7・大坂冬の陣

文字数 1,139文字

7・大坂冬の陣
2通目の古文書に書かれている文字列を目で解読しながら姉が言った。

「この文書を要約すると、国家安康の文字は、家康を呪詛した文字にはあらず。国家安康の言葉は、国家と朝廷の安泰を願う文字であり、中国古代の書『易経』や中国、明代の類書『事物紀元』に由来する、と書いてあるわ。
国家安康の文字は、大坂冬の陣の原因となったものでしょう。慶長19年(1614)年夏と書いてあるわ。」

姉は大坂冬の陣をネットで検索していた。
「大坂冬の陣は、慶長19年10月2日から攻撃が始まったと書いてある。つまり、大坂冬の陣が始まる前に、国家安康の言葉の意味が、中国の古典に由来することを気づいていた人がいるってことね。」

僕は驚いた。国家安康の文字が原因で大坂冬の陣が始まったと歴史の本には書かれている。
だが、その言葉は、紀元前の中国の古典に載っていたということだ。これには驚いた。

3通目の古文書を姉が解読し要約を教えてくれた。

2通目の古文書の内容を説明している時、姉の携帯電話が鳴った。
携帯の呼び出し音ではなくタイマーの音だ。
「あっ、幼稚園のお迎えの時間だ。」と言った。子どもが通園バスで自宅の前まで送ってくれるので、自宅の前で出迎えなければならない。
「残りの古文書はスマホで写真に撮っているからあとで内容を知らせるね。」
そう言い残して、青いシートから立ち上がりバタバタと地下室の階段を上り教会の外で出て行った。

あとに残されたヒロシさんと僕は、しばし呆然としていた。
ヒロシさんは、ジュネーブ聖書に強い関心を示し、僕は古文書の方に関心を持っていた。
「とにかく、できるだけ、いろんな角度から写真を撮っておこう。」とヒロシさんが言うので、僕とヒロシさんはそれぞれのスマホでジュネーブ聖書と古文書の写真をさまざまな額度から撮影した。

地下室に広げた青いシートを折りたたんで僕のリュックサックに入れた。
LEDランプの2個の明かりだけを残し残りの3台の照明を消した。
ヒロシさんは、ジュネーブ聖書と古文書を元の風呂敷に戻し、僕は「からくり箱」を解体した上蓋を箱の中に入れ、それぞれ風呂敷包みとからくり箱を手にもち、地下室の入口の扉にかんぬきをかけたあと、階段を上り、教会の礼拝堂に出た。外からはまぶしい光が差し込んでいた。
礼拝堂には、婦人会の方が5~6人いて礼拝堂の清掃をしていた。
僕とヒロシさんの2人で地下室の探査に入ることは、教会の月報にも書かれていたのでみんなが知っている。
「なんか収穫がありましたか?」
「秘密の箱を開くことはできたの?」
などと聞いてきた。
僕が、上蓋の開いたからくり箱を見せると、「うわーっ、開いたんだ。」と歓声が上がった。
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登場人物紹介

僕・大学4年生・菊地イチロー






佐藤ヒロシ・東京神学大学大学院生

菊地小百合・僕の姉

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