第１１話
文字数 1,971文字
作品33 作品名
『イブの林檎』
カチッ。カチャッ。カチャッ。カチッ。カチッ。
私のコンピューターと全世界のコンピューター・システムは繋がっている。
国境は存在しない。
今から数十年前に、神の啓示の如く示されたのが、ブロックチェーンという考え方だ。
そして、今、全世界の人間がブロックチェーンを利用して取引をしている。
私の取引は順調だ。
あれは一ヶ月ほど前の事だ。
あるメールが届いた。
ニムロデ社という会社が開発した『イブの林檎』というソフト。
『このソフトを貴方の要らない物と交換してください』という内容のメールだった。
私は自分で折った折り鶴一つを送付したら、本当にニムロデ社のソフトが入手できた。
このソフトを使うと、世界中の人々の欲求と、私の欲しい物を交換できるように、人工知能が導いてくれる。
カチッ。カチャッ。カチャッ。カチッ。カチッ。
「よしっ。今日はこれで完了」
私は、このタワーから一歩も外に出る事なく、取引を完了した。
今日の取引は三件。
まず、北海道の作家が作った彫刻品の所有権を私に所有権のある米十俵を交換した。
二件目の取引は、私に所有権の移った彫刻品と、中国の山奥にある別荘の所有権を交換した。
そして、三軒目の取引は、その別荘とアメリカにある百万ヘクタールの農地を交換したのだ。
ブロックチェーンの御蔭で、面倒な手続きも申請も必要ない。
全世界の人間が、自分のコンピューターで、全ての取引を認識している。
今、アメリカにある百万ヘクタールの農地は紛れもなく、私の所有物なのだ。
私はタワーの窓に映る東京の夜景を観ながらコーヒーを飲む。
今日は、米十俵の所有権で、地球の裏側にある広大な農地を手に入れた。
明日は、苗と自動農作機を手にいれれば、来年には、もっと多くの物が所有出来る筈だ。
何も私だけが、ズル賢く稼いでいる訳ではない。
ニムロデ社のソフトの御蔭で、取引がスムーズになったのだ。
自分のアイディア次第で何でも手に入る。
このソフトは、エデンの園でイブが食べた林檎だと言う人がいる。
詳しい事は分からないが、一度、食べた果実の味を人類は忘れない。
ビィーンボーッ。
電子メールが届いた。
私はメールを開き、拡張現実のシステムを作動させる。
私の部屋に、ホログラムが浮かびあがり、幼馴染のアキラが現れる。
「やぁ、健一、久しぶり」
「あぁ、アキラ。どうした、急に」
「うん。健一は、ニムロデ社のソフト、使っているか」
「もちろん。あのソフトの御蔭で大資産家になった気分だよ」
「うーん。俺、考えたんだけど、おかしくないか。世界中の人が大資産家になるはずないだろう」
「そうかなぁ。それぞれの人が、それぞれの分野の資産を所有して、全世界が調和を取ればいいんだろうう。だって、人工知能が間違いを犯すわけないろうが」
☆
私は、昨日のアキラの言葉を気にしながらも取引を続けた。
んー。農地の人気が高くならないな。今のうちに買い占めとくか。
待てよ。んっ。何で、古い工場の人気が高まっているんだ。
あっ。これはっ。細胞培養機器の人気が上がっている。そうかっ。
私は、今、所有している資産の全てを工場と細胞培養機器に交換した。
これからの時代、人類は工場で造られた人工食物を食べるのだ。
一つの細胞さえあれば、苗も肥料もいらない。効率的に上質の食物が手に入る。
これに勝る投資は無い筈だ。
☆
三週間後。私は手作りの葉巻。酒。絵画。多くの贅沢品に囲まれていた。
あの時、閃いて良かった。農地を持ったままだったら、大変な事になっていた。
コンピューターの画面を観ながら考えていた。
どうも、おかしいな。食物の出荷量が減りだしたぞ。
まさか、もう、食物に変わる、人類の新しい生命維持の方法が誕生したのか。
それとも、人工が減少しているのかも。
あっ。
私は奇妙な取引を発見した。
『貴方の意識と理想の世界を交換いたします』
その時、ニムロデ社のソフトが作動した。
『健一様。貴方の理想の世界は、どんな世界ですか』
何だこりゃ。
そうだな。今の生活に満足はしているが、しいて言うなら、美人で気立ての良い妻と可愛い子供が居たら満足だな。
『かしこまりました。貴方の意識と理想の世界を交換いたします』
はっ。どういう事だ。
うぉぁ。目の前が暗くなる。
呼吸が止まる。苦しくないぞ。
んっ。何だこりゃぁ。
目の前に美人と可愛い子供が現れて、笑っている。
『健一様の意識とニムロデ社作成の仮想現実世界の取引が成立しました』
(了)
1793文字
※あらすじ
健一はブロックチェーンを使い、物々交換をして、資産家になっていく。
ある日、ニムロデ社のソフトに意識を取り込まれて、現実世界から消えてゆく。
