3・ジュネーブ聖書の発見

文字数 1,189文字

3・ジュネーブ聖書の発見
 ヒロシさんは、2時間ほどからくり箱と格闘していた。
 僕は、その間、ヘッドフォンをつけてリチャードクレーダーマンのピアノ音楽を聴いている。
 午前10時に地下室にはいった。時はすでに午後一時を回っていた。
 すでに3時間を経過していた。
 からくり箱の動画を見ながら、操作をしていると一本の組材が外れた、青いシートの上にポトリと落ちた。
ヒロシさんが「あっ、解けた」と叫んだ。
一本の組材が外れると次々外れた。上部の隙間から黒い物が見える。僕がライトで照らす。
「風呂敷のようなものが見える。何かを包んでいるのかな?」
ヒロシさんが上蓋をすべて外した。中に入っていた風呂敷包みを大事そうに両手で持ち、青いシートの上に置いた。
風呂敷包みの脇に3台のLEDランプで囲み明るく照らした。残りの二台は部屋の中央に置いてあるので、部屋全体が明るくなっている。僕はからくり箱をのぞきこんだ。
「何だろうね。中に何が入っているんだろう。」と僕が訊く。
「とにかく開けてみるよ」
ヒロシさんが、おそるおそる風呂敷包みを開いた。
「50年前にこのからくり箱を開けることはできなかったんだよね。すると、これは何年ぶりに開けられることになるんだろう?」
ヒロシさんが風呂敷包みを開いた。大きな黒い書物が出てきた。
「英文の聖書じゃないかな?」
ヒロシさんが本の扉を開くと、「あっ」という大きな声を上げた。
そして、「まさか、こんなことってある?」という声を発した。
ヒロシさんがあわててネットで何やら画像検索をしていた。
たしかに、開いた本の扉の部分には「BIBLE」と書いてある。
教会の地下室だから、聖書があってもおかしくない。
僕は、「教会の地下室から漫画本が出てきたらおかしいよね」と笑った。
教会の地下室から聖書が出てきても不思議はないのだ。
だが、ヒロシさんは声を震わせていた。
「この本、ただの聖書じゃないよ。1560年のジュネーヴ聖書だ。その可能性がある。」
「ジュネーヴ聖書って何?」
「1560年のジュネーヴ聖書って、プロテスタントの教会で初めて出版された本なんだ。欽定訳聖書が発行される50年も前に出版された聖書なんだ。この本と同時に出版された聖書は、アメリカ大陸が発見されたあと、メイフラワーでアメリカに持ち込まれた聖書の1冊なんだよ。」
「そんなに貴重な聖書がどうしてここにあるの?
聖書はなんども印刷されているから、後刷りってこともあるよね。」と僕が訊ねた。
「うん。その可能性はある。でも、この画像を見てみて。まったく同じだよ。」
ヒロシさんと僕は、スマホの画像を見た。
それは、シェークスピアが書き込みをした1560年ジュネーヴ聖書で、写真を拡大してみても同じに見える。
「とにかく、貴重なものかもしれないね。」とヒロシさんが言った。

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登場人物紹介

僕・大学4年生・菊地イチロー






佐藤ヒロシ・東京神学大学大学院生

菊地小百合・僕の姉

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