第23話 月餅大戦争

文字数 1,163文字

 月餅、お好きですか。
日本において春にパン祭りがあるように、香港には秋に月餅祭りがあります。
重陽という旧暦の秋の節句をお祝いするもので、月餅とランタンが風物詩。
日本の月見団子とススキの飾りのようなものでしょうか。
混み合っている夏ではなく、秋に香港に行った者は、「あーあ、夏のセール終わっちまってるよなあ。まあでも、夏休み過ぎてるし人少ないからいいかなー。のんびりして・・・・」
なんて油断している。
(実際は中国の連休がありどっと人が動く。油断はできない)
そこにすかさず「月餅買っチャイナッッッ!!!!」とあちこちから営業がかかる。
「・・・・・・え・・・???月餅・・・????
普通の日本人は、月餅の事なんて年に一回も考えないと思う。そこに来て、ホテルでもレストランでもお菓子屋でもパン屋でも、月餅。
お月見団子のように、月餅食べるのが中華な伝統。
朝が弱い私、朝食をまともに食べれないので、香港人からは体が悪いのかとよく言われた。食えないというのは彼らにとって大事件。食事を抜くのは野蛮人という考え方なのです。
毎朝「シリアルくらい食え、あったかい牛乳入れてしばらく待ってふやかして食え」と病気の犬のように介護され。
ホテルの、朝食を食べる部屋で、お茶と焼き菓子を半分寝ている顔で食べていると、ずっしりと重い月餅をホテルのスタッフに手渡され。
「うっわ、重・・・。文鎮かと思ったわ。・・・何入ってんの、これ・・・」
「あんこ、ナッツ、ドライフルーツ、アヒルの塩漬け卵。ラードたっぷり」
「・・・うん。今は、いらないかな・・・」
ほら、もう、あったかいふやけたコーンフレークで精一杯だから、私・・・。
そっちのそれは冬山登山とかする時に持ってくわ。
「わかるわかる。でも無問題。若い人には、新しいアプローチしなくちゃな。伝統とは常に革新が必要。今はな、このチラシにある、アイスの月餅がヤングに人気で」
どうも今は雪見だいふく的な月餅もあって、カラフルでいろんな味があるらしい。
「・・・すごい。でも、二段十六個入りのアイスは観光客に売るもんじゃないでしょ・・・・」
ホテルの部屋の冷凍庫にも入らないサイズ。
はー、やれやれ。
「アンタ、ここでぼんやりお茶でもすすってなさいよ、私化粧して来るから」と部屋に一度戻った友達の手に、でっかい紙袋。
「ちょっと!!今、これ流行ってんだって!!!来年あたり、日本でも流行りそうじゃない?!
朝から一人8個づつ雪見だいふくを食べることに・・・・。
冷房はキンキンだし、なんか震えが止まらないよう・・・。
街中では月餅を巡って、あっちこっちの店が激しく競い・・・。
あちこちで「月餅買ったか?!」、「月餅は縁起がいいんだぞ!!」と勧められ。
ついには「月餅は体にいいんだぞ!!」。
もうプロパガンダに無理がある。
これはもう月餅大戦争。





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