第1話

文字数 1,202文字

作品23 作品名 
『昔話』

 昔々ある所に、お爺さんと、お婆さんが住んでいました。
 お爺さんは、お婆さんに言いました。
「なぁ、婆さん、とうとう地球上で年寄りは、わしら二人だけになってしもうたのう」
「そうですねぇ、お爺さん。私達の同級生も幼馴染も、みーんな、細胞の不老処理を施して、肉体は若者のままですものねぇ」
「何でも、家畜にも、その不老処理というのをやっているそうだよ。婆さんは、わしと一緒に年寄りになって後悔していないかい」
「何を言っているんですか、お爺さん。随分前に、その事については、散々、話し合ったでしょうに。今でも後悔なんかしていないですよ。体の不自由さやモノの見方が変わっていくのも歳を重ねる事の醍醐味でしょう」

 地球上で最後の、お爺さんと、お婆さんは、いつものように縁側で日向ぼっこをしながら、お茶を飲んで会話をしていた。

「あっー。ここだ、ここだ。皆、こっち、こっち。居たよ、居たよ」
 一人の子供の呼び声で大勢の子供達が、お爺さんと、お婆さんの前に走り寄ってきました。

「あっー。本当だ、本当だ。こんなに、しわくちゃで古びた骨董品みたい」
「うわっ。年寄りって、こんな姿なんだ」
「えぇー。本当に生きているの。あっ、動ている」
 初めて年寄りを見た子供達は大騒ぎです。
 そのうち、一人の子供が、お爺さんと、お婆さんに向かって拝み始めました。
「お爺さん、お婆さん、どうか、お父さんと、お母さんが仲良くなりますように」
 子供は真剣に必死になって拝んでいます。
 お爺さんは子供に向かって言いました。
「わしらは神様じゃないし、祈られても何もしてやれんよ」
「どれ、こっちにおいでぇなぁ」
 お婆さんが子供を抱き寄せて、頭を撫でてやりながら言いました。
「大丈夫。心配せんでえぇよ。坊やは良い子じゃねぇ」
 すると、
「あぁー、イイなぁ、イイなぁ。私も、私も」「私も」「私も」
 大勢の子供達が次々に、お爺さんと、お婆さんにすり寄ってきたり、じゃれてきたりしました。

「おとっと。待っておくれ、わしらは年寄りじゃから簡単に骨が折れて、死んでしまうんじゃ。もうちょっと、ゆっくり、気遣いをしておくれ」
 お爺さんの一言で、静かになった子供達は今迄、体験した事の無い経験をしました。
 子供の自分より、弱い人間に気を使い、耳を傾け、相手のペースに合わせて過ごしました。
 子供達が、お爺さんと、お婆さんの世話や手伝いをしはじめたのです。

 やがて、その体験が評判を呼び、世界中から年寄りを見た事の無い人々が、お爺さんと、お婆さんに会いに来ました。
 やがて、細胞の不老処理をしない人が何人か現れ始めました。
 それから、どれだけの年月が過ぎたのでしょうか。
 今では、細胞の不老処理をする人は誰も居なくなりました。

(了)

1115文字
※あらすじ
未来の遠い昔、人間は不老を願っていた。しかし、また、弱々しい年寄りになる事を望んだ。





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