現実世界の資産や肉体と魂を交換する世界。
『イブの林檎』
カチッ。カチャッ。カチャッ。カチッ。カチッ。
私のコンピューターと全世界のコンピューター・システムは繋がっている。
国境は存在しない。
今から数十年前に、神の啓示の如く示されたのが、ブロックチェーンという考え方だ。
そして、今、全世界の人間がブロックチェーンを利用して取引をしている。
私の取引は順調だ。
あれは一ヶ月ほど前の事だ。
あるメールが届いた。
ニムロデ社という会社が開発した『イブの林檎』というソフト。
『このソフトを貴方の要らない物と交換してください』という内容のメールだった。
私は自分で折った折り鶴一つを送付したら、本当にニムロデ社のソフトが入手できた。
このソフトを使うと、世界中の人々の欲求と、私の欲しい物を交換できるように、人工知能が導いてくれる。
カチッ。カチャッ。カチャッ。カチッ。カチッ。
「よしっ。今日はこれで完了」
私は、このタワーから一歩も外に出る事なく、取引を完了した。
今日の取引は三件。
まず、北海道の作家が作った彫刻品の所有権を私に所有権のある米十俵を交換した。
二件目の取引は、私に所有権の移った彫刻品と、中国の山奥にある別荘の所有権を交換した。
そして、三軒目の取引は、その別荘とアメリカにある百万ヘクタールの農地を交換したのだ。
ブロックチェーンの御蔭で、面倒な手続きも申請も必要ない。
全世界の人間が、自分のコンピューターで、全ての取引を認識している。
今、アメリカにある百万ヘクタールの農地は紛れもなく、私の所有物なのだ。
私はタワーの窓に映る東京の夜景を観ながらコーヒーを飲む。
今日は、米十俵の所有権で、地球の裏側にある広大な農地を手に入れた。
明日は、苗と自動農作機を手にいれれば、来年には、もっと多くの物が所有出来る筈だ。
何も私だけが、ズル賢く稼いでいる訳ではない。
ニムロデ社のソフトの御蔭で、取引がスムーズになったのだ。
自分のアイディア次第で何でも手に入る。
このソフトは、エデンの園でイブが食べた林檎だと言う人がいる。
詳しい事は分からないが、一度、食べた果実の味を人類は忘れない。
ビィーンボーッ。
電子メールが届いた。
私はメールを開き、拡張現実のシステムを作動させる。
私の部屋に、ホログラムが浮かびあがり、幼馴染のアキラが現れる。
「やぁ、健一、久しぶり」
「あぁ、アキラ。どうした、急に」
「うん。健一は、ニムロデ社のソフト、使っているか」
「もちろん。あのソフトの御蔭で大資産家になった気分だよ」
「うーん。俺、考えたんだけど、おかしくないか。世界中の人が大資産家になるはずないだろう」
「そうかなぁ。それぞれの人が、それぞれの分野の資産を所有して、全世界が調和を取ればいいんだろうう。だって、人工知能が間違いを犯すわけないろうが」
☆
私は、昨日のアキラの言葉を気にしながらも取引を続けた。
んー。農地の人気が高くならないな。今のうちに買い占めとくか。
待てよ。んっ。何で、古い工場の人気が高まっているんだ。
あっ。これはっ。細胞培養機器の人気が上がっている。そうかっ。
私は、今、所有している資産の全てを工場と細胞培養機器に交換した。
これからの時代、人類は工場で造られた人工食物を食べるのだ。
一つの細胞さえあれば、苗も肥料もいらない。効率的に上質の食物が手に入る。
これに勝る投資は無い筈だ。
☆
三週間後。私は手作りの葉巻。酒。絵画。多くの贅沢品に囲まれていた。
あの時、閃いて良かった。農地を持ったままだったら、大変な事になっていた。
コンピューターの画面を観ながら考えていた。
どうも、おかしいな。食物の出荷量が減りだしたぞ。
まさか、もう、食物に変わる、人類の新しい生命維持の方法が誕生したのか。
それとも、人工が減少しているのかも。
あっ。
私は奇妙な取引を発見した。
『貴方の意識と理想の世界を交換いたします』
その時、ニムロデ社のソフトが作動した。
『健一様。貴方の理想の世界は、どんな世界ですか』
何だこりゃ。
そうだな。今の生活に満足はしているが、しいて言うなら、美人で気立ての良い妻と可愛い子供が居たら満足だな。
『かしこまりました。貴方の意識と理想の世界を交換いたします』
はっ。どういう事だ。
うぉぁ。目の前が暗くなる。
呼吸が止まる。苦しくないぞ。
んっ。何だこりゃぁ。
目の前に美人と可愛い子供が現れて、笑っている。
『健一様の意識とニムロデ社作成の仮想現実世界の取引が成立しました』
(了)
1793文字
※あらすじ
健一はブロックチェーンを使い、物々交換をして、資産家になっていく。
ある日、ニムロデ社のソフトに意識を取り込まれて、現実世界から消えてゆく。
現実世界の資産や肉体と魂を交換する世界。
