第2話

文字数 1,085文字

作品24 作品名 
『魂』

「あ~っ。よく寝た。さぁて、今日は何をしようかなぁ」
 私は心地よい目覚めをむかえて清々しい気分だった。
 今日は何か、良い事が起きるような予感がした。

「朝食が出来ました」
 アンドロイドが私の朝食を運んできた。私の唯一の話し相手だ。
 私が物心ついた頃から、このアンドロイドが私の世話を全て賄っている。
 この星で唯一人の人間である私にとっては、このアンドロイドは唯一の家族であり、教師であり、医師でもある。

「今日は大昔の恋愛小説でも読もうかなぁ。何かイイ本はあるかい」
 私がアンドロイドに尋ねると、アンドロイドは私に向って、思いもよらぬ事を言い出した。
「本日は読書をする事が出来ません。本日は特別な日です。貴方は本日で、人間としての生命活動を開始して25年になります。よって、本日をもって貴方の生命活動は終了いたします」
「はぁっー。何を言っているんだ。どういう事か全部、説明してくれ」
 アンドロイドは今まで話してくれなかった事まで、全て私の疑問に答えてくれた。
 つまり、私は罪人で、この星に一人で軟禁されているというのだ。
 信じられない。しかも1000年も昔の罪だという。馬鹿げた話だ。要約するとこういう事らしい。
 今から約1000年程前に、私のオリジナルが社会的に許されない罪を犯した。
 大昔は遺伝子操作をして、罪人の性格を変えて社会復帰させていたそうだ。
 しかし、やがて人類に絶滅の危機が訪れた。人類絶滅の危機は遺伝子操作の影響だと判明したのだ。
 そして、当時の人間達が考えたのは魂の再生だ。それは、一種の信仰に近い思考も働いたのかも知れない。
 私のオリジナルは1000年間軟禁の刑罰を言い渡され、即座に生命活動を停止させられた。
 そして、クローン人間を造り、刑務所である、この星に送られたのだ。
 クローン人間は人としての生命活動を始めて25年経過すると処分され、新たなクローン人間が造られる。
 私は、39世代目のクローンだそうだ。私の次の世代のクローン人間は、人として生命活動を始めて25年が経過すると、人間社会に復帰するという事だ。
 私は一世代早く、命を得てしまったらしい。

 しかし、私の魂は1000年前に比べて、社会に適応できるように再生したのだろうか。
 何しろ、1000年近く社会と関わらずに過ごしてきたのだから。
 そもそも、オリジナルの魂と、私の魂に繋がりがあるとは思えない。

 まったく、こんな馬鹿げた事を考えた、一般社会の人間達は、ろくでもねぇ奴らに違いない。

(了)

1000文字
※あらすじ
魂の再生を信じていた未来人の刑罰。

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