2・からくり箱

文字数 1,299文字

2・からくり箱
 ヒロシさんは京都大学を卒業後に東京神学大学に入って牧師をめざしている学生で、かつて「からくり箱」を開けたことがあるという。その話を聞いた長老の1人が、「神学生のヒロシさんに地下室のからくり箱を開けることに挑戦してもらってはどうか」ということが、地下室探査計画の発端らしい。ちょうど、地下室がどうなっているかも調べることになった。

地下室が水没しているのではないかという意見もあったが、地下室の底は傾斜し水はけ用の穴が開いており、その排水管は土管で広瀬川に流れ込むようになっているという。
 教会は広瀬川の河畔に立っているが、崖の上に立っており広瀬川までの高低差は20メートルほどあり、教会北の道路側から水が入ってきたとしても南側の広瀬川に流れていくので地下室にも水がたまらない構造になっていることは教会の建物の外観を見てもわかる。
 教会は六十代から九十歳代までの人が多く二十代の若者は少ない。地下室探査に若い女性が入ることを除くことになるので、二十代の若者はヒロシと僕を含めて4人だが他の2人は、夏休みで帰省中なので、結局ヒロシと僕が
探査係に指名された。
地下室の扉は昔の「かんぬき」という鍵だった。
ヒロシ「これは、明治時代以前の鍵だろうね。いやもっと昔かもしれない」
地下室にはスマホの電波が届かないので光ケーブルをつないで、地下室まで伸ばすことにした。こうすれば地下室の中でも「Wi-Fi」を使うことができる。
 常にWi-Fiのルータを側においてスマホで必要な情報を検索することができるようにした。
かんぬきを写真撮影し、ネットで画像検索をした。
「この形のかんぬきって、江戸時代の前から使われているよ」
「そんなに古いの?」

LEDランプを五台持参した。0.5ワットの使用電流で60ワットの明るさを出せる。
地下室は想像していた以上に広かった。
「どれくらいの広さなのだろう?」と僕が訊いた。
「ざっと、見て畳10枚位かな」
それにしても中はがらんどうで何もない。
「こうもりは飛んでいないけど、何もないね」
南側の壁に木製の扉があった。
「からくり箱ってあの中にあるんじゃないの?」と僕がライトの光を壁にあてた。
そこは、木製の扉は観音扉だった。開けると、中に「からくり箱」が置いてあった。
ヒロシさんが「これだ」と声をあげた。
地下室に青いシートを敷いて、その上に「からくり箱」を置いた。地下室から階段を上って礼拝堂に持ち込んでもよかったが、からくり箱の中から得体のしれない汚れた物が出てきた場合、礼拝堂の床を汚すことになり、からくり箱を開ける作業は地下室の中で完結させることに決めていた。たとえば、ネズミの死骸などが出てきた場合、他の教会員に叱られそうだ。
ヒロシさんがからくり箱を開ける前にさまざまな角度から眺めていた。事前に調べた「からくり箱」の画像やネット上に公開されている設計図面の画像を見ている。
「からくり箱はそんなに古いものじゃないんだよね。19世紀に箱根で作られた物が最初って書いてあるから。これは、明治の頃かなあ?」とつぶやいている。

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登場人物紹介

僕・大学4年生・菊地イチロー






佐藤ヒロシ・東京神学大学大学院生

菊地小百合・僕の姉

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