第6話 モスクワ講和条約

文字数 3,758文字

カレリアはスオミ人の心のふるさとである。
国民的な叙事詩「カレワラ」は19世紀半ばにカレリア各地に残っていたフィン人の伝承や歌謡をもとにエリアス・リョンロートによって編まれた。
作曲家ジャン・シベリウスの交響詩「フィンランディア」もカレリアの原風景からその着想を得た。
シベリウスの作品には、劇付随音楽及びそれから派生した序曲・組曲として「カレリア」を題名に持つ作品もある。

そのカレリアの多くが、冬戦争のモスクワ講和条約の結果ロシアのものとなり、40万を超えるカレリアの人々は、慣れ親しんだ故郷を避難民として去らなければならなかった。

カレリア人たちは馬車で大切なものを集め、家から避難の旅に出発した。最初の避難場所はたいてい小学校で、そこに集団宿泊設備が作られた。
ちなみにスオミのマンネルヘイム元帥の本部は、ミッケリという都市の小学校に置かれた。小学校が本部なんてフィンランドらしい。その小学校の向かいにはロッキ(カモメ)通信センターがあり、本部の命令を前線に送っていた。小さくて清潔な可愛らしい都市であった。

戦火を避けて、スオミから遠くスウェーデンやデンマークに送られたスオミの子どもたちもいた。

戦後、子どもたちの大部分はスオミに戻ったが、1万5,000人もの子どもは新しい両親の元に留まった。

戻った子どもたちの一部はフィンランド語や両親を忘れかけていた。戦時下の子どもたちの何人かは、後になり大人になっても、自分たちが安全でないと感じていると語った。戦争中に親と離れ離れになったためだ。


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地図を見ると、サッキヤルヴィはロシアに奪われたカレリアに含まれる。
アコーディオンの音色に乗せて、スオミの人々は失われたサッキヤルヴィに思いを馳せ、歌い、踊る。
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サッキヤルヴェン・ポルッカ
Säkkijärven Polkka
フィンランド民謡/ロシアに奪われたサッキヤルヴィの魂

世界の民謡・童謡
https://www.worldfolksong.com/より転載

On kauniina muistona Karjalan maa,
mutta vieläkin syömmestä soinnahtaa,
kun soittajan sormista kuulla saa,
Säkkijärven polkkaa!

美しい思い出の地 カレリアよ
今でも心から湧き上がる
奏者が爪弾く サッキヤルヴェン・ポルカ!

Se polkka taas menneitä mieleen tuo
ja se outoa kaipuuta rintaan luo.
Hei, soittaja, haitarin soida suo
Säkkijärven polkkaa!

ポルカで昔を思い出す
不思議な追憶が胸を刺す
アコーディオンを奏でれば
サッキヤルヴェン・ポルカ!

Nuoren ja vanhan se tanssiin vie,
ei sille polkalle vertaa lie!
Sen kanssa on vaikka mierontie
Säkkijärven polkkaa!

老いも若きも踊りだす
ポルカに勝るものはなし
放浪者になってもかまわない
サッキヤルヴェン・ポルカ!

Siinä on liplatus laineitten,
siinä on huojunta honkien.
Karjala soi - kaikki tietää sen -
Säkkijärven polkkaa!

そこでは湖にも波がたち
松の梢も騒ぎ出す
カレリアが唄いだす 誰もが知ってる
サッキヤルヴェン・ポルカ!

Tule, tule tyttö, nyt kanssani tanssiin,
kun polkka niin herkästi helkähtää.
Hoi! Hepo surkoon ja hammasta purkoon,
kun sillä on ihmeesti suurempi pää!

おいで娘よ 私と踊ろう
優しく響くポルカの音色
ホイ! 馬は嘆いて歯軋りしてる
だって頭でっかちだから!

Tule, tule, tyttö, nyt kanssani tanssiin
kun meillä on riemu ja suvinen sää!
Säkkijärvi se meiltä on pois,
mutta jäi toki sentään polkka!

おいで娘よ 俺と踊ろう
夏の夜の喜びを楽しもう
サッキヤルヴィは失われても
ポルカは残されたのだから!

Kun rakkaimmat rannat on jääneet taa,
niin vieraissa kulkija lohdun saa, kun
kuuntelee soittoa kaihoisaa:
Säkkijärven polkkaa!

