8・ジュネーブ聖書の発見を喜ぶ

文字数 1,100文字

8・ジュネーブ聖書の発見を喜ぶ
ひろしさんが「ジュネーブ聖書が出てきました」と言うと、みんなびっくりしていた。
だが、だれも本物のジュネーブ聖書だと思う人はいなかった。
どんなに貴重な聖書であるかは誰もが知っているからだ。それに、復刻版が出ていることも知っていたので、きっと復刻版だろうと誰しもが思っていた。
「なかに、古文書が3通入っていました。」ともヒロシさんが話した。
婦人会の人は、復刻版の中に入っていた昔の教会員が残した手紙だろうと思っていた。
「きっと、昔の教会員が残してくれたんだろうね。」
「その風呂敷包みの中に入っているのね。牧師館に届けるといいわ。」
そう、婦人会の佐瀬さんが言ってくれた。

牧師館は教会から少し離れた所にある。牧師先生は、教区の用事で今日夕方に戻ることは知っていた。
それで、とりあえず、牧師館に行って、牧師夫人に預けることにした。

教会から歩いているとき、
「この聖書が1560年の聖書だといいですね」と僕が言った。
「そうだね。1977年ジュネーブ聖書の復刻版を神学大学の図書館で直接手に触って見たことがあるけど、手触りが全然違う。牧師先生に調べてもらわないとわからないけど、かなり古いことは確かだね。」とヒロシさんが言った。

数日後、東北学院大学の礼拝堂の道路を挟んだ真向かいにあるパン工房「バースデー」でヒロシさんと待ち合わせをした。
パン工房は、東北学院ライトハウザー記念館という講義棟の西側の端にあるパン屋さんでイスもあり、主に東北学院の学生が利用しているが一般にも開放されているので、近所の方がよくパンを買いにくる。
パンを買うと無料のコーヒーもつくので、僕は授業の合間よくこの店を利用している。
教会には東京神学大学から派遣されてくる神学生のために宿泊する部屋があるので、教会に派遣されている間は、その部屋を利用している。近くの食堂や牧師館で食事にもなっているらしい。
大学は今は夏休み期間なので、パン工房「バースデー」には学生の利用がいつもより少ない。
だが、部活や図書館を利用している学生もいるので、それなりに店には学生がちらほらといた。
ヒロシさんとは、昼に待ち合わせをした。
僕は、ヒロシさんを待たせると悪いと思い10分ほど先に着いたがすでにヒロシさんが先に来ていた。
大学の礼拝堂が丸見える場所にヒロシさんが座っていた。
僕はサンドイッチとコーヒーのセットを注文してヒロシさんが座っている席に向かって歩くと、こっち、こっちと言って手招きをしていた。
僕が座る前に、ヒロシさんが「あのあと、大変だったんだよ」と声を弾ませていた。

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登場人物紹介

僕・大学4年生・菊地イチロー






佐藤ヒロシ・東京神学大学大学院生

菊地小百合・僕の姉

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