第6話

文字数 769文字

作品28 作品名 
『終活』

「本当にいいんですか。貴重な貴方のデーターですよ」
「イイんですよ。終活の準備です。きれいサッパリと整理したいんです。少なくともウェブ上に私という人間が存在した事を消し去って、無になりたいんです」
「でも、この御時世、ブログは無論、歯ブラシ一本買っただけの経済活動でも、その人間の痕跡が残るようにできてまして。完全には無理ですよ」
「何だか未練がましくて、嫌なんですよね。何とかならないですか」
「もしかしたら。一人だけ、天才が居るんですが。変人という噂ですよ。多分、この場所に行けば、その人に会えると思います」

 変人の天才科学者の研究所は、以外にも普通だった。
 本人も、ごく普通の青年だった。しかし、その青年科学者の話す内容は、私の想像もしなかった奇想天外な話だった。
「本来なら、僕の技術をもってすれば、人ひとりの生きた痕跡を地球上の全コンピューターから消し去る事ぐらい簡単さ。しかし、結局は出来ません。何故なら、僕達の存在自体、そして、この世界全てがマザーコンピューター上の仮想現実だからね。貴方も私も実体の無いコンピューターが作ったデーターに過ぎないんですよ」
「あっ。解りました。もう結構です」
 私は、早々に研究所を出た。やはり、彼は変人だった。

 彼の説によると、本物の人類は一万年前に既に絶滅したそうだ。
 絶滅前に人類は、過去数千年分の全人類のデーターをマザーコンピューターに取り込み、コンピューター上で人類の歴史を繰り返し上映しているのだという。

 今の私は、ただのデーターに過ぎず、本当の人間として生きた私は、数千年前に今の私と同じ生活をしていたというのだ。つまり、執着だらけの人類が行った終活の結果、私達が作られたとでもいうのか。
 やはり、彼は変人だ。

(了)

728文字
※あらすじ
人類終活の結果。


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