失われた懐かしい湖岸
流浪の身でも慰められる
追憶の調べが聞こえれば
サッキヤルヴェン・ポルカ!

Se polkka on vain, mutta sellainen,
että tielle se johtavi muistojen.
On sointuna Karjalan kaunoisen:
Säkkijärven polkka!

それは単なるポルカじゃなくて
良き追憶へと続く道
美しきカレリアの調べ
サッキヤルヴェン・ポルカ!

Tule, tule tyttö, nyt kanssani tanssiin,
kun polkka niin herkästi helkähtää.
Hoi! Hepo surkoon ja hammasta purkoon,
kun sillä on ihmeesti suurempi pää!

おいで娘よ 私と踊ろう
優しく響くポルカの音色
ホイ! 馬は嘆いて歯軋りしてる
だって頭でっかちだから!

Tule, tule, tyttö, nyt kanssani tanssiin
kun meillä on riemu ja suvinen sää!
Säkkijärvi se meiltä on pois,
mutta jäi toki sentään polkka!

おいで娘よ 俺と踊ろう
夏の夜の喜びを楽しもう
サッキヤルヴィは失われても
ポルカは残されたのだから!

オウルで撮られた2022年に60周年を迎えた映画(1962年11月2日オウルで初公開)『少年たち(POJAT:ポャット)』を、昔北欧映画祭で見た。




北の都市オウルの継続戦争中の話だが、ドイツ人にビールを売ったりして儲ける悪ガキ五人組少年たちの一人の母親が、ドイツ人将校を恋人にする(写真)。

あろうことか、この母親は少年を捨てて、ドイツ将校と共にベルリンへ行ってしまう。

「母さん、僕を捨てないで!」
と鉄道でのラストの少年の叫び声が今でも耳について離れない。
二人はベルリンへ行った。母親の運命は推して知るべしである。

1940年末からドイツ軍部隊がスオミ領内にみられるようになると、スオミ国内では、次の戦争は、冬戦争のような孤立無援で戦うのではなく、軍事強国ドイツが共に戦ってくれるということで期待が膨らんだ。

スオミには、ドイツに留学して訓練を受けたエリート歩兵 猟兵(ヤーカリ)もいて、ドイツとの関係は深かった。

また、1942年6月4日にヒトラーはマンネルヘイム元帥の75歳の誕生日を祝うためスオミのイマトラに来た。

リュティ大統領が大統領声明という形で対ソ戦の継続をヒトラーに約束し、ソ連との和平交渉は打ち切り、リュティ大統領が辞任してマンネルヘイムが大統領になってから、ソ連と和平交渉を行った。

ドイツに留学してドイツ風の軍服を身につけ、オウルの街を行進するスオミ人の猟兵(ヤーカリ)たちを、スヴェンと僚友は白い建物に身をもたせかけて眺めていた。

「いやー、ドイツに留学してたスオミの猟兵はカッコイイな、スヴェン、君はそう思わないか?」
北の街オウルに駐屯している仲間の狙撃兵が、スヴェン・イルマリネンに言った。
「そうかい? ドイツ人はユダヤ人を皆殺しにしてるんだろ? 戦争に勝ってもろくなことになりそうにないな」
「うーん、ユダヤ人はキリストを殺したんだから仕方ないんじゃないか?」

スヴェンはスオミのユダヤ人で、ドイツ人と一緒に戦った兵士を知っていた。そのユダヤ人は献身的な働きをしてドイツ軍を助けたので、驚くなかれ、ベルリンから勲章が届いた。しかし彼は、ドイツやドイツが支配する国々でユダヤ人がどんな目に遭っているか知っていたので、自分の出自を隠して勲章を辞退した。

ドイツの秘密警察(ゲシュタポ)とつるんだスオミの国家警察長官が、49人ばかりのユダヤ人をドイツに送還したが、それ以外のユダヤ人はスオミでは殺されていなかった。ゼロならもっと良いが、これは誇っていいのではないか? とスヴェンは雪のない春のオウルで考えた。

ドイツとスオミは協力して戦争に備えていたが、ドイツはロシアを倒し、スオミはロシアに冬戦争で取られた地を奪還したいと考えており、両者は基本的に別々の軍事作戦を行っていた。




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