレンダーを大切にしまいました。

それから、ミイは13月の終わりまで、必死に働きました。
たくさんの命が神様の国へと旅立ちました。
その魂のぶんだけ、ミイはカレンダーを作りました。

14月の、15月の、16月のカレンダーを作りました。
魂の数だけ、カレンダーは増えました。
死に神たちは、みんなカレンダーを作るようになりました。
そのカレンダーに終わりはありません。
魂の安息を願う死に神たちがいる限り。
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