14・パイプオルガン

文字数 1,058文字

14・パイプオルガン
倉持さんが弾いていると思われる東北学院礼拝堂からのパイプオルガンの響きが、耳に心地よく響く。
3人そろって、会話を止めてパイプオルガンの演奏に聴き入った。

ルル・ルル・ルルというスマホの着信音が響いた。
ヒロシさんがスマホの画面を見てから、
「地元の河北新報WEB版に教会で発見された『ジュネーヴ聖書』のことが出ていますよ。」と言った。
僕と姉もすぐジュネーヴ聖書で検索すると同じニュースの画面が速報という形で流れている。

森の都教会で1560年ジュネーヴ聖書を発見。大坂の役の歴史が変わるか?
聖書に秘められた謎とミステリーの宝庫

というタイトルが表示された。牧師先生の意見も紹介されている。
「僕たちのことも出ているよ。」
「そうねえ、教会の青年2人って、あなたたちのことでしょう。」と姉が言った。

「バースデー」の店員さんがガラスの窓が大きく開いた。さわやかな夏の風が入ってくる。
同時に倉持さんの弾くパイプオルガンの音色が変わった。

聴いたことのある曲だ。姉が言った。
「この曲、大学の礼拝で聴いたことがあるわ。なんという曲なんでしょう?」
「バッハの小フーガとト短調という曲です。BWV番号578です。」とヒロシさんが即座に答えた。
「へえ、すぐわかるんですね。」と姉が感心した。ヒロシさんは続けて、
「さっきの曲が、バッハのバッサカリア・ハ短調BWV番号578です。」と前に流れた曲名も言った。
「さすが、東京神学大学の大学院性で牧師をめざしているだけあるんですね。」と姉が驚く。
「ビートルズの曲が好きな人が歌う歌詞を全部記憶しているのと同じだよ。」と僕が言うと、
「あんた、ビートルズの曲を全部知っているの?」
「いや、昔の曲だから2~3曲知っているだけだよ。」と答えた。

「1560年ジュネーヴ聖書を発見で教会も有名になるんじゃない?」
「教会の名前が知られて、若い人たちがたくさん来てくれるといいだけど。」と僕が答える。

「これから、新聞やテレビが取り上げるだろうから、教会地下室のミステリーツアーなんて、ことになるかなあ。」
姉はのんきにジュネーヴ聖書の発見をひとり楽しんでいるようだ。

ジュネーブ聖書の発見でヒロシさんと僕の仕事は「ザ・エンド」で、もう僕らの出番はない。
だが、地下室で発見されたジュネーブ聖書が日本に渡来し教会に収まるまでの経緯と3通の古文書のミステリアスなナゾ解きはこれから始まる。10年、20年、いやそれ以上かかるかも知れない。

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登場人物紹介

僕・大学4年生・菊地イチロー






佐藤ヒロシ・東京神学大学大学院生

菊地小百合・僕の姉

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