第24話 過去の写真と焼きもちと密かな動揺

文字数 978文字

「あ、これこれ」
 有希が一つの写真をクリックして拡大すると、湯気の立つビーフシチューの皿とともに、微笑む伸が写っている。
「この写真、僕のお気に入り。実はこれ、生野にしつこく言われて見せっちゃったんだ」
 伸は覚えていないのだが、生野というのは、有希に猛アタックした、彼のかつての同級生だ。すべて後から有希に聞いた。
「そうなの? なんだか恥ずかしいな」

「伸くんにもらったチェーンを失くして困っていたとき、見つけてもらって断れなかったんだよ」
 首元のプラチナのチェーンに触れながら、有希は、懐かしそうな顔で微笑んでいる。そして、意外なことを言った。
「内緒にしていたけど、あいつが引っ越した後、少しの間、連絡を取り合っていたんだ」
「えっ……そうなの?」
 ちくりと胸が痛む。表情に出たのか、有希が言った。
「あれ。伸くん焼きもち焼いてる?」
「そんな……」

 さらに有希は、にやにやしながら言う。
「生野に言われて、自撮りも送っちゃった」
 情けないことに、胸の中が波立って、とっさに言葉が出ない。有希が言う通り、この感情は紛れもない嫉妬だ。
 だが、有希が言った。
「勘違いしないで。生野が転校先で一目惚れしたって言って、恋愛相談を受けていたんだよ。
 伸くんも知っている通り、僕は伸くんとしか付き合ったことがないから、たいしたアドバイスは出来なかったけどね」
「そう……」


 深く傷ついた有希を守りたい。有希の心の傷を少しでも癒したい。有希のためなら、どんな困難にも全力で立ち向かう。
 そんなふうに思っていたくせに、こんな些細なことで動揺するなんて、本当に自分が情けない。
 有希のためだと言いながら、結局のところ、すべて自分のためなのだ。自分がそうしたいからする。そうせずにはいられないから。
 思いがけないところで自分の弱さとずるさを痛感し、伸は、さらに動揺する。
 
 
「伸くん?」
 名前を呼ばれて、我に返った。
「……あっ、うん?」
「怒った?」
 伸は笑って見せる。
「どうして。そんなわけないだろ」
「だって……」
「ユウの言う通り、焼きもち焼いたんだよ。でも、事情がわかったから、もう平気だよ」

 笑ってくれるかと思ったのに、有希は、悲しげな顔をしてうつむいた。
「ユウ?」
「あのときも……」
 言いかけて、有希は黙り込む。
「ユウ? あのときって?」
 伸がうながすと、有希はようやく話し始めた。
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