第81話 夕食の準備を母二人にまかせ部屋で有希を慰める伸と有希の心配

文字数 789文字

 麗衣が言った。
「安藤さんには、こちらの都合で休職していただいて、申し訳ないと思っています」
 その言葉に、有希がまた自分を責めるのではないかと思い、すでに話してあることだが、伸はもう一度、潤子に向かって言う。
「でも、ちゃんと手当はいただいているんだよ。俺のほうこそ申し訳なくて」
「お世話になっているんですもの。当然よ」
 麗衣が微笑む。
「これからもお二人には何かとお世話になると思いますけれど、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
 潤子がぺこりと頭を下げた。
 
 
 気にする必要はないと言っているのに、有希はしょんぼりしてしまい、なかなか涙が止まらない。それで伸は、有希を落ち着かせるために、いったん部屋に引き上げることにした。
 今日の夕食は、母二人が作ってくれるのだという。着いたばかりで、疲れているところ申し訳ないと思ったのだが、麗衣に、たまには料理を休んでのんびりするようにと言われてしまった。
 料理をすることは苦にならないし、むしろ今日は、二人のために腕を振るうつもりだったのだが。それに、毎日これ以上ないくらいにのんびりしている。
 
 
 ベッドに腰かけ、鼻をぐずぐず言わせている有希の横に座り、肩を抱き寄せる。
「ユウ。もう泣かないで」
「だって……」
「そんなに自分を責めなくていいんだよ。ユウのせいで困っている人なんて誰もいないんだから」
「でも、ダイニングバーの鈴木さんは、伸くんがいなくて困っているかも」

 伸は笑う。
「俺なんかよりいい料理人はいくらでもいるよ。何も心配いらない」
 一応休職という形になってはいるが、鈴木が半年も伸を待っていてくれるとは思わないし、そこまでの腕でもない。もうとっくに別の料理人を雇っていることだろう。
 おそらく、その辺りのことは、麗衣がうまく手配してくれたのではないかと思っている。
 伸は、有希の髪を撫でる。
「少し横になって休む?」
「うん……」
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