第15話

文字数 567文字

作品37 作品名 
   『言霊(ことだま)の墓』

 人混みが行き交う街。
 化粧をしていない白髪の老婆が歩いている。
 一歳の通信機器も身につけず、無防備に公道の真ん中を歩いている。
 誰も老婆に気付かない。
 よく見ると、その老婆は一世を風靡した大女優だった。
 先日、四十年以上昔に、匿名でアップした告白ブログが流出した。
 女優は淫らな不道徳者というレッテルを貼られてしまう。
 若かりし日のスキャンダル。
 婚約者が居ながら、別の男性との情事で感じてしまった事を赤裸々に綴ったブログだ。

 先週は、人権擁護団体の代表者が三十年前にインターネット上で発した言葉が原因で、幼児虐待の罪に問われた。
 言葉狩りが始まったのは二年前。
 表現規正法の施行後は犯罪が激減した。
 そして、今年になり、過去の発言が次々に流出している。

 かつて、人々にとってネットの世界は言葉のゴミ捨て場だった。
 吐き捨てたはずの言の葉の狂気が溢れ出す。
 葬り去ったはずの言霊が悪夢のように蘇る。

 ピィッロッ。
『貴方の発言は反社会的思想の為に共謀罪の恐れがあります』

 んっ。何だぁ、これっ。
 送信元は、政府推奨のニムロデ社が開発したアプリケーションからだった。
                            (了)


478文字
※あらすじ
ネットに残る膨大な過去の書き込みが今の生活を脅かす。

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