第4話

文字数 1,010文字

作品26 作品名 
『ラブレター』

 まだ見ぬ君へ。私は、あなた様への想いをいだいたまま、一万年の眠りにつきます。
 どうぞ、この想いを受け止めてください。
 恋しい、あなたに触れ、新しい未来を一緒に歩む事が出来ると信じています。
 愛しい、まだ見ぬ我が君へ。

「ハッハッハッハッ。何よ、この手紙。文章もダサいけど、紙に直筆の文字よ。古代人のセンスの無さには呆れたもんだわ」
「ねえ。どうすんのよ。こんなダサい古代人やめときなさいよ。また次に、ちょっとはマシな男がいるわよ」

 辛口の友人達は、散々、手紙の主をなじったわ。
 彼は一万年前の古代人の男性よ。冷凍保存されて眠っているの。
 年に一度、全国民の抽選に当選した現代人の女性が、冷凍保存された古代人の男性を一人解凍し、交配するのよ。

 私達人類は一万年前から絶滅種の保存計画というプロジェクトを行っているの。
 要は、一万年前に生息していた動植物を絶やさないという計画だわ。
 もちろん、私達人類も、その対象なの。
 なんたって、地球上のオスは全て消滅する運命なんだもの。
 生物の進化の過程で、遺伝子の多様化の為にオスとメスが出来たわ。でも、その時から解っていたの。オスのY遺伝子は消滅する運命だって。
 その運命に逆らう事に意味があるのかしら。
 現に、もう、始まっているわ。オスとメスの特徴を持った雌雄同種の新種の動物やオスとメスの二種類だけではなく、3~5種類の性を持つ複数生殖の動物が産まれているのよ。
 つまり、私たちのやっている事は、時の流れに逆行した野蛮な行為だと思うのよ。
 私達人類が絶滅するなら、その運命に従わないといけないと思うの。
 でも、私個人の主義主張は無視されるわ。政府の命令で、必ず古代人男性を一人、選ばなくてはいけないの。

「はぁ。もう、いいわ。私、このダサイ古代人に決めたわ」
「えぇー。いいの」「私は嫌だわ」
 ハイ、ハイ。どうせ誰を選んでも同じリアクションでしょう。

「おはよう。古代人さん。お目覚めかしら」

 んっん~。頭が痛い。そうか。多分、俺、一万年の冷凍保存から解凍されたんだ。
 ん?何だ!?目の前で私の事を覗き込んでいる、この体毛の無いゴリラは?凄い筋肉だなぁ。
 わぁ、なんだ。人間の言葉を喋っているぞ。
 まさか、こいつが一万年後の人類の女性の姿なのか。

 確かに。こうなる事は予想できたな。

(了)

946文字
※あらすじ
絶滅した男を待つ未来の女性の姿。